閑話 謎の旅人達
今年も残りわずかとなってまいりました。
皆様もお体にお気をつけてお過ごしくださいませ。
「ギ…ギルドマスターは…っ、いるか……った、大変だっ…」
日もだいぶ傾き冒険者達が依頼を終え、ちらほらと冒険者ギルド内の酒場に集まり始めた頃、一人の男が血相を変え息を切らしながらギルドに飛び込んできた。
「おっと? おめぇはラウルんとこのパーティーのリードじゃねぇか」
「いいからっ…ギルマスを…早くっ!! 緊急事態なんだよ!」
◇◇◇◇◇◇
「…おい…その書類の束はなんだ…」
「はい?」
副ギルドマスターのグレンがギルドマスターのマティアスの目の前に書類の束を置く。
「今さっき終わったばかり「終わってはいませんよ。私の所にはこれの倍以上はあるんですからね」
「もっと持って来ましょうか?」とにこやかに笑うグレンに何も言えず目を逸らすマティアス。
マティアスが大量の書類を前に意気消沈していると、勢いよくギルドマスターの部屋の扉が開かれる。
「マスター、た、大変です! 魔物が…上級と思われる魔物が町に近づいていると…」
「まさか…」
「本当の様なんです…副マスター、実はそれと――――…」
ギルド職員の話に二人は目を見張る。
「………」
「そんな事があり得るのですか…」
「ラウルもリードもB級冒険者でリードに至っては〝鷹の目〟の持ち主です。…パーティーメンバー全員も見たと言っています。後、リードが言うには彼らが町に到着するのは時間の問題らしく、それを聞いた【深紅の薔薇】が偵察に向かいました」
「そうか…マクシミリアンなら接触まで持ち込めるかも知れないな」
「……して、リードは?」
「今は酒場で休ませています」
「分かった。直接話を聞く」
マティアスが一階に降りるとリードは未だに息が整ってないらしく、酒場の椅子に座り込み下を向き苦しそうにしていた。
「大丈夫かリード、話せそうか?」
「ギ…ギルマス…平気…です」
リードは見た事を逐一述べ自らの見解をも語る。
「あれはデザートキャットやフォレストキャットなんかじゃない…マーダーキャットだ…それに普通の大きさじゃなかった…」
マーダーキャットの名に酒場がざわつく。
「……マーダーキャットよりも大きい…アビスマーダーキャットか」
「…俺はアビスマーダーキャットを見たことが無いが間違いない…と思う」
「そして、そのアビスマーダーキャットに人が騎乗していたと……」
マティアスの言葉に酒場が凍りつく。
「あぁ…間違いない。俺だけでなくラウル達も見ている…アビスマーダーキャット四匹にそれに騎乗する人影が三人…その内二人は大柄だったが、もう一人は子供の様だった」
「………魔族か?」
「いや…あの独特な魔力は感じなかった」
「おいおい、魔族じゃなきゃ何なんだよ」
「アビスマーダーキャットなんてバケモノ飼い慣らす人間がいるのか?」
「あれを従魔にするのは魔族でも無理だぞ」
酒場に集まった冒険者達が騒ぎだす。
「ギルマス!! 奴らがもう来ます!!」
そう叫びなからリードのパーティーのリーダー、ラウルと仲間達がギルドに駆け込む。
「早速ですね…」
「い、今はマクシミリアン達が奴らを引き留めている筈だが…もうそこまで来ている!」
「――そうか、じゃあ出迎えにでも行くか」
「では私は騎士団の方に話をつけて来ます」
「後は…マクシミリアンを信じるしかないな」
◇◇◇◇◇◇
町の様子はいつもと変わらず多くの人々が行き交っている。
彼らが来るであろう東門もまだ多くの人々が列を作っている。
「あれはここの冒険者ギルドのギルドマスターじゃないか?」
「兵も連れてるが何かあったのか?」
「あぁ例の曰く付きの男か」
「あの……嬢に………された…」
道行く人の噂話が聞こえてくるがマティアスは何処吹く風と聞き流し颯爽と通り過ぎる。
暫くすると街道から離れた場所に人影と大きな影が現れ、街道からは悲鳴や町に逃げ込もうする人々がちらほら見える。
「マクシミリアンは上手くやった様だな」
だんだんと近づくほどに問題の魔物はアビスマーダーキャットとの相違点が顕著になる。
「これは…どうしたものかな…」
もう少しで彼らはこの町にたどり着く。
「さて…鬼が出るか蛇が出るか」
今年も一年「漆黒のヴァルキュリア」をお読み頂き心より感謝申し上げます。
来年も、よろしくお願い致します。
皆様、どうぞ良いお年をお迎えください。




