ニースリスの町に到着
太陽が傾き空がオレンジ色に染まる中、ガラガラと音を立てた馬車がニースリスへの道を進む。
私達はフェリシアお嬢様に護衛を頼まれて、お嬢様とアンヌさんの乗る馬車を護衛していた。
剛兄さんが乗るチッチャを先頭に馬車を囲むように護衛騎士様達が配置され、少し後ろを縛られた盗賊達が歩いてその後ろに蒼兄さんとチャッチャが見張りに付いている。
私とクリスはというと馬車のすぐ横にいて、馬車の窓から覗けばクリスに乗った私が見える位置だ。
ジルは私とクリスの反対側で馬車の扉の横を陣取っていた。
アンヌさんはまだ目覚めていないので馬車の中で眠っている。
「レイ様…いえ、レイさん。今回は急な依頼を引き受けてくださり感謝致しますわ」
「こちらこそ、こんなに前払いで頂けて…それに私達もニースリスに行くので、丁度よかったです」
馬車の窓を開けフェリシアお嬢様が顔を出して話し掛けてきた。
私とフェリシアお嬢様はテントでお話をするうちに段々と打ち解けて、最初こそフェリシアお嬢様に〝レイ様〟と呼ばれてしまうのだが、流石に貴族のお嬢様が単なるいち冒険者に〝様〟付けなんて恐れ多いということで今では〝さん〟に落ち着いていた。
護衛の依頼に関しては私の一存では決められないので、兄達と相談した上で依頼を受けることになったが、護衛依頼の前払いの報酬が明らかに多いので驚いているとフェリシアお嬢様は盗賊の件も兼ねていると仰ったのだ。
金額の多さに気が引けて断ろうとするも、蒼兄さんが「今、断ると後で面倒な事になるかも知れないから、ここは受け取っておけ」とのこと。
私が前払い報酬を受け取るとフェリシアお嬢様は満面の笑顔で頷いたのだった。
もうそろそろ日が沈み夜になるが、馬車を完全に修理することが出来ず無理をするとまた壊れる恐れがあるため、馬車はこれ以上速度を上げることはしない。
そして、日が沈んだ頃に漸くニースリスの町が見えてきた。
ニースリスの町は想像していたより大きい町で、ルナティオースの町と同じか少し小さいくらいだ。
ニースリスの町に近付くと案の定、町へと入る門は閉じられていて、その脇にある小さな扉前には門番さんが二人見えた。
「そこの者達、今日はもう全ての門を閉じて……って、り、リーベルンフェルス公しゃ……失礼しました!! 直ちに開門致します!」
門番さん達は門を開けるため、慌てて町の中に入っていった。
「本当に町の中に入らなくて?」
「はい。クリス達が泊まれる宿が無いので、今夜は外の安全区域で過ごします」
フェリシアお嬢様からは町の中へ一緒に入ろうと提案されたのだけど、事前の話でやはりニースリスにもクリス達のような大型従魔が泊まれる宿は無く、この時間だと冒険者ギルドで泊めてもらう交渉も無理そうなので町の外でテントとなった。
外の安全区域とは、壁に囲まれた町や王都の壁外に見られる旅人や商人、冒険者達が閉門後にテントを設営する所謂、野営地だ。
そして安全区域の周りには数本の結界の杭が打ち付けてあり、魔物の侵入を防いでくれるらしい。
「この辺りにテントを張るぞ」
フェリシアお嬢様達の乗った馬車が町の中に入るのを見送り安全区域へ移動する。
テントを設営するのは安全区域の端で道側からすると奥側にあたり、安全区域外の更に奥は小規模な森のようで魔物の反応は今のところはなかった。
◇◇◇◇◇◇
「あースッキリした! 次お風呂いいよー。……ということで…」
「ちょっと待て。こっち来て座れ」
お風呂を上がり、そそくさとベッドへ直行しようとする私に蒼兄さんがソファーへと促す。
「えーと、まだ髪ちゃんと乾かせてないし…」
全力で嫌がる私。
「…カスミ…」
先程、一緒にお風呂に入っていたカスミが剛兄さんの合図で私の頭に乗ると形を変えて、まだ少し濡れていた髪を包み込む。
「あっ…乾いてる」
数秒も経たないうちにカスミの形が元に戻り、カスミはポンポンと跳ねながら私から降りると剛兄さんの肩に乗り、褒めてと言わんばかりにプルプルと震えている。
髪はキレイに乾いていて、何ならいつもより艶々でちゃんと乾いているのに、しっとりとしていた。
カスミ、いつの間にこんな技を…。
「じゃあ、髪も乾いたし…」
「座れ」
「はい…」
そして、この後、今日の〝私がヒールを唱えようとした件〟について兄妹会議が開かれるのだった。
チッチャ『読んでくれてありがとにゃ』
チャッチャ『あーあ…会議という名のお説教が始まったぜ』
チッチャ『麗ねぇちゃも懲りないにゃ』
チャッチャ『これ始まると長いんだよなぁ』
チッチャ『だいたい切りの良いところで撤収して寝るにゃ』
チャッチャ『だな』




