神獣ケットシー
よろしくお願いいたします。
巨大化しているってか、しゃべってるよね…
冷静な兄達も流石にこの光景には固まっているようだ。
わいわいと騒いでいた猫達がこちらに気付き一斉に駆け寄ってくる。
『『『『麗ねぇーちゃ』』』』
えっ?!ちょっと待って!この子達ゆうに2m以上の大きさなんだけど!!
「ちょっと待って!みんな落ち着いて!」
何とか目の前で止まってお座りしてくれた。
言葉が通じるからか、普段より言う事を聞いてくれる。
「人の言葉も話せるし、こんなに大きくなって…何処か痛い所とか変な感じはない?」
『大丈夫だよ。地震でビックリして起きたんだけど、急に体が大きくなっただけだよ』
そう答えたのが黒猫のクリスで赤い首輪が良く似合う、人なつっこい優しい男の子だ。
『あれー麗ねぇちゃ達やお家がちっちゃくなったんじゃにゃいのー?』
この子は茶トラのチッチャ、名前とは違い少しぽっちゃりやんちゃな黄色の首輪の男の子。
『バカだな、大きくなったのは俺達の方だろ。だからお前の寝床も壊れたんだ』
この子は茶トラのチャッチャでチッチャの兄。黒い首輪のイタズラ好きな細身の男の子。
『あたし達、人の言葉は分かってたけど、伝える事が出来なかったから、お話できて嬉しいわ。やっと、おたま婆様達みたいにしゃべれるなんて』
この子は黒猫のジル、クリスの妹で青い首輪のちょっとワガママむっちりボディな女の子。
…ん、今、ジルが変な事言わなかった?
私がキャットタワーの方を見ると、上の方に二匹いるが大きくなっていない。
「おたまとミーちゃんは大きくなってないのね。やっぱり…しゃべれるの?」
『無論じゃ』
『しゃべれるのです』
「ジルの話だと、何だか前からしゃべれるみたいな事言ってるんだけど…」
『そうじゃな。こちらの世界に来る前から話す事はできたのじゃ』
前からしゃべれるとか、こちらの世界とか、分からない事がいっぱいありそう。
「ねぇ、こちらの世界って
言ったけど何か知って「きゃぁぁ、大きくて可愛いぃ」
「母さん急に抱きつくと危な…もふもふ…」
父と母がクリス達を順番に抱きついたり、もふもふしている。
兄達は兄達で何故か部屋の中を見渡しヒソヒソと話している。
何を話しているのだろう?
『さて、全員揃ったようじゃの。ここは儂よりミーちゃんに説明願おうかの』
おたまは白黒のハチワレ猫で私が生まれる前から黒守家にいるらしい。
首輪は頑として着けてくれないお婆ちゃん。
『おたま様…わかりました。ここで黒守家の皆様に、この世界についてご説明したいと思うのです』
私達家族がソファーに座るとミーちゃんがこの世界の事を話してくれた。
〝ユグガルド〟それがこの世界の名前だという。
私達が住んでいた〝地球〟とは隣り合わせだけど、交わる事の無い世界。
ただし一部の例外を除いて。
ユグガルドは剣と魔法それにスキルの世界で、私達はそんな世界に転移したということ。
そして今いるのは〝フェルタレーア大陸〟のフィデンリーザ王国らしい。
他にも幾つもの国々があり、生活水準は各国で少々差があって、地球の中世ヨーロッパ辺りが異なる部分が多くあるが一番近いとはミーちゃんが調べた結果。
人やエルフ、ドワーフに獣人、妖精、精霊、他にもいっぱい、そして魔物。
小説やアニメで見た異世界そのものだ。
「「「「「………」」」」」
私も皆もなにも言えずいたが最初に口を開いたのは蒼兄さんだった。
「大体分かった。まだ色々聞きたい事もあるんだけど、ミーちゃんは何でこんなに異世界に詳しいんだ?」
『…私は、この世界の生まれで、ケットシーという神獣なのです。そして…とても言いづらいのですが…私の名前はエクレアと言います』
…そうだよね、こちらの世界で生まれたのなら元の名前があるはずよね。
「エクレア…可愛い名前ね、じゃあこれからはエクレアって呼んでいい?」
私がそう言うと頷いてくれた。
