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漆黒のヴァルキュリア  作者: 月之黒猫
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それは禍、でも幸運。


 ()()はとても美しい〝青い鳥〟だった。





「マジックレアバードとは全然違うね」



「…【フォーチュン・ブルーバード】遭遇した者に幸運。…か」


「うん。それしか表示されないね」



 この青い鳥はフォーチュン・ブルーバードという魔物で、遭遇した者に幸運を与えるらしい。


 剛兄さんと蒼兄さんと私は顔を見合わせる。


 実に怪しいと。


 まぁ、見とれるほど綺麗だけど魔物だしね。



『このとっと、見つけたとき、すごくキレイだから麗ねぇちゃのためにとったにゃ。だから麗ねぇちゃにあげるにゃ!!』


「ほんとに? チッチャありがとっ」


 チッチャにおもいっきり抱きつきモフモフをたっぷり堪能すると、チッチャからフォーチュン・ブルーバードを受け取りアイテムボックスに入れた。


 その後は、また三人でマジックレアバード71匹を剛兄さん24匹、蒼兄さん24匹、私23匹となりゴーストマウス2匹は兄達のアイテムボックスへ。




 そして最後のマジックレアバード討伐の報告をするために、ルナティオースの町へ帰るのだった。






 ――この〝幸運〟の青い鳥が後々あんな〝(わざわい)〟を引き起こすなんて皆、思いもしなかった。












◇◇◇◇◇◇




「おいっ! 貴様っ! 聞いているのかっ!!」



 今、ルナティオースの冒険者ギルドのギルドマスター、マティアスと副マスター、グレンは目の前で唾を飛ばしながら喚く男に正直うんざりしていた。


 いや、最初から分かってはいたが、と付け加えておく。



「―――貴様はっ!! 昔からそうやってすかしおって……―――」




 ゴーミダゲス男爵。


 現男爵の父、今は亡き前男爵が商人から一代で功績を上げ、国王陛下から男爵を賜った家系の男。

 前男爵は勤勉で真面目な良き男爵だったが、その息子、目の前の男は見ての通りだ。



「――だからっ 聞いているのかと聞いておるっ!!」


「大声を上げなくでも聞こえています。フォレストグリーンサーペント、アビスブラックボアの件…ですね」


 マティアスの口調は丁寧だが、その声色はいつもより数段は低い。


 それに気づかないほど男爵は気が高ぶっていた。


「そうだ! フォレストグリーンサーペントもアビスブラックボアの肉もまた手に入ったのだろう? では何故もう無いのだ!!」


「臨時で手に入ったのではなく、依頼のものです。肉は依頼者に引き渡しました。もうギルドには一つも残っていません」


「だがっ 市場には出回っていたと聞く!」


「それは依頼者のご厚意で、その方が市場へ卸したと聞いています」


 この様子だと男爵は市場では肉を手に入れられなかったようだ。



「クソッ!!」


 男爵はバンッとテーブルを叩く。


 マティアスとグレンは大方、貴重な肉をあたかも、自分の功績で手に入れたように見せて高位貴族または王族、国王陛下に献上しようと画策したのだろう、と確信していた。




「――クソッ……待て、そういえば今、ゴーストマウスが出てマジックレアバードも討伐されていると耳にしたな」


 マティアスとグレンはため息が出そうになる。


「なら、マジックレアバードをいくつか寄越せ。いや、あるだけ寄越せば先程のことは許してやる「ゴーミダゲス男爵」


 更に低く恐ろしくなったマティアスの声に、鈍い男爵も流石に身を震わした。



「解体前のマジックレアバードに関しての取引は、討伐者と国に定められた組織以外の扱いは認められていない。…ご存知ですよね」


「ぐぅ…」


「マジックレアバードを手に入れたいのであれば、依頼を出すか解体後の素材を適正な価格で取引してください」


 もう三週間目なので依頼は殆ど無理だ。

 どうせ解体前のマジックレアバードを手に入れ、裏で高額な価格で捌こうとしたのだろう。



「いやいや、そんなこと言わずに…私と君の仲だろう? なぁマティアス…っ」


「…………」


 突然のマティアスの殺気に男爵の顔色は青を通り越し真っ白くなり、口から泡を吐き気絶しそうになる。


「だ、だ、旦那様っ!」


 余りの存在感の無さに誰も気づかなかったであろう、男爵の使用人がこちらも真っ白な顔で男爵に呼び掛ける。



「ひぃぃっ…ききき今日の所は…このくらいにしといてやるっ…おお覚えておれっ…!!」



