森にいるのは…
よろしくお願いいたします。
「おたま、森に何がいるの?」
『知らん』
「「はぁ!?」」
私と蒼兄さんは思わずハモってしまう。
『わしがこっちの魔物など知るわけなかろうが』
私はあまりの事に唖然としてしまうが、確かにおたまは元の世界の妖怪猫又なのでユグガルドの魔物は知らないだろう。
『じゃが…その魔物、大きな力はあるが何かおかしいのじゃ』
「おかしいって?」
『うむ、力が不安定な上に生命力が弱まっているようじゃ。それでも、他の魔物は奴を恐れて身を隠しておる。まだまだ力の差は大きいからの』
「居場所はわかるのか?」
『ここからは遠いの。近くへ寄らんかぎり大事ないと思うが狩りは苦労するかも知れん』
それを聞き兄達は狩りについて今後どうするか話し合ってる。
私は横で兄達の話を聞いているだけなのだが、ふと気づくと母が台所に立って何かしていた。
「なにしてるの?」
「なんだか急にお菓子を作りたくなっちゃったのよね」
最近スキルに頼りすぎて何も作ってないからと言う母に、私はあるお菓子をリクエストする。
「それなら蜂蜜クッキー食べたい!」
「あら、久しぶりねぇ。いいわ、それにしましょう!」
とても簡単に出来るクッキーなので幼い頃、母と一緒によく作っていた。
「チャッチャ、出来たらあげるから大人しくしててね」
『はーい』
甘い物が大好きなチャッチャに穴があくほど見られながら、母と一緒に蜂蜜クッキー作りに勤しんだ。
クッキーが焼きあがり冷ました物をチャッチャやクリス達に食べさせ、話し合いの最中にチラチラとこちらを気にしていた剛兄さんにクッキーを持っていく。
「蒼兄さんの分もあるからね」
「クッキーか」
「要らないなら…「食べないとは言っていない」
蒼兄さんはなんだかんだでクッキーに手を伸ばし「相変わらず形が歪だな」と型を使わず焼いたクッキーに文句を言い口に放り込む。
勿論、形を作ったのは私だ。
残念な形のクッキーばかりだが味や焼き加減は母担当だったので美味しさは保証されている。
悔しいが仕方がない。
父や剛兄さんのように大人しく食べて欲しいものだ。
午後から依頼の魔物を様子を見ながら探す事になり、私達は昼食と出かける準備を済ませた。
「じゃあ、行くね」
「待って麗ちゃん、さっき焼いたクッキーよ。おやつに食べてね」
母が先程、大量に焼いた蜂蜜クッキーを大きな袋に詰めて持ってくる。
久しぶりに蜂蜜クッキーを母と一緒に作るのが楽しすぎて、気づけば物凄い量のクッキーが出来上がっていたのだ。
「母さん、全部持たせるのか」
「そうよ」
「私の分は…」
「あら、それならお父さんの分はこれから作るわね」
「いや、できれば麗の…」
「お父さんは私のクッキーじゃ嫌なのね…ううっ」
「いやいやいや! 母さんのが食べたい!」
「「「………」」」
泣き真似をする母と慌てる父を残し出発した。
『もう少し山脈側に行けばアビスブラックボアもフォレストグリーンサーペントも見つかるかも知れないのです』
少しは案内出来るかもしれないと付いてきたエクレアが道を指し示す。
どうやら問題の魔物は近くにはいない様なのだが、ここらの魔物達はやはり隠れているのかさっぱり見つからない。
この辺りで切り上げるかと話していた、その時―――。
――…お腹すいたぁ――
「!!?……」
「どうした?」
「?! えっと…」
驚いて周りをキョロキョロと見渡す私に気づき蒼兄さんが声をかける。
「何か…声が聞こえたんだけど…」
「俺は聞こえなかったが…またか」
剛兄さんも聞こえなかった様で首を横に振っている。
――人間に不覚を取るなど…――
「やっぱり聞こえる」
声はクリス達や兄達にも聞こえていない。
そして私は自分がいつの間にか森の南の方を見ていることに気づく。
『気になるのですね』
「うん…」
――まだだ……まだ死ねない――
「ねぇ、蒼兄さん…」
「麗…」
『気になるなら行ってみるのです』
「おい、エクレア!」
『大丈夫なのです』
「お願い剛兄さん…」
「………」
剛兄さんは無言ながらも頷く。
「剛兄!」
私は剛兄さんお礼を言い、クリスに乗り走り出した。
「あぁ…くそっ…あの馬鹿!」
森の中を駆けること数十分。
どうやら私達は問題の魔物の元に向かっているらしい。
兄達はとっくに気づいていて
後ろから緊張感が伝わってきた。
不気味なぐらい魔物にも出会うことなく、それから程なくして森が開けた場所に出る。
異様な静寂が辺りを包む。
開けた場所には私の膝下ぐらいの草花が生い茂り、奥には巨大な岩が鎮座し、その下に黒い塊の様な物があった。
黒い塊は岩と比べると小さいが、遠目から見てもクリス程の大きさがあることが分かる。
私は黒い塊に吸い寄せられる様に足を動かしていた。
「待て!! 麗!」
『蒼、麗は大丈夫なのです』
「…蒼、いつでも動ける様にしておけ…」
「……分かった」
黒い塊はすでに私達に気づいており、近づく度に唸り声が大きくなる。
「あの…私は人間だけど、貴方に危害を加えないから安心して」
『グルル…』
「怪我してるんだよね。私、手当てできるから側に行ってもいいかな?」
『グルルルル…』
唸られているのに恐くなかったのはすぐ後ろにクリスがいるのと、少し離れた所には兄達とジル達もいるからだろう。
それに何だか彼らはシオン達の様に他の魔物とは違う気がするのだ。
―――我らにはまだやり残した事がある―――
そして私は彼らと目が合った。
◇◇◇◇◇◇
マティアスは机上のあまり減らない書類と格闘しながら昨日の事を思い出す。
元々、事務作業は得意ではなかった上に魔獣出現の報告と長引く異様な感覚に目の前の仕事に集中出来ないでいる。
(あれからまだ胸のざわめきが治まらない。今までと違う…こんなに長く続くことも、痛みや苦しさでも無いこの感覚も…)
「…魔獣……」
深淵の森に逃げ込めば冒険者といえども対処は難しく、その上魔獣となれば多くの上位冒険者と多大な犠牲は免れない。
更に今は深淵の森にはレイ達がいるのがマティアスの気掛かりだった。
「今、深淵の森には三兄妹がいる。…まぁ、あの兄達とアビスマーダーキャットがいれば心配はないとは思うが…」
マティアスはため息を吐き胸を押さえ込み独りごちる。
「…―――三つ首の魔獣か…」
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