賢者なんで
「シスター!!」
私の叫びも虚しく、シスターの顔色は青ざめていくのにあの痣が首元から、這い上がるようにシスターの頬へと伸びていく。
「しっかりしてくださいっ…シスター!」
シスターに呼びかけるも意識は戻らず、呼吸も浅く苦しそうにしている。
周りを見ても誰もが何も出来ずに、グロウ君も悔しげに顔を伏せていた。
シスターの顔色がみるみる無くなっていき、顔にも手にもミミズが這うように赤紫の痣が広がってくる。
もう一刻の猶予もない。
でもここにはギルドマスターにグレンさん、【深紅の薔薇】皆も神父様までいる。
例え全員部屋から出てもらってシスターの病気を治しても状況はそんなには変わらないだろう。
それなら――。
その間にもシスターの容態は悪くなるばかりで苦しそうな声も先程よりも弱くなってきている。
もう考えなくても、私の答えは決まっている。
私の聖魔法とシスターの命、どちらかなんて、そんなの彼女の命の方に決まっているのだ。
私はシスターの冷たくなりかけている手の上に自分の手を乗せ、目を閉じた。
――――が。
「…勝手に一人で決めるな」
蒼兄さんの手が私の手に重ねられ「次、やったら…分かってるな?」と誰にも聞こえない声量で怒られた。
これ、次、やったらがっつり説教コースのやつです。
蒼兄さんが「キュア」とわざと皆にも聞こえるように声を発して魔法を発動する。
シスターが白く淡い光に包まれると赤紫の痣が消え顔色も良くなってる。
「ソウ、これは…」
ギルドマスターが何とか言葉を絞り出すも他の皆は呆気にとられ呆然としていた。
「まぁ、賢者なんでね」
蒼兄さんが素っ気なく答える。
「………――――回復持ちの賢者なんぞ数百年前にいたと言われている大賢者以外聞いたことも無いがな……」
「という訳で皆さん。ここで見聞きしたことはくれぐれも口外しないようにお願いしますね」
唸るようにとんでもない話をするギルドマスターと、満面の笑顔でそれ以上の圧を放ちながらお願いという名の命令のようなモノがグレンさんから下されるが、勿論、誰一人として逆らう者はいない。
神父様ですら顔を青くして頷いていた。
そんなやり取りの後に扉の隙間から、丁度こちらを覗こうとしている男の子がいるのに気がつき声をかける。
「あのね、シスターもう大丈夫だから、みんなに教えてきてくれる?」
「ほ、ほんと!?」
「うん」
男の子が嬉しそうにみんなを呼びに行き、子供達が部屋に雪崩込んでくる。
「「「「「シスターっ」」」」」
「しっ、みんなシスターはまだ眠っているから静かにしないとダメよ」
「神父様、本当にシスターは大丈夫なの?」
「ああ。大丈夫だよ。…奇跡が起こったんだよ」
「ねぇ! それってもしかして、ケットシー!?」
年長の女の子の問いに神父様がこちらを見ながら〝奇跡〟と答えると、さっき扉から覗いていた男の子がまさかのケットシー発言。
私達=ケットシーなのか、それとも私の隣には常にクリスがいるからなのか、いつの間にかシスターの病気が治ったのはケットシーのおかげということになっていた。
因みにジル、チャッチャ、チッチャは部屋に入れなかったので廊下で待機中。
そして、子供達が静かにそれでも嬉しさで喜びあっている中、一人だけ浮かない顔でうさぎのぬいぐるみを抱き締めている小さな女の子がいた。
「どうしたの?」
「………」
「大丈夫? どこか痛いところが…「ルークおにいちゃんたちが………」
具合が悪いのかと声をかけると最初は黙り込んでいたのだけど、我慢出来ずに、けれど小さな声で答えるが最後の方は聞き取れない。
「ルークとロイにミゲルがいない!!」
「マシューもいません!」
グロウ君と神父様がルーク君達の名前を出すと、女の子が泣き出した。
「ルークおにいちゃんたちがマシューをさがしに町のお外にいっちゃったの…」
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