 上手く腰が立たないのか使用人に支えられ、お決まりの決め台詞で逃げるように応接室から出ていく男爵。



「やり過ぎですよ。…まぁ本音を言えば全く足りないぐらいですが…」

「………」


 それを聞いたマティアスは心底、男爵を追い払ったのが自分で良かったと思った。

 グレンに任せたら男爵のショック死は免れない。



 面倒な事にならなくてホッとした。


 そして漸く一息つけると思った矢先、二人は何やらギルド内の雰囲気が異様な事に気づく。



 マティアスとグレンは顔を見合わせると応接室を飛び出した。










◇◆◇◆◇◆


 ―――今より時間は少し前。





「んー、やっと着いたぁ」


 深淵の森を出てから遅めのお昼ご飯を食べて少しの休憩を挟み、あまり急ぐ必要もないのでゆっくりと町へ向かった。


 町に到着して人々の注目を浴びつつ、ギルドに入ると妙にギルド内に人が多く普段と違う違和感に、言い知れぬ不安を抱く。


 受付の近くまで行くと違和感の正体が分かった。

 

 酒場から異様な視線を感じ、こっそり盗み見れば数人の知らない男性がこちらを伺い見ていたのだ。

 見た感じ冒険者のようなので依頼でこの町に来たのだろうか? 勿論、今までだって数多くの見知らぬ冒険者達がギルドに出入りしているが、この人達は何だか嫌な感じがした。


 突き刺さる視線に居心地の悪さを覚えれば、蒼兄さんがまた最初の時のように視線を遮ってくれる。


 それに酒場の奥のいつもの場所にはマクシミリアンさん達の姿も見え安心したのだが、マクシミリアンさん達も他のいつもの冒険者達も彼らを警戒しているようだ。




 彼らも気になるがそんな事も言っていられないので、受付へ行き蒼兄さんがマジックレアバード討伐の報告を受付の男性職員さんにしている。


 私はその横でエリーナさんにチッチャが倒したフォーチュン・ブルーバードのことを聞くことにする。


 町に着く前に皆で話し合って、フォーチュン・ブルーバードは、チッチャが私のためにと言ってくれたので素材は全て引き取ることにした。

 後はお肉は食べれるのかギルドに聞いてみることにしたのだ。



「あの、エリーナさん。知らない鳥の魔物を倒したんですが…」


「鳥の魔物ですか? ここに出せますか?」


「はい、大丈夫です。これなんですけど…」


 アイテムボックスからフォーチュン・ブルーバードを出してエリーナさんに見せる。


「えーと、…青いですね。これは…見たことないです……見たことない青い鳥……青い…青い…鳥?………っ!! ま、まさか?!」


 エリーナさんの顔色も青くなると、酒場でこちらの様子を見ていた人達もざわつき始める。






「クソッ!! 彼奴め! ギルドマスターになったからといって調子に乗りおってっ…全く…あの男がわしの、む「――旦那様!!」…になっていたかもと思うとゾッとする…ああ! お前はいつも騒がしいな! 今度は何だと……ひぃぃ! ま、魔物?!」


 背が小さく恰幅がよく頭も薄い宝石をジャラジャラ付けた身なりのいいおじさんが、怒鳴りながら二階から降りて来て、クリス達を見るなり驚いて足を踏み外し階段から転げ落ちた。


「旦那様!」

「な、なぜギルドに魔物がっ」


 お付きの人に支えられるが、元気よく立ち上がる。

 踏み外した階段も下から二段目なので、怪我もなさそうだ。


 私達はよく分からず呆気に取られていると。



「なぜ魔物がと聞いておるっ!! ふんっ これだから平民は………ん? この青い鳥は……なっ!!? ま、まさか! フォーチュン・ブルーバードかっ!!」


 私は思わずビクリとするが、おじさんは興奮していて気づいてない、良かった。


「はははっ! これは…最高に運が良い!! おい! 今すぐこれを売れ!!」

「お待ちください! 男爵! これはこちらの冒険者の物です!」

「何?! クソッ……おい! そこの小娘、これはわしが買ってやる。これだけあれば十分だろう」


 そう言って床に投げて捨てたのは金貨五枚。



 そして、男爵と呼ばれた男はフォーチュン・ブルーバードに手を伸ばす。



 私も奪われまいと手を伸ばすが…。






「それは売らな…『ダメにゃ! それは僕が麗ねぇちゃにあげたキレイな〝とっと〟なんだにゃ!! だから誰にもあげないんだにゃ!!』






 私や男爵より先に大きな黄色いモフモフが大声を上げながらフォーチュン・ブルーバードを奪い去っていた。












お読み頂きありがとうございました。

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