郷愁
よろしくお願いいたします。
「近々、家に帰りたいと思うんだが…」
「いきなりどうしたの蒼兄さん、ホームシック?」
「違う」
「うーん。でも確かにちょっとお母さんとお父さん心配かも」
「まぁそれもあるが別の用事もあるんだ」
それからどうやって誰にも怪しまれず家に帰るかを皆で話し合う。
「でも、家に帰るって言えないし、何も言わずに急に町から出て何日も戻らなかったら変に思われちゃうかな」
「そこでだ。実はさっき面白い依頼を見つけたんだが…それを受けようと思う」
「どんな依頼なの?」
「俺達にしか出来ない依頼だ。まぁ、ほぼ確実に俺達宛に出した依頼だろうな」
「だから、どんな依頼なの?」
「詳しい話は明日だ。今日はもう遅いから寝ろ」
「はーい」
夕御飯とお風呂は終わっていたので後は寝るだけ。
クリスとジルが寝ているベッドに潜り込む。
外は蒸し暑いのだが、ここはクーラーが効いていて、クリスとジルのもふもふに埋もれても暑苦しくなることなく眠ることが出来てる。
例えもふもふで暑くなってもシオンとヨモギにサクラがひんやりぷるぷるでしていて凄く気持ちがいい。
ここ最近はもふもふひんやりぷるぷるコンボであっという間に眠りにつける。
今日もクリスとジルをもふもふ、シオン達をぷるぷるした後の記憶はなかった。
「麗、起きろ」
「…んー…あともう少し…」
「……もうギルドマスターが来てるぞ」
「!? えっウソッ」
「ウソ」
「へ…」
まだ寝ぼけてる頭を無理矢理働かせる。
「ちょっ…蒼兄さんひどい…」
「だけどちゃんと起きれただろ?」
「うぅ~…」
でもやっぱり頭が働かず上手く言葉も出てこない。
仕方ないのでクリスとジルをもふもふしシオン達も撫で回す。
(あー幸せ)
暫く幸せを堪能してふらつきながら顔を洗いに行き身支度を済ませた。
外へ出てテントを片付け終わる頃にギルドマスターが来る。
「ギルドマスター、おはようございます」
「あぁ、おはよう。レイ」
ギルドマスターと挨拶をかわしていると蒼兄さんがギルドマスターに話しかける。
「ギルドマスター、悪いが少し話がしたい。時間はあるか?」
「…君の方から話とは…分かった。良いだろう」
ギルドマスターは愉快そうな笑みを浮かべると自らの部屋へと歩き出した。
ギルドマスターの部屋でいつもの形で座ると早速蒼兄さんが話を切り出した。
「ギルドの依頼の話なんだが…今、掲示板に張られている〝アビスブラックボアとフォレストグリーンサーペントの討伐依頼〟について少し聞きたい事がある」
「私で答えられる範囲であれば…」
「どうぞ続けて」とギルドマスターが綺麗な微笑で返す。
「あの依頼は貴族からだな?」
「…何故そうだと思う?」
「報酬金額。まず一般人には無理な金額だ。後は商人、豪商の線もあるが冒険者ギルドと商人ギルドはあまり仲がよろしくは無いと聞く。無論、犯罪者関係は論外だ。となると…」
「貴族…ということか」
「もしも王族関係なら依頼書ではなくギルドマスターや使いの者から俺達に直接話が来るだろうからな」
「ご明察。…して本題は?」
「では単刀直入に言わせてもらう。はっきり言って俺達は貴族と関わり合いを持ちたくない。だが受けた依頼は必ず達成はする。だから…」
「その貴族と接触がないよう便宜を図れ、と…」
「……」
「……」
暫し沈黙が流れた後にそれを破ったのはギルドマスターだった。
「…分かった。その様にしよう」
上手くいったと私は安心感からか深く息を吐いた。
「…まぁ、彼には依頼書ではなく直接君達に頼めと勧めたんだが、如何せん馬鹿真面目な奴でな。極力貴族の力を使わず依頼書を出した次第だ」
「お知り合いなんですか?」
ギルドマスターの言葉の端々から気の置けない雰囲気が醸し出されていたので、つい聞いてしまった。
彼は私を見やると聞きたいかと言わんばかりのニヤリとした笑み浮かべる。
「なに、ただの腐れ縁さ」
だけどギルドマスターはそう言うと懐かしそうに、そして何処か寂しそうに笑った。
けれど、それは一瞬。
次にはいつも通りのギルドマスターだ。
「では、あの依頼は受ける…でいいんだな?」
「あぁ、それでいい」
「受けてくれるなら彼…依頼主もその条件を飲んでくれるだろう」
「それで…その依頼を受けるに当たって暫く町を離れることになる」
「まぁ、そうなるだろうな…」
不意にギルドマスターと目が合う。
私はにこりと笑うが急に気恥ずかしさを覚え下を向いてしまう。
「では、君達の条件は私が依頼主に伝えておく。後は任せておけ」
ギルドの一階まで降りると蒼兄さんは直ぐ様、例の依頼書を手に取り受付に行く。
酒場にはすでにマクシミリアンさん達が待っている。
彼らにもこの事を伝えておかないといけないので、私は意を決し手を振りながら彼らと挨拶をかわす。
「―――えっと、そういう事なので暫く町から離れることになりました」
「そうか…あの依頼は君達にしかとは思ってはいたが…」
「誰だよ。あんな依頼出したヤツは。依頼書は偽名っぽかったけど。…どこの貴族だか突き止めるか…」
マクシミリアンさんは一様は納得しているようで、ヨアヒムさんは依頼主が気になるみたいなんだけど後の方は呟いていたのでよく聞き取れなかった。
「…っ………」
ウォルターさんは何か言おうとしたらしいがそのまま言葉を飲み込んでしまう。
「レイ……」
グロウ君は本当に心配そうに私を見つめている。
その気持ちは私も本当に嬉しい。
「心配してくれてるんだよね? ありがとう。グロウ君」
「…っ…どうしてもレイも行かないと…「グロウ、それ以上は言うな」
いつの間にかカウンター席にいたギルドマスターがグロウ君の言葉を遮った。
「グロウ君、私は大丈夫だよ。だってこの町に来るのに深淵の森を通って来たんだよ」
「………」
「それに私だって強いんだからね」
「だから大丈夫」と笑顔で答える。
グロウ君はその間、怒られた子犬のようにシュンとして何とも言えない気持ちになってしまう。
―――なので私は。
「あっ! 出発は明日だから朝ごはん食べたら、どこかグロウ君の好きな所に連れてってくれるかな?」
「??!…っぼ、僕の…えっ…」
「麗!!」
「確か今日の予定は何も無かったよね? ねぇ、いいでしょ? 蒼兄さん、剛兄さん」
「いや、確かに予定は無いが…」
「…蒼……」
一度こうと決めたら聞かない私に、剛兄さんが諦めたように蒼兄さんの肩を掴み首を横に降る。
蒼兄さんも諦めのため息を吐く。
私はそれを確認するとグロウ君達に向き直り、彼らのキラキラな笑顔には敵わずとも精一杯の笑顔で…。
「今日は私を皆さんの好きにしてください」
「「「「「っ!!……」」」」」
「………」
「――お前…なんて事を……」
(あれ、私、何か変な事言った?)
キョトンとする私をよそに剛兄さんは額に手をやり俯き、蒼兄さんは頭を抱え項垂れていた。
お読み頂きありがとうございました。




