アビスマーダーキャット?の正体
「…それでは、どういう事か話を聞きたい」
今、私はギルドマスターの部屋のソファーでいつもの様に剛兄さんと蒼兄さんの間に――――…はいなかった。
『…………』
「チッチャ…」
私は部屋の隅で元気なく項垂れるチッチャに寄り添っていた。
勿論、チッチャの横、私がいる反対側にはチャッチャが座り、クリスとジルはその私達を守るように側にいてくれている。
私がギルドマスターの部屋に入るなり、チッチャの側にいたいと皆にお願いをしたら、ギルドマスターも兄達も我が儘を聞いてくれたので、私は今、チッチャを優しく撫でることが出来ている。
「「「………」」」
ギルドマスターもグレンさんも私達が話し出すのを待っているのだろう。
重苦しい沈黙が辺りを包む。
こちらから話し出す事はないと察したのか、先に口を開いたのはギルドマスターだった。
「…まぁ正直、色々と聞きたい事がありすぎて、何から聞いたらいいのやら…」
ギルドマスターは一度、目を閉じ一呼吸を置くと、ゆっくりと目を開き、兄達に目を向け、そして次に私へ鋭いエメラルドグリーンの視線を向けた。
「その従魔達はケットシーなのか?」
まさしく単刀直入な質問に、思わずチッチャを撫でる手が止まってしまった。
「「………」」
兄達は相変わらず黙りを続けているので、私も何も言わない。
チッチャがというよりも、私がやってしまったのだ。
もっと私がしっかりしていれば、もっと注意深く行動していれば……。
これ以上皆の、兄達の足を引っ張る訳にはいかない。
兄達のあの様子からすると、ただ黙っているというよりも何か考えているのか、斜め後ろから見える蒼兄さんの顔は何時もよりも硬い。
そして、またギルドマスターが何か言おうと口を開きかけた、その時。
『その問いには、僕が答えようか』
皆が一斉に、声の主を見やった。
「クリス!!」
『大丈夫よ。麗ねぇちゃ、クリスに任せましょ』
驚きで目を見張るギルドマスターとグレンさんを気にもすることなく、ジルがさらりと言う。
「クリス、本当に良いのか?」
『良いも何も、僕もジルも喋っちゃったしね。それに色々と手遅れの様だし…』
蒼兄さんとクリスの言葉を聞きチッチャが更に落ち込む。
『それに、麗ねぇちゃ達と共に行動するなら、いずれはこういう事になっただろうから。その為に、もう許しは貰っているんだ』
「許し…?」
『うん。ケットシーの王からの直々の許しだよ』
ギルドマスター達が驚きで息を呑むのが分かった。
「クリス、その許しというのは?」
『簡単に言えば、僕達だけはケットシーだってバレてもいいって事。だから僕達以外のケットシーは今まで通りでお願いできるかな』
クリスの視線は真っ直ぐにギルドマスターに向いている。
ギルドマスターも最初こそ驚いてはいたが、今はいつも通りで、こちらも真っ直ぐクリスを見ている。
「…分かった。しかし私は一介の冒険者ギルドのギルドマスターに過ぎない。何処まで君達の要望に答えられるか…」
『僕達のお願いを忘れないでいてくれるだけでも構わないよ。
まぁ、人間達が何をしようと彼らをどうにか出来る訳ないだろうけどね』
「忘れないよう心に留めておく。だが、一つ知っておいてほしい事がある」
『………』
「これから、君達に良からぬ事をしてくる者が少なからずいるだろう。しかし、大半の…特に市井の人間は君達の味方だ。多くの者達にとってケットシーは守り神の様なものだからな」
ギルドマスターは「それだけは分かってやってほしい」とクリス達に頭を下げていた。
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