バレる
『これは麗ねぇちゃのにゃ! 僕があげたキレイな〝とっと〟にゃんだぞ! 絶対あげにゃいぞ!!』
『バカ!! 喋るな!』
『『………』』
しんとしたギルド内にチッチャと、それを叱るチャッチャの声がよく響く。
クリスとジルは心の中でため息を吐く。
「……喋った「にゃー! キレイなとっとは、あ、あげにゃいんだにゃ~…」
酒場の方から聞こえた、誰のものとも分からない声を遮り、私が喋ったように偽装工作をする。
またもや、しんとするギルド内で私はうにゃうにゃと必死に誤魔化す。
「にゃ~…キレイにゃとっとだにゃ~…にゃにゃ…に……」
静寂に響く私の〝にゃ〟。
蒼兄さんは額に手を当て下を向き、剛兄さんは仁王立ちのまま微動だにしない。
「―――魔物って喋るのか?」
「いや、知らねぇ」
「じゃあ魔物使いのスキルか?」
「俺の知り合いに魔物使いがいるが、そんなスキルは無いと思うぞ」
「けど、あの嬢ちゃん魔獣使いだろ」
「じゃあ、魔獣使いのスキルか?」
我慢出来なかったのか、私を無視して、とうとう冒険者達が声を上げ始めた。
ギルド内は先程の静寂と打って変わって今度は喧騒が支配する。
「まぁ、その昔、人語を話すドラゴンがいたらしいが…」
「大昔処か、おとぎ話だろ?」
「はは、そうだな。おとぎ話で猫が喋ると言ったらケットシーだな」
ケットシー。
その一言で、また静寂が訪れる。
「―――神獣ケットシー…」
「おいおいおい、まさか…」
「いや…あながち間違って無いかもな。俺の死んだばぁちゃんが言っていた。子供の頃、飼っていた猫がケットシーで、別れ際に喋ったと」
その話で一斉に視線がこちらに向けられる。
何とか必死に考えるが何も出てこない。
もう〝にゃ〟も出てこないかった。
「はぁ……」
そして、聞き覚えのある低いため息に身体が固まる。
恐る恐る首だけをため息の方に動かすと、ギルドマスターとその後ろにはグレンさん。
「み、見ました?」
「…見たし聞いた」
―――終わった。
これが詰みという状態なのね。
「レイ、君達に色々と聞きたい事がある。私の部屋へ来てくれ」
「えーと…今…ですか」
「今すぐだ」
ギルドマスターの声が低いし、その上グレンさんが笑顔だ。
「ちょっ、ちょっと待て! わしを無視するなっ! まだ話は終わってはおらん! 小娘!! 兎に角、フォーチュン・ブルーバードを寄越せっ!!」
男爵が近くいた私に掴みかかろうとするが…。
「いだだだっ」
蒼兄さんが私を後ろに引き寄せ、剛兄さんが私と男爵の間に入り、ギルドマスターが男爵の腕を捻り上げる。
これを三人は同時に、そして一瞬のうちにやってのける。
「男爵。彼女はあの鳥を売る気は無いようだ」
私がコクコクと首を縦に降ったのを見て、口の端を上げるギルドマスター。
「なので…お帰り願えますか」
「か、金なら…いくらでも」
ミシッ
「あだぁぁ―――…」
動かなくなった男爵、痛みで気を失ったみたいだ。
「だ、旦那様!」
「気を失っているだけだ。心配なら早く連れ帰るといい」
ギルドマスターは使用人に目を向け、次に酒場の方の誰を見てる。
すると酒場から男性三人が近づいてきて、その内の一人と一瞬だけ目が合った。
暗めの金髪で美しく整った顔の見た目は優しそうな人なのに、その薄い青の瞳を見た瞬間、寒気で震えた。
三人は直ぐに通り過ぎたので目が合ったのは一瞬だったけど、未だ震えが止まらない。
酒場から感じた嫌な視線の中にあった、一際ねっとりと絡みつく様な視線は間違いなく、この男だ。
「麗、大丈夫か?」
「…うん。大丈夫」
蒼兄さんは私の肩に手を置いていたから、震えていたのが分かったようだった。
私は心配かけまいと何とか震えを止め、蒼兄さんに返事をした。
一番大柄の男が男爵を担ぎ上げると、あの男ともう一人と使用人がギルドを出ていった。
「やっと出ていったか……では、こちらも行こうか」
ギルドマスターの有無を言わさぬ雰囲気に頷くしかない。
私達は、未だざわつくギルドホールからギルドマスターとグレンさんの後に続き、二階への階段を登った。
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