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漆黒のヴァルキュリア  作者: 月之黒猫
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スライム

よろしくお願いいたします。


「気をつけて行くのよ」

「気をつけてな」

「うん、大丈夫だよ」


 ここから一番近くの町まで時間がかかりそうなので早朝に出発する事になった。


 両親がいつもより一層心配している。

 ここが異世界だということもあるのだが、別の理由…それは私達兄妹が遅くに授かった子供だからだ。

 剛兄さんが母が40歳、父が42歳の時に生まれ二年後に蒼兄さん、その三年後に私が生まれた。

 そのせいか両親から怒られた記憶が殆どなく、とても大切に育てられたと思う。


 その分、よく宿題をサボる私が兄達に怒られていた。


「剛、蒼、麗を頼んだぞ」

「……」(無言で頷く剛兄さん)

「分かってる」


「じゃあ、お父さんお母さん、行ってきまーす!」


「「いってらっしゃい」」


 両親に見送られ、クリス達は私達を乗せ走り出した。

 先頭はチッチャに乗る剛兄さん、次にクリスに乗る私と、その横をジルが並走し、私の後ろにチャッチャに乗る蒼兄さん。

 エクレアは剛兄さんの元で道案内している。


 深淵の森と言われているこの森は広さも巨大で奥に見える山脈と地続きになっていて、出てくる魔物もこの大陸でも最も強いという。

 私達の家は森の中腹の奥寄りで魔物もかなり強い…はず何だけど、魔物が出てこない。

 原因はデカいケットシー四匹。


 たまに逃げ遅れた魔物に出くわすもネコパンチ一発でおしまい。

 それを剛兄さんがアイテムボックスに放り込み、物凄いスピードで森を駆け抜ける。


 この調子だと人の足で一週間かかりそうな所を夕方には町に着きそうだ。


『この少し先に森が開けた場所がありますので、そこで一度休憩を取りましょう』


 エクレアの言うとおり森が開け草原なっている。

 かなり広い草原で遠くに森が見えるが、その一部は森が見えな所があるほど草原が広がっている。

 ちょうどお昼頃なので私達は軽い昼食、クリス達はがっつり昼食を食べる。


 昨日、母が部屋が埋め尽くされる量の食事を用意してくれた。

 三人なら半年は余裕な量だが、クリス達四匹を加えたら三ヶ月持つだろうか。

 殆どがレストランや専門店の物だが、おにぎりだけは母の握ったおにぎりだった。

 母曰く、おにぎりは握りたいなと思いながらスキルを使ったら自分が握ったおにぎりが出てきたから嬉しくなって、スキル使いまくっていたら半端ない量のおにぎりが出来たという。


「ほんとアイテムボックス様々だよね、容量無限大、時間停止だから幾らでも入るし出来立てで食べれるし」


 母のおにぎりを頬張りながらアイテムボックスに感謝する。

 クリス達もアイテムボックスと鑑定を所持しており、皆もれなく容量無限大、時間停止だ。

 兄達もおにぎり、クリス達は自分達で母にリクエストしていたお肉や甘い物を凄い勢いで平らげていた。


 こんな綺麗な草原で母のおにぎりを食べていると、何だがピクニックみたいで楽しくなってくる。


 昼食を終え、走り続けたクリス達を一時間ほど休ませる。


「エクレア、森を抜けるまで後どのくらいかかるの?」


 代わり映えしない森に、ちょっとだけ飽きたので聞いみる。


『このスピードだと一時間もしないで森を抜けれると思うのです』

「そっか、それなら本当に夕方までには町に着きそうだね」


 草の上でごろごろ日向ぼっこしながら休んでいるクリス達をもふり……いかんいかん、私まで寝ちゃいそう。


 皆を起こし出発の準備をしていた、その時である。




―――……た……け…―――


「……今、何か聞こえなかった?」

「…いや…」

「何も聞こえなかったぞ」


 クリス達も何も聞こえなかったらしく、皆一様に首を横に振る。

 猫は犬より耳が良いという。


 そのクリス達、ましてやケットシーである彼らが聞こえないと言うのなら、空耳だろうと準備を終えてクリスに乗り走り出した。



―――……助け……て…―――


「?!…待って、やっぱり何か聞こえる」


 クリスに止まってもらい、耳をすませる。

 兄達やクリス達もやはり何も聞こえないようだ。


「気配感知や索敵でも何も反応がないぞ」

「でも、今のははっきり聞こえたの、助けてって」


 兄達や私の気配感知、索敵でも何も引っ掛からないほど範囲外ならかなり遠くのはずだ。

 それにクリス達にも聞こえないのに、何で私にだけ聞こえるの?


