隣国と狩りと
よろしくお願い致します。
ケルベロス達が語った話はとても酷いものだった。
『我らは…人間達に棲家を追われた。あの傷はその時のものだ』
ケルベロス達は住んでいた森を人の手によって壊され傷を負ったらしい。
森の奥には多くの魔物が、浅い場所には普通の動物達もいたがその出来事により動物も魔物も数多く命を落とし、森の木も切り倒され火も放たれたという。
「そんな……」
『我らは人を襲わなかった。森の魔物どもも強く狂暴な奴はなく、森に人が入り攻撃を仕掛けなければわざわざ襲いもしない。だが…』
『人間が急に襲って来たんじゃな』
『うむ』
大勢の人達がいきなり襲いかかり攻撃をしてきて目当ては魔物だったらしいが、逃げ惑う動物達も巻き添えになったそうだ。
『襲って来た人間は冒険者もいたが多くは兵士のようだった』
「国で動いたのか…どこの国か分かるか?」
蒼兄さんの問いにケルベロス達は首を横に振る。
『我らは人間に興味も関わりも持たなかった。森があった国も分からぬ』
「せめて森の名前が分かればいいんだが…」
『森の名前なら知ってるよぉ』
『何!?』
『何故早く言わぬ!』
『えぇ、だってぇ~』
ケルベロス達が揉め初めてしまった。
「ケル、スー、落ち着いて! ベロ、怒らないから森の名前教えてくれる?」
ケルとスーに怒られてすっかり落ち込んだベロに優しく話しかける。
『うん。あの森は〝ルルファの森〟って人間達が言ってたよぉ』
『ルルファの森なら、その人間達は神聖ゲルドルファ王国の者達なのです』
神聖ゲルドルファ王国とは、今私達がいるフィデンリーザ王国の隣国に位置する国の一つで聖女様がいる国でもあるとエクレアが教えてくれた。
ルルファの森は神聖ゲルドルファ王国の中にあり他国の場合だと戦争になりかねない事なので、その可能性は極めて低い。
「でも、聖女様がいる国なんでしょ? その国がそんな酷い事するなんて…」
『神聖ゲルドルファ王国は名の通り王政制度なのですが其の実、影では聖女をかかえるラテカ教が王族よりも権力を持つそうなのです』
なんか怪しい話になってきた。
兄達や両親も同じなようで皆、顔をしかめている。
『私もラテカ教についてはよく知らないのです。ですが前聖女がいた数十年もの間はこの様な事はなかったのです』
「てことは、今の聖女が関係してるのか」
『それについても…。私がいない間に聖女が交代したので、今の聖女のことは分からないのです』
今のところ、よく状況が分からないので神聖ゲルドルファ王国やラテカ教、聖女様には関わらない方がいいかな。
ケルベロス達もそれでいいと言うので皆で隣国には関わらないと決めた。
そして今日は色々とあったので狩りは明日という事になり、私はこの後ケル、ベロ、スーやクリス、ジル、チャッチャ、チッチャをもふもふと撫で回し、シオン、アジサイ、カスミ、サクラ、ヨモギをぷるぷると撫でるので大忙しとなったのだった。
◇◇◇◇◇◇
次の日、また母の布団ダイブで起こされ眠たい目を擦りながら起きる。
クリス達はまたも直前で布団ダイブから逃げているので無事だ。
そして今日も朝の食卓にはホールケーキが並んでいて、若干昨日より数が多いような気がしないでもない。
早速、剛兄さんが7号の抹茶のケーキとチョコレートモンブランと8号のティラミスをソファーのテーブルに持っていく。
私も食後にと狙っていたティラミスを持っていかれたので、残念と思いつつ後で母にお願いしておこうと企む。
蒼兄さんはケーキを見ないように黙々とカレーライスを食べている。
ケーキの甘い匂いをカレーの匂いでかき消そうという狙いなのかな。
匂いが混ざったらもっとアレなんじゃないかなと思ったが口には出さず、私は焼いた大きなホッケの開きと沢庵とお味噌汁でご飯をいただいた。
◇◇◇◇◇◇
私達は食後の休憩をして両親とおたま、ケルベロス達に見送られ狩りに出発した。
「…麗、どうした?…」
今は森の少し開けた場所で魔物達の動きを探りがてら休憩しているのだが、剛兄さんから声をかけられる。
私の微妙な変化に気づいて声をかけてきたのだ。
「…うん」
私の様子に逸早く気づいたのはクリスで、いつもよりピッタリと私に寄り添っている。
蒼兄さんも微妙な表情で様子を伺っていた。
昨日ケルベロス達の話を聞いたその夜、ふと、頭に過ったのだ。
「…なんだか隣国と同じ事してるの…かな? って……」
「隣国の奴らが何を考えているかは分からないが…お前は同じだと思うか?」
蒼兄さんにそんな風に聞かれるが、私もよく分からない。
私が首を横に振ると剛兄さんが私の隣に座り俯く頭を撫でてくれる。
「俺達は隣国とは違う。森の木も切り倒さないし森を焼き払いもしない。それに目的の魔物以外倒さないし数も最小限って決めただろ?」
「うん…」
「まぁ、襲ってくれば話は別だがな」
蒼兄さんは私の前で片膝を付くように屈むと私の顔を覗き込む。
「ケルベロスの話を聞く限り奴らの行動には明らかに悪意がある。それはただの殺戮だ」
私が顔を上げると蒼兄さんが珍しく優しく微笑む。
「大丈夫。俺達は違う」
「うん」
頷いて微笑み返すと「なら、そろそろ行くぞ」といつもの蒼兄さんに戻っている。
色々と思うと、やはりチクリと胸が痛むがそれを振り払いすり寄るクリスに抱きついて、目的のために彼に乗り走り出した。
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