帰省
よろしくお願いいたします。
「起きろ。麗」
「うぅ…ちょっと早くない?」
「今日は少し早めに町を出るから朝が早いと言ってあっただろ」
「んー…そんなこと言ってたっけ」
「全く…」
蒼兄さんはため息を吐きながらも私が起きたのを確認するとベッドから離れていった。
◇◆◇◆◇
―――昨日はあれから…
ギルドを出てグロウ君とヨアヒムさんが次はどこに行くか中央の広場まで揉めながら歩いてたり、またいつの間にかギルドマスターが戻って来ていたりして結局、私達はギルドマスターに連れられて北地区にある小高い丘にいた。
丘にはとても大きな一本の木があり、丘を壁側に下ると小規模だけど壁に沿って森も広がっている。
壁内の森だから勿論のこと魔物は出ず、小さな野生動物や野鳥がいるらしい。
ここは貴族やお金持ちの人が多い北地区にある為か一般の人達はほぼ入れなく、かといって貴族達も常にいる訳ではないので凄くのんびり出来そうな場所だ。
マクシミリアンさんの話によると冒険者ギルドでも上級冒険者で特に信頼の置ける数人の人達が警備も兼ねて出入りが可能なのだとか。
今はギルドマスターの権限なのだろうか?
ちょっと気になった。
暫くするとチャッチャとチッチャが走り回って遊びはじめたので大きな木の根元に座り見守るが、【深紅の薔薇】の皆からは緊張感が伝わってくる。
調子に乗ったチャッチャとチッチャはジルにちょっかいをかけるも猫パンチで怒られていて、目の前で〝アビスマーダーキャット〟の猫パンチを見てマクシミリアンさん達の緊張感もかなり上がっていた。
でも、何故かギルドマスターだけは涼しい顔で眺めていたんだけど。
その後、私達はチャッチャとチッチャと、そしてそれを追いかけ回すジルをクリスと一緒に見守り、まったり過ごしたのだった。
◇◆◇◆◇
朝ごはんを終え身支度を済ませてテントを片付けているとギルドマスターが姿を見せた。
「おはよう」
「あっ ギルドマスター、おはようございます」
まだ朝が早いのでギルドには早めに出勤した職員が二、三人いるだけだ。
ギルドマスターが見送ると言うので私達は東門へと向かう。
東門はちょうど開門したところで他に人の往来はなく、私達が出るには都合が良かった。
「レイ!!」
名前を呼ばれ振り向くとグロウ君が息を切らしてこちらへ走って来ていて、後ろにはマクシミリアンさん、ヨアヒムさん、ウォルターさんの姿が見える。
「良かったっ…間に合った」
「グロウ君! 皆さんも来てくれたんですね」
「当たり前だよ。レイちゃんと暫く会えなくなるんだから…可愛い姿を目に焼き付けておかないとね…」
「?!っ…」
背後から耳元への囁きで心臓が跳ね上がった。
おかしい…今しがたまで目の前にいたはずのヨアヒムさんに、また背後を取られたことに固まる。
これには兄達も反応が遅れるらしい。
「ヨアヒム! また何やってんだよ!!」
グロウ君に引きずられながらもニコニコと微笑み手を振るヨアヒムさんに私も思わず手を降ってしまう。
「慌ただしくてすまないな」
「いえ、大丈夫です。それにわざわざ来てくださってありがとうございます」
「あぁ…皆、君達と離れるのが名残惜しいんだ。無論、この俺もだが」
マクシミリアンさんの王子様スマイルにクラクラしそうになりながら何とか耐える。
『『『『にゃんにゃん』』』』
その間に今度は何故かウォルターさんがクリスやジル達に囲まれていた。
「ちょっと、みんな何してるの?! ウォルターさん、すみません!」
「い…いや…大丈夫だ…」
本当どうしたのだろうか? もしかして、ここ数日お世話になっていたからお礼でも言いたいのかな?
「この子達、お世話になったウォルターさんにお礼が言いたいみたいです」
「!…お気になさらず…っ…いや……気にするなと…伝えてくれ」
「? は、はい」
クリス達は私の従魔だけどケットシーで元から喋れるからなのか【意思疎通】のスキルが働かず、このスキルは人語を解さない従魔だけのスキルのようだった。
だから今、クリス達は人の言葉で〝にゃん〟と言っているので私には言っている意味がわからないのだ。
後でちゃんとクリス達にウォルターさんに何が言いたかったのか聞いておこう。
ふと、後ろからの気配に気づけばグロウ君と視線が合う。
「あー…っと、…えー…その…」
「グロウ君」
「はい!?」
「じゃあ、行ってくるね」
「あ…うん…」
「依頼の魔物、多めに狩ってくるから、戻ったらみんなで一緒に食べようね」
「うん…」
「だから心配しないで待ってて」
「分かったよ…レイ。気をつけて」
グロウ君を宥めるように声をかけ挨拶を済ませる。
「麗、もう行くぞ」
「はーい」
すでにチャッチャやチッチャに乗る兄達に私も慌ててクリスに乗り出発の準備をする。
「レイ」
不意に呼ばれ振り返れば声の主がこちらを見上げていた。
ギルドマスターは呼び止めておいて暫く見上げたまま何も言わずエメラルドグリーンの視線で射抜いてくる。
「この依頼は君達にしか出来ない依頼だが…気をつけてな」
「っ…はいっ」
心臓が止まりそうになりながら何とか返事を返す。
さっきから色々な意味でホント心臓が壊れてしまいそう。
「では、行ってきます!」
私は気持ちを新たにして皆に心配させないよう思いっきりの笑顔で手を振ったのだった。
お読み頂きありがとうございました。