ミーちゃん改めエクレアは長毛の黒猫、我が家に来たのは9年前で、おたまが何処からか連れて来て飼い主も居なさそうだったので、家で飼う事になった。
とても優雅で上品な、ピンクの首輪が可愛い女の子。
「ケットシーなんだよね。ケットシーってなんと言うか、どちらかと言ったら…」
弱いというか…
エクレアは私が言いたいことが分かったようで。
『地球でのケットシーは妖精という事にしておいた方が、何かと都合が良かったのです。私達ケットシーはユグガルドでは影ながら人々を魔物から守り、地球ではこちらから流れた魔物を秘密裏に刈るのが使命なのです』
神獣ケットシーは相当強く、戦えない者もいるが、中にはドラゴンよりも強い者がいるみたい。
地球ではあまり強くないと思わせて、天災で稀に開く歪みで現れる魔物を倒していたらしい。
『『『『僕[あたし]達もケットシーだよ!』』』』
「えっ?!本当に?!」
クリス達はケットシーの中でも最強の強さを持っているのだという。
ドラゴンもいけちゃうかも知れない。
『地球の猫もユグガルドの猫も全ての猫達はケットシーになり得ます。でも通常、転移だけでは普通の猫がケットシーになるなんて聞いた事が無いのです』
「じゃあ、エクレアやおたまは元からケットシーで、クリス達もケットシーになったから大きくなったのね」
『儂は違うのじゃ』
「えっケットシーじゃないの?」
『儂は猫又じゃ』
「猫又!?」
そう言ったおたまの尻尾を見れば、何かがおかしい。
猫又だから尻尾が二本に…違う。
一瞬何本か分からなかったけど…
「十本ある…」
「あらまぁ、本当、凄いわぁ~」
『おたま様は我々ケットシーからも一目置かれる、千年以上生きておられる大妖怪の猫又なのですよ。』
『まぁ、そういうことじゃ』
おたまに歳がいくつか聞くと、女の子に歳を聞くもんじゃないと怒られたが、どうやらいつ頃からか歳を数えるのがめんどくさくなったらしく、よう分からんと言われた。
『そういえば、大昔に陰陽師の若造に追いかけられたな。何といったか…あぁ、あれじゃあれじゃ、安倍ナンチャラとかいう奴じゃ』
ハイ、晴明さんですね。
本当に千年以上生きてるんだね。
晴明さんは何度も追いかけて来て凄くしつこかったらしい。
おたま可愛いもんね。
ここで蒼兄さんからまた質問が入った。
我々家族が何故、この世界に転移したか。
エクレアの答えは『分からない』だった。
『ごめんなさい。私も本当に分からないのです。でも…地球とユグガルドが繋がるには大規模天災による歪みと魔術よる転移の二つしかないのです』
天災の規模より歪みで開く穴の大きさが変わるらしく、魔物が地球に来るには、命が多く亡くなるくらいの天災が地球もしくはユグガルドで、または両方で起こる。
また歪みが開くのは稀で、開いても近くに魔物がいなければ穴に落ちることはない。
「歪みに人が落ちる事は無いの?」
『人が落ちる事はあります。
ただ、人が歪みに落ちても地球にもユグガルドにも来る事はできないのです』
ユグガルドから地球に落ちた人は歪みの中で亡くなるか、無事地球にたどり着いても地球に存在しない自身の魔力の力で魔物になり果てるらしい。
地球からユグガルドに落ちた人は歪みの中で魔素や魔力に身体が耐えきれず確実に亡くなるという。
『もう一つの方法は転移魔術ですが、これは人が使う事は出来ません。使えるのは神、それも上位神。後はケットシーの王だけなのです』
転移魔術を使うと、やはり災害が起きる。
ケットシーが地球とユグガルドに行き来ができるのは、その身を仔猫よりも小さくし災害を最小限にとどめられること、そして尚且つ最高神の許しがあるから。
こうしてケットシーは地球に赴きユグガルドから流れる魔物を刈るのである。
『そして神々の転移魔術ですが、巨大な神力を使い人ひとり転移させつつ大きな災害を押さえなければいけないので大変なのです。それに地球の人を連れてきても、ユグガルドの魔素が毒となり直ぐに亡くなるのです』
だからケットシー以外の転移魔術は神々でさえ禁忌なのである。