女の子の好きな物
「レイです。少しよろしいでしょうか?」
「はい。どうぞ」
私とクリスがテントに入るとお嬢様は侍女のアンヌさんのそばにいた。
用意したテントはかなり大きめな物で、奥にアンヌさんを寝かせて中央辺りに丸テーブルと椅子が三脚が置いてあり、私とクリスが入ってもまだ余裕がある。
だけど心なしかクリスがいつもより小さい。
因みにジルはテント横でスフィンクス状態で、テントの反対側で警護している護衛が緊張しながらジルをチラ見している、という状況だ。
既に私達は侍女のアンヌさんをテントへ移す前に、お互いの名前程度の軽い自己紹介は済ませている。
その際に名を名乗ったお嬢様だが、家名は言わなかった。
護衛の四人は騎士様で所謂、護衛騎士というやつだ。
そして、私達が名を名乗り冒険者だと告げてクリス達は従魔としか伝えなかったが、お嬢様達の反応からして私達のことは知っているようだった。
噂の三兄妹の話は商人達のお陰で、かなりの勢いで広まっているらしい。
テントに入ると直ぐに私は手にしていたカップが乗ったトレイをテーブルに置いて、再度お嬢様に声をかける。
「ミルクを温めたのですが……お嬢様はミルクは大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫。大好きですわ」
絶世の美少女がふわりと微笑む。
目の保養~って、思わず口走ってしまいそうになる。
お嬢様は椅子に座るとホットミルクのカップを受け取った。
お嬢様の名前はフェリシア様という。
輝くブロンドの髪に青い宝石のような瞳、透き通るような白い肌と小さく形の良いぷるんとした唇。
ただ座っているだけなのに気品があり、カップを持つ指先一つまで美しく洗練された所作で、どこをどう見ても良家のお嬢様、貴族の令嬢なのは一目瞭然だ。
そのお嬢様の美しい所作を見ていて、何故か思い出したのはマクシミリアンさんだった。
(そういえばマクシミリアンさんも物凄く美しくて流れるような所作だったよね。それに超絶美形だし、まるで―――…)
そこまで考えいたところでお嬢様がまだホットミルクを口にしていないことに気付く。
ホットミルクは大量に作って、既に護衛騎士様達や御者さん、クリス達にシオン達と兄達全員に渡して飲んでもらっていた。
なので毒見の心配はないけど、お嬢様はテントにいたのでそれを知らない。
(確か貴族や王族って毒見してからじゃないと何も口に出来ないのよね)
でもこれは元の世界の小説や漫画の話であって、この世界の王侯貴族に当てはまるかは分からない。
それに私達はまだ貴族には出会ってなかったはず……。
(あ…いや、一人いた。ゴーミダゲス男爵……うん。あれはノーカウントということで…)
気を取り直して私は毒見の意味を込め自分のホットミルクを口にしようとしたが、お嬢様の手元をよく見るとホットミルクに波紋が浮かんでいた。
(震えてる?)
アンヌさんが助かり緊張の糸が切れたのか、今になり襲われた恐怖で震えが止まらないのかも知れない。
(どうやって慰めたら良いのかな……元の世界で友達がいなかった弊害がここにきて出るなんて…あっ、そうだ! これなら……)
これが嫌いな女の子はどっちの世界にも存在しない。
そう信じて、私はお目当ての物をアイテムボックスから取り出してテーブルに置いた。
チャッチャ『読んでくれてありがとな』
チッチャ『ミルクが飲み足りないにゃ』
チャッチャ『何言ってんだ。大鍋一つ全部飲んだだろ』
チッチャ『まったくもって足りないにゃ』
チャッチャ『お前の飲みっぷりにお貴族様の護衛騎士達が引いてたぞ』
チッチャ『そう言うチャッチャだって、ぼくより大きいお鍋で飲んでたのにゃ。引くにゃ』




