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漆黒のヴァルキュリア  作者: 月之黒猫
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人の口に戸は立てられない


 マクシミリアンさん達を見送る為に町に出る。



 本来ならこのマジックレアバードの依頼は冒険者ギルドと比較的仲の良い行商人達に頼む筈だったのだが、今、その行商人達は王都の竜騎士団の依頼でゴーストマウスを王都に運んでいる最中だ。

 ゴーストマウス搬送には竜騎士団自らが引き取りに来る話もあったらしいが、竜騎士団の偉い人の許可が下りずこの話は流れたという。



 その為、元々この依頼は【深紅の薔薇(クリムゾンローゼス)】に白羽の矢が立っていたのだけど、私達の件が重なり正式に二つの依頼を頼む事となった。

 彼らの収納鞄(マジックバッグ)は容量が多く、多少の時間経過減少が付く物をいくつか所持いているという。

 そのことも、この依頼を頼む要因だったらしい。



「「「………」」」



 明らかに町の人々の視線が今までとは違う事に嫌でも気づく。

 それはマクシミリアンさん達も気づいていて、終始苦笑いだった。




「では皆さん、お気をつけて」


「ああ、行ってくる」

「うん、じゃあ行ってくるから! レイ」

「レイちゃん、直ぐ帰ってくるから待っててね」

「…それでは…また」


 門の外には四頭の馬が用意されていて、彼らは私と挨拶を交わし終えると馬に跨がり颯爽とルナティオースを後にした。


 王都までの道のりは普通なら一週間近く程かかるらしいが、マクシミリアンさん達は数日で到着でき、王都にも長居はしないというので二週間もしないうちに戻れるとのこと。

 




 私達はマクシミリアンさん達を見送った後、街中へと出たのだけど…。


「なんか…いつも違う…よね?」


「どうやら一日も経たないで噂が広まったらしいな」



 嫌な感じは全く無いんだけど、何だかとてもむず痒くなってしまう。

 そして、よく見ると、まだ知らない人もいるのか近所の奥さんの井戸端会議「ちょっと、奥さんあの話、聞いた?」方式で広まっているみたい。


 中にはクリス達を拝む人まで出てきて、その多くは年配の方達だけど、一緒にいるお孫さんも真似て拝んでいるから可愛い。



 丁度、お昼も回ったので屋台に行ってみると、屋台の店主さんはいつも通りだけど少しそわそわしていて「お嬢ちゃんの従魔達はここの肉が気に入ってるのか」と聞いてきたので、とても気に入っていますと答えたら、それはもう大層な喜びようでお肉をいっぱいオマケしてくれた。


 その後の屋台でも同じことが起こり、泣いて喜ぶ店主さんまでいた。






「ちょっと食べ過ぎたかも…」


 どの屋台でもオマケを沢山頂いたので私のお腹はパンパンになっている。


 いつもの広場の隅で、お肉を沢山食べたクリス達やシオン達、兄達と共にのんびり休憩をしていると、元気のいい声が聞こえた。



「おっ! 魔獣使いのねーちゃん」


 声をかけてくれたのは孤児院のあの少年達だ。

 今日は三人だけで小さな男の子はいなかった。


「あー、今日はマシュー、あのちび助は置いてきた」

「あいつがいるとお使いが長引くしな」

「て言うのは建前で、お昼寝してるから起こさないようにしただけだよ」


 三人目の少年の言葉で前の二人の少年が「「それ言うなよ!」」と騒いでいる。


 あの男の子、マシューくんっていうんだと思っていると「そういえば俺達まだ名乗ってなかったな」と言ったのがルーク君でリーダーの男の子、赤みの強いオレンジの髪で金色に近い瞳、身長は私より少し低いぐらい。

 二人目の少年はロイ君で薄い栗色の髪で青い瞳、身長はルーク君と同じくらいでとても活発そうな子。

 三人目の少年はミゲル君で癖のあるフワフワの水色の髪と瞳、身長は二人よりも低く、その雰囲気は髪と同じくフワフワと不思議な感じだ。



 どうやら彼らの話を纏めると、今はシスターのお使いでマシューくんはお昼寝中だったので置いてきた、ということだ。


「最近さぁ、シスターの調子が悪くてさ。前はシスターが買い物とかしてたんだけど、今は俺達がしてんだ」


(やっぱり、結構良い子なんだね)

 って思っていると。



「まぁ、シスターも、もう若くないんだし、なるべく休んでもらってるんだ」

「ルーク君、それ、本人に言ったらダメなヤツだからね」

「ははっ、分かってるって」


(どうだか…)


「そっか、今度みんなの所に行こうかな思ってたけど、シスターの調子が良くなるまで待とうかな」


「そうだな。グロウが帰ってくる頃には良くなってるだろうから、またグロウと来いよ」


「うん。そうするね」



 それから、ルーク君達がクリス達を撫でたそうにしていたので、クリスが自分からルーク君達にすり寄っていくと彼らは大喜びで撫でて、お使いに戻っていった。




 この後は特に何もする事もなく、ギルドマスターからも暫くは大人しくした方がいいと言われているので、これからの数日は薬草採取や町周辺に出る魔物討伐をして過ごす事にしたのだった。









◇◇◇◇◇◇



 そして、あの事件から十日が過ぎた頃。



 テントから出ると訓練場には数人の冒険者が戦闘の訓練をしながらジロジロとこちらを見ている。

 あの事件の三日目の朝からずっとこの調子だ。

 彼らは、いつもこのギルドにいる冒険者達ではなく、全員が商人で冒険者と兼業している人達らしい。


 まるで商品の値踏みをする様な目付きで見られながら、彼らの横を通りすぎる。

 彼らは最初はクリス達を見ていたが、近頃は私も見ているようで凄く不愉快だけど兄達も間に入り庇ってくれて今では無視できるようになった。



 それでも少し不愉快な気持ちのままギルドホールに入り、依頼で出払った誰もいない酒場の椅子に座ろうと手をかけるとギルドの入り口が騒がしくなった。



「ただいま!! レイ!」


「グロウ君、お帰り。皆さんもお帰りなさい」


「レイちゃんただいま~、あ~疲れたぁ」

「お前らが早く帰るって張り切ったせいだろうが」

「ただ…いま…」


 グロウ君は比較的元気そうだけどマクシミリアンさん、ヨアヒムさん、ウォルターさんは少しお疲れらしい。



 暫しの再開を喜び酒場へ移動しようとした、その時。





「お願い…助けて! シスターが…シスターが!!」



 一人の少女が泣きながらギルドに駆け込んできた。












お読み頂きありがとうございました。

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