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漆黒のヴァルキュリア  作者: 月之黒猫
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親と子

よろしくお願い致します。



 ルナティオースの町から家に戻って何日たったのか、ここ数日、両親とおたまと過ごす毎日はルナティオースにいた時間もそんなに長くはなかったのに、とても懐かしく思えた。





 今日も母の布団ダイブから一日が始まる。


 …もう慣れた。


 既に布団から逃げていたクリス達、シオン達を連れて一階に降り居間にたどり着くと、いつも通りみんな起きていて私が最後だ。


 テーブルには朝食とホールケーキ、これもいつも通り光景になっていて、何日か前からはホールケーキの量が明らかに増えている。



「本当にケルベロスちゃん達は甘いものが大好きなのねぇ」


 庭へと出る掃きだし窓からこちらを覗くケルベロスは、テーブルとソファーのローテーブルの色とりどりのホールケーキに夢中だ。

 ケルベロス達はお肉や野菜と色々なものを食べるが甘いものが兎に角大好きで、毎朝飽きもせずホールケーキを食べる剛兄さんととても気が合うようであっという間に仲良く一緒に食べるようになってしまった。



 これがホールケーキの増えた主な理由。


 蒼兄さんはもう諦めたらしくあちらこちらにあるケーキを無視している。



 私も一度、朝ご飯にホールケーキを試したけど、5号のチーズケーキがギリギリだった。

 普通なら太るのでこんなことしないんだけど私の固有スキル【戦乙女の加護】があるのでこんな無茶をしちゃったけど、やっぱり朝からは太る太らない以前にキツい。


 どうやら今日はケーキアイスもあって一口食べたケルベロスが、初めて食べたアイスの冷たさに驚きながらも気にいったようで、無我夢中で頬張ってる。


 あまりに美味しそうに食べるものだから、ケーキアイスなら朝でも6号くらいいけそうな気がしてきた。


(今度挑戦してみよっと)


 そんなことを思いながら焼いたサンマに醤油をかけ、たっぷりと大根おろしを乗せて口へと放り込んだ。









◇◇◇◇◇◇



「大丈夫? 忘れ物はない?」


「うん、大丈夫だよ」



 実は今日、お昼前には家を出発しルナティオースの町に戻ることになっている。


 二日前から町へ向かう準備を進めているが、今、私のアイテムボックスの中は大体が食料と日用品と大量のお菓子が占めている。


 本当はアイテムボックスが容量無限で時間停止なのだから、もっと…と思ったんだけど何時でも両親と物のやり取りが出来ることになったので、このぐらいとなった。





 魔法陣だけでなくヨモギとサクラも家に残る事になったのだ。



 今、目の前のテーブルの上ではシオン、アジサイ、カスミ、そしてヨモギとサクラが別れを惜しみ身を寄せあってプルプルと震えている。


「ヨモギちゃん、サクラちゃん、大丈夫よ。私達の世界には〝可愛い子には旅をさせよ〟って諺があるのよ。親元から旅立たせて厳しい経験を積ませるって意味なの」


「それに剛や蒼、クリス達だっているんだ。心配はいらないよ」


 母と父がヨモギとサクラに優しく語りかけ宥めていた。







◇◇◇◇◇◇



『剛、蒼……ちょっとこっちに来てなのです』


 麗がシオン達に気を取られている隙にエクレアがこっそりと剛と蒼を庭に呼び出していた。


「なんだ、エクレア」


『実は剛と蒼にお願いがあるのですよ』


「お願い?」


『はい、お願いというのは麗についてなのです』


「「………」」


 途端、剛と蒼の表情が険しくなる。

 が、エクレアは続ける。



『…これから先、何があっても出来る限り麗の思う通りにさせてほしいのです』


「…それはどういうことだ…」


『麗が感じた事、思った事を優先してほしいのです。シオン達やケルベロス…それとゴブリンの件のように……です』


「…それは俺達がこの世界に来た事と関係あるのか…」


「…………」


 珍しく詰め寄る剛と何も言わず考え込む蒼。 

 尻尾をふわりふわりと揺らしながら少し間を置きエクレアが口を開く。



『これ以上は言えない…と言うよりは()()()()()()()()()のです。貴方達家族がこの世界に来たはっきりとした理由は私にも分からないのです。…ですが麗についてはこれが最善の筈なのですよ』


「何故、それが最善だと言える? 麗について本当は何か知っているじゃないのか?」



『本当に何も…私の考えも憶測に過ぎないのです。……それに私達ケットシーにですら()()()()()()()()()()()()のです』



「「…………」」


 そのエクレアの言葉に剛と蒼は神獣ケットシーよりも〝大きな存在〟が見え隠れするような気がした。



「分かった…麗の事は善処する」


 剛もそれに頷く。


『感謝するのです。剛と蒼の負担は大きくなるのですが…』



 その大きくなる負担を考えると蒼は長いため息を吐いた。



◇◇◇◇◇◇








「あれ? みんなで何してるの?」

「何でもない」

「?」


 そう言うと兄達は部屋の中へと入って行き、エクレアを見ても可愛く首を傾げるだけだった。






◇◇◇



―――庭の隅にて―――



『…ふむ…』

『やはり…そう言う事か』

『えっえっ、なにがなにがぁ?』


『………』


『猫又よ。貴殿は知っておられたか』


『知らん。わしゃこの世界(ユグガルド)の者ではないからな』


『……どうだか…』



『じゃが、麗は麗じゃ。何も変わらん』


『『確かに…』』



『ねぇねぇ、これ何の話ぃ~』






◇◇◇



 何時もより早めに昼食を取り、町へ出発する準備も済ませる。



「うぅ~、やっぱり行っちゃうのね」


「もう、泣かないでよー」


「だって~」


 先程はヨモギとサクラを慰めていたのに、今は母に抱きかかえられているヨモギとサクラが触手のように伸びる手で母をヨシヨシしている。


「ホント大丈夫だよ。魔法陣だってあるし、ヨモギとサクラに手紙を届けることだって出来るんだからね」


 シオン達のアイテムボックスを使い、両親の元にいるヨモギ達に手紙やメモを送り常に連絡を取ることが可能になった。



「気をつけて行くんだぞ。ほら、母さんも」


「うぅ~、いってらっしゃい…グス」


「それじゃあ、いってきまーす」




 ヨモギとサクラにヨシヨシされてだいぶ落ち着いた母と冷静に見えて内心落ち着かない父、大欠伸のおたま、お澄ましさんなエクレア、大人しいケルベロスに見送られ町を目指し家を後にした。









次回から閑話を三話ほど投稿します。


お読み頂きありがとうございました。

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