朝市と屋台とエクレアの用事
よろしくお願いいたします。
先程からグロウ君がしょんぼりしていてヨアヒムさんに肩を叩かれている。
さっきのアレが原因だよね。
後で謝った方が良いのかな。
朝市の方は大きな収穫があった。
なんと野菜や果物は元の世界の物と名前もほとんど変わらなかった。
一つ大きな違いは肉類なんだけど全部魔物肉だった。
お店に並んでいるのは解体した状態だから元の形がどんな物か想像…はやめておこう。
結果的に朝市のお客さんは驚きながらも遠ざかるだけで逃げる人はほとんどいなく、お店の人も驚いていたけど食材を買うついでに料理方法ついて質問すると快く答えてくれた。
やっぱり町の人達は【深紅の薔薇】の皆がいると安心するらしい。
特に女性がね。
朝市を見て回り私達は広場に戻ってきていた。
クリス達はもちろん大人しくしていたが、みんな朝ご飯もまだでお腹が空いているはず。
かく言う私もお腹がペコペコである。
「そういえばレイ、君達は朝は何か食べたのか?」
「いえ、朝はまだ何も食べてなくて…」
「そっ、それなら! 西通りに屋台があるから、今度こそ一緒『にゃにゃん』
クリスがグロウ君を遮る形でスリスリしてきた。
ジルにチャッチャ、チッチャにも囲まれてスリスリされるから今の私には誰も近づけないだろう。
「ごめんね、みんなもお腹空いてたよね。ほら分かったから」
「くくっ…今度は従魔達に…残念だね、グロウ」
「うぅ…」
グロウ君はヨアヒムさんにからかわれる様に笑われて、マクシミリアンさんには慰める様に肩を叩かれている。
私も心の中で謝っておこう。
(ごめんね。グロウ君)
西通りの屋台は肉の串焼きが多くて肉の種類や味付けがその店ごとに違う様なので一つ一つ巡ってみる。
屋台の人達もやはりクリス達に最初こそ驚くが朝市のお店の人と同じくすぐに対応してくれる。
屋台で何軒か買い込み屋台やお客さんの邪魔にならない場所で串からお肉を外しクリスやシオン達にお肉を食べさせあげたのだが、珍しく兄達も手伝ってくれたおかげで手早く済ますことができた。
この後、私とカスミは途中でギブアップし他の屋台の物は後で食べれるようにアイテムボックスに入れた。
兄達とクリス達、シオン達も屋台全制覇してたけど、最後に立ち寄った屋台の野菜スープをカスミと一緒に分けて食べた。
薄味の優しいスープは今の私達にはちょうど良かった。
お腹がいっぱいになった私達を気遣ってマクシミリアンさんが広場の一角にある休憩できる場所に案内してくれていた。
――――……レイ…ヴ…――――
誰かに呼ばれた気がして、ふと横を見上げると…。
男性の銅像が立っていた。
「―――い……れ…っ…麗!!」
「…?……蒼…兄さん?」
蒼兄さんの顔が目の前に、その表情は珍しく強張っている。
蒼兄さんのこんな顔を見るのは久しぶりだ。
幼い子供の頃、私が木から落ちて暫く意識が戻らなかった時があり病院のベッドでやっと目覚めた時に見た以来かな。
「…大丈夫か?…麗…」
「うん…大丈夫だよ」
剛兄さんまで普段あまり見せない表情をしている。
急に誰かに呼ばれた気がしてから…私、何してたんだろう?
どうやら私は銅像を見上げたまま暫くぼんやりしてたらしい。
「レイ、本当に大丈夫?」
グロウ君にマクシミリアンさん、ヨアヒムさんにウォルターさんまで心配そうな顔をしている。
「本当に大丈夫です! その…お腹がいっぱいになったら何だか眠くなってきちゃって、ぼーっとしちゃったみたいです…えへへ」
「っ……かわいぃっ」
「大丈夫なら良いんだが…」
「………」
グロウ君以外は今のが嘘だと分かっている様だがこれ以上は追及されなかった。
兄達を除いては。
蒼兄さんのあの顔は、後で色々とじっくり聞かせてもらうからなって顔だ。
剛兄さんも微妙に渋い表情だから、助けを求めても無駄だろう。
「よりによってこの銅像とはね」
ヨアヒムさんの言葉に小首を傾げながら銅像を見上げる。
「この銅像は…」
「伝説の英雄だよ。相当な色男だったらしいから、レイちゃんもその色気に当てられたかと思って心配しちゃったよ」
後ろを振り向きヨアヒムさんと目が合うと妖艶な微笑みを向けられる。
その微笑みの方に当てられてしまいそうになり、どぎまぎしながら顔をそらすと「ふふ、残念」と声が聞こえてきた。
「どちらにせよ、レイは休ませた方が良いな」
予定通り休憩場所に到着し休むことにする。
広場の北東の角にテーブルや椅子が置いてあり、奥には大きな木が何本かと下は芝生の様になっている。
私は一番奥の一際大きな木の根元に腰を下ろす。
クリス達も気に入ったらしく木陰でくつろいでいる。
木にもたれかかり顔を少し横に向けると先程の銅像が見える。
あの銅像見ていると何故かまたぼーっとしてくる。
(あの声は何だったのかな?
何だか聞いたことあるような、懐かしいような……)
「麗」
「…っ、な、何? 蒼兄さん」
蒼兄さんが私の様子に気づいたらしく私から銅像が見えなくなるような位置に座る。
気づくと反対側の隣には剛兄さんが木に寄りかかっている。
「もし彼奴らに先程の事を色々と聞かれたら長旅の疲れがまだ残っていると言っておけ」
他の誰にも聞こえない様に蒼兄さんが声を潜めるので私は何も言わずに頷いた。
木々や葉の隙間から差す陽射しと頬を撫でるそよ風が心地よく、いつの間にか蒼兄さんにもたれかかりうとうと居眠りをしてしまっていた。
小一時間たっただろうか、蒼兄さんはその間ずっと私に肩を貸してくれている。
こういう時の蒼兄さんはいつも優しい。
「んっ…」
「起きたか」
「あれ…私、いつの間にか… って、ずっともたれかかってたんだよね。ごめんなさ「よだれ」
「ええっ?!」
慌てて手を口元に持っていく
「くくっ…嘘」
「ちょっ、もう! 蒼兄さん!!」
前言撤回。
でもまぁ、こんなやり取りは日常茶飯事なので剛兄さんはいつも通り見守っているが、マクシミリアンさん達は生暖かい目でこちらを見ていた。
『な~ん』
「クリス、どうしたの?」
クリスが私の元に来てスリスリした後、北通りの方角を見ている。
よく見てみると真っ白い猫がこちらに向かって歩いていている。
白猫はクリス達や私達も警戒しながら近くまで来て立ち止まるので、私は立ち上がり白猫に少し近づき屈み込むと声をかけた。
「猫さん猫さん、今日の猫さんの瞳はお月様よりも綺麗ですね。」
白猫はゆらゆらと揺らしていた尻尾をピタリと止めた。
白猫は暫く動かなかったが、次には屈む私の側に来て伸び上がり肩に前足を置き抱っこしてと言わんばかり甘えてきた。
私は立ち上がりながら白猫を抱きかかえると白猫は私の頬にスリスリしながら耳元まですり寄る。
『まさか生きているうちに
その言葉を聞けるとは思わなかったな。お前さん達何者だい?』
お読み頂きありがとうございました。