「よく分かんないけど、早く助けてあげないと…何だか子供みたいな声で…」

「こんな所に子供なんている訳ないだろ」

「でも!……」


―――…助けて―――――


「?!…クリスあっちの方、急いで!」


 クリスが私の指差す方へ走り出すと同時にジルも駆け出す。


「おい!麗ッ!…ックソ、あのバカ!!」

「追うぞ…」


 声が聞こえたのは森が見えない草原の奥の方だ。

 走り出して暫くすると、気配感知に二つ反応があり目にも何か見えてきた。


「あれは……でっかい猪?!…しか見えない、すぐ近くにもう一つ反応があるのに…もう少し近くに行かなきゃ!」


 あの猪は森でネコパンチされてた猪よりも倍以上大きい。

 より近付くと猪の足下に何か見える。


「あれは…透き通った薄紫の……スライム?」


 猪と私の距離は20mほどで、スライムは猪の足下でぶるぶる震えている。



――…猪怖い…助けて…――


 声の主はやはりスライムで猪に襲われ逃げ回っていたのだ。


「今助けてあげるからね…」


 私は弓に矢をつがえる。


 猪は足下のスライムを踏み潰そうと夢中で前足を上げては振り下ろしている。

 それをスライムが必死に避け逃げ回っている。


 スライムはもう限界だろう。


 弓を引き狙いを定める。


「この距離なら…大丈夫…」


 矢を放つと矢は猪の目に見事命中し、猪は悲鳴をあげ後ずさると、そこへジルがスライムと猪の間に入りスライムを咥え、私の元に戻ってくる。


 と同時に猪が倒れ込む。


 よく見ると猪の首が無かった…首は少し離れた場所に落ちていた。

 どうやらジルがスライムと猪の間に入った瞬間に、水魔法のウォーターカッターを使ったらしい。

 うん、切り口がキレイ。



「麗!! あれほど勝手をするなと言っただろうが!!」

「ごっ…ごめんなさい!…その…つい夢中で…」


 兄達がいつの間にか追いついていた。


「…麗……」

「ひゃい!」


 だ、駄目だ…剛兄さんが怒ってる。

 私はのそりのそりとクリスから降り、兄達を見上げる。

 蒼兄さんは正しくカンカンに、剛兄さんは無表情なんだけど怒ってる、確実に二人とも怒ってる。


「お前…『ナァー』


 蒼兄さんの言葉をクリスがわざと猫なで声で遮り間に割って入り、ジルが私に咥えているスライムを見せてくる。

 私が慌てて手を差し出すとジルがスライムを私の手の上に乗せた。


「ごめんなさい!この子が助けを求めてた子なの…どうしても助けたくて…」


 薄紫のスライムはジルに食べられると思っていたのか暫く手の上で固まっていたが、大丈夫だと分かると次第にぷるぷる震え出した。


「スライムか」

「うん、スライムみたい。怪我もないし、思ったより元気そうで良かった」


 そして、これがまた可愛い。


 半透明の薄紫でぷるぷるで適度な弾力、手に吸い付くような肌触り、そしてぷるぷる!うん、ここ重要だから二回言った。


「…ぷるぷるで可愛い…可愛いけど仲間も心配してるかもしれないから、お家に帰してあげないとね」



 さぁお行きと、しゃがんで手を地面に近づける。

 スライムはぷるぷる震えるばかりで降りる気配がない。


「どうしたの?お家の場所分からないの?」 


 シーン…


「違うのか…じゃあ、仲間の所に帰りたい?」


 ぷるぷる


「そっか、じゃあ仲間の所に帰してあげるから…きゃっ!」


「おい!?」

「蒼兄さん、大丈夫だから…この子が急に飛びついてきて…あはは、ちょっ…くすぐったいよ!」


 スライムが急に胸に飛び込んできて、伸び上がり頬にスリスリしてきた。

 ダメだ…これは可愛すぎる。


 私は兄達に振り返ると…


 必殺、上目遣い!!


 「「…………」」


 兄達も大体予想できているのだろう。

 呆れた眼差しを向けてくる。





 そう、私は魔獣使いなのだ。



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