無双はNG
――あ、あれ? なんか雲行き怪しくない?
ギルドマスター達の反応に戸惑っていると隣に蒼兄さんが並ぶ。
「えーと…これは……」
「……分かってる。これは俺の責任でもある」
と言う蒼兄さんが更に「…失敗した」と呟き珍しく顔を歪めた。
グロウ君は本当に美味しいんだろう、マシュー君達のように夢中でサンドイッチを頬張り、そして、グロウ君以外の皆は難しい顔でサンドイッチを口にする。
サンドイッチは三角の普通の大きさなのだけど、一番長身のギルドマスターからしたら一口サイズに見えてしまう。
現にほぼ一口で食べ終えている。
ギルドマスターはそのまま二つ目には手を出さず、私達の側まで来た。
「これは私の独り言だ」
「?」
「昔、胡椒は何処でも手に入ったが、最近ではめっきり高級品になってな」
「えっと、私も独り言なんですけど、町の市場で売っているのを見かけたことがあるような…」
前にルナティオースの町の市場で、結構な量の胡椒が売られたいたのを見たので聞いてみた…いや、これはあくまでも独り言だ。
「あれは今でこそ〝胡椒〟として売られているが、あれは〝胡椒擬き〟と言われる物だ。10年前ぐらいから胡椒の生産の大半を占める国からの輸入が殆どなくなり、最近では全く輸入がない年もある」
ギルドマスターの話(独り言)では主な生産国である国で胡椒が取れなくなり、今では生産国内の中位貴族ですら手にしづらくなったとか。
「このフィデンリーザでも胡椒は僅かに生産されてはいるが、その九割方は王家と上位貴族行きだ。他国でも状況は似たり寄ったりだな」
胡椒は気候の関係で南の地域でしか栽培できない上に、自生の物も数を減らし滅多に取れなくなり、近年の魔物の増加や狂暴化で商人の往来も難しくなったと言う。
そんな独り言を呟く私達の後ろでは―――。
「お前ら自分達の分は食べたんだろ!」
「全然足りない!」
「大人なら、こういう時は育ち盛りの子供に譲れよ!!」
グロウ君とロイ君とルーク君がサンドイッチをめぐり言い合っている。
そして、その後方でミゲル君とマシュー君がウォルターさんからサンドイッチをこっそり貰っている。
「ウォルターさん、ありがとうございます」
「ウォルターしゃん、ありがとー」
「……あぁ…」
ウォルターさんは照れているようだ。
ギルドマスターがちらりと後ろを見ると、また直ぐに私達に視線を戻す。
「――全く彼奴らは……。兎に角、今は本物の胡椒は希少で高級品だ。むやみやたらに人前で出さない方がいい。特に商人や商人ギルドに知られると厄介な事になるぞ…あのソースもだ」
あのソースとはマヨネーズのことだ。
「君達はまだここに来て日が浅く、知らない事が多いだろうから覚えておくといい。後、我々にも気遣い感謝する……それと美味しかった…」
最後の一言は目を伏せ、振り向きざまに聞こえるか聞こえないかのギリギリの声で…そうしてギルドマスターの独り言は終わった。
私達は料理無双やその他諸々の無双はしないと事前に決めていたので、町に戻ったらもっと詳しく調べなければと更に心に決める。
町には図書館とかあるかな? 王都にはありそうなのでいずれは行きたいなと思った。
「グロウの成長期は終わっただろっ! だからくれっ!」
「やらないっ! 僕は大人だけど育ち盛りの成長期なんだ!!」
「やっぱうまっ!」
「「ロイ! ズルい!!」」
「お前らは少し静かにしろ!」
ギルドマスターがサンドイッチのお皿を取り上げていた。
「「えぇーっ」」
ロイ君はグロウ君とルーク君が言い合ってる最中にサンドイッチをしっかり3個もゲットしていて、マクシミリアンさん、ヨアヒムさん、ウォルターさん、グレンさんも自分達の分は確保していたようだ。
ギルドマスターは一つを手に取ると後の二つを大人しくしていたミゲル君とマシュー君に渡していた。
「「そんなぁー…」」
空のお皿を前にグロウ君とルーク君の哀しげな声が森に響いた。
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