再びルナティオースの町へ
私達はルナティオースへの道のりの森を転移魔法でショートカットした。
この森の中なら人もいないので出口付近…それでも大事を取って出口の一km手前に転移して、無事に森を抜け町へと向かう。
草原を走って暫くするとルナティオースの町が見えてくる。
…と言っても壁が高くて町自体は見えないんけどね。
町に近付くと、門の前に人がちらほらと並んでいるので、私はクリスから降りて列へ並ぼうとすると…。
「お前は降りなくていいぞ」
「えぇー」
兄達は降りるのに私はそのままクリスの上に乗った状態で列に並ばされている。
蒼兄さんは「従魔の主なんだ。堂々としていろ」って言うけど、これではまるで晒し者の気分だ。
「あれが噂の…」
「…本当だったんだな」
それに、もう他の町で私達の噂が広まっているのか、行商人や旅人の様な人達からのヒソヒソ話と視線が集まるので、フードを更に深くかぶり直す。
(クリスに乗るのは好きだけど、これはなんか違う)
列は長くないので直ぐに門の前まで来ることができた。
よく見ると、いつもの門番さんだったので前のようにギルドカードを見せる。
「はい、大丈夫ですよ。…お帰りなさい」
「あ、ありがとうございます!」
思わぬ言葉に嬉しくて語尾が強くなってしまった。
町に入ると、驚く人、そんなに驚かない人で他の町から来たか、ルナティオースの町の人かがよく分かる。
そんな町の人達を横目に、先ず向かったのが冒険者ギルドだ。
ギルドへ入ると今日は昼過ぎだけど人が多いのか、酒場の方がざわざわしているが、こちらに気づくと少し違うざわつきになる。
受付カウンターまで行きエリーナさんに話しかける前に、奥から出てきた副ギルドマスターのグレンさんに声をかけられた。
「お久しぶりです。こちらに着いて早々に申し訳ないのですが、ギルドマスターがお呼びです」
「勿論、来てくださいますよね?」と言わんばかりの笑顔の圧が凄い。
美形の圧が恐い。
私には決定権がないので全て兄達に任せてクリスの側まで退散した。
グレンさんに付いていきギルドマスターの部屋までたどり着く。
「マスター。連れてきました」
「入れ」
部屋へ入るとギルドマスターが正面の机に向かい書類に目を通している。
「悪いな。直ぐに済ますから、そこに座って待っていてくれ」
書類に目を通したまま、私達にソファーに座るよう促すと暫しの沈黙が部屋を包む。
数分後、暇すぎてチャッチャとチッチャがじゃれ始めた矢先、仕事が一段落ついたのかギルドマスターが立ち上がり目の前のソファーに腰かける。
「その様子だと依頼は成功したようだな」
「ああ。達成報告しようとしたところで、ここに連れてこられた」
蒼兄さんが無表情で答える。
「それについては謝る」
私は蒼兄さんとギルドマスターの会話の途中で、自分がまたフードを被っていることに気づき慌ててフードを脱ぐと、ギルドマスターとグレンさんが目を見開いたのにも気づかずに、フードで乱れた前髪を直していた。
「…チッ……で、用件はなんだ」
またもや、暫しの沈黙が流れ、無表情の蒼兄さんと微笑ながら目が笑っていないギルドマスターが対峙する。
このピリピリが苦手。
(それに、さっき蒼兄さんの舌打ちが微かに聞こえたんだけど…気のせいかな?)
それを見兼ねたのか、グレンさんが用件を話始めた。
「一つ聞きたい事があります。あなた方が深淵の森にいる間、何か変わった事はありませんでしたか?」
(ドキッ……やっぱりこれって…ケルベロス達の事だよね)
ケルベロス達が深淵の森に入る前に、遠目だが人と遭遇したと話してくれたので、町やギルドに報告がいっている事を考えて一応、対策は練ってきている。
「………」
まぁ、対策っていうのも私は〝何も知らない顔をして黙っている〟だけなんだけど。
「特になかった。…何かあったのか?」
蒼兄さんが素知らぬ顔をしてグレンさん聞き、剛兄さんも…剛兄さんは何時も変わらないか。
「あなた方が深淵の森に向かってから数日後に魔獣出現の報告が入り調べたところ、手負いのケルベロスだと分かりました」
「ケルベロス……見ていないな。魔物の出が悪かったが、麗の従魔がいると何時もの事だからな」
「では、何も見なかったと?」
念を押してくるグレンさん。
「俺達はあまり奥には行っていない。あの広い森で、例え従魔達がケルベロスの所在を知っていたとしても、クリス達が主の麗を危険に晒す事は先ず無いだろうな」
「………そうか」
ギルドマスターもグレンさんも納得したのか、してないのか、表情からはよく分からないけど、大丈夫…かな。
「調べた者のよると、どうやらケルベロスは出血が酷いと報告を受けています。いくら魔獣ケルベロスといえども、そう長くはないとの事です」
(うん…私がケルベロスの怪我を治したから家でクッキーとケーキを食べながら、元気でピンピンしてるよ。やっぱり連れてこなくて良かった…)
「念のために一定期間、森への警戒は強めるが、君達も暫くは森へ行くのは控えてくれ」
「はい」
私が返事をしたところで、これで話は終わりとばかりに兄達が席を立つ。
ギルドマスターの部屋を出る前に、振り返りお辞儀をした。
「…それと…君達が無事で何よりだ」
驚いて顔を上げると、先程とは違う微笑のギルドマスターと一瞬だけ目が合ったのだった。
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