絶世の美少女
今、ここでヒールを使えるのは多分、私以外に一人しかいない……。
(いや、もう声で分かっているけど…)
あんなにも酷い傷で息も絶え絶えだった女性は、白い光に包まれた次の瞬間には、まるで何事もなかったように一つの傷もなくなっていた。
恐る恐るヒールの発生源に振り向くと…。
目が合う。
眉間にシワが寄った蒼兄さんを見て、あることが脳裏に蘇った。
〝次、やったら…分かってるな?〟とシスターを助ける時に言われたことを。
(あー、思い出しちゃった。これ絶対詰んだよね。…でも彼女が助かったなら、まぁいいか)
傷は完全に癒えたが、まだ目を覚まさない女性を見下ろし考える。
私がヒールを唱えようと動かずとも、蒼兄さんなら怪我をしている彼女に直ぐに気付いて対処していたはずだ。
(うん。自分の行動に後悔はないけどね)
辺りが静かになったので見回せば、盗賊達が全員伸されていて彼らから僅かばりの呻き声が聞こえるだけだ。
その呻いている盗賊達をチャッチャとチッチャが首根っこを咥えて、ズリズリと引きずりながら一箇所に集め、それを剛兄さんと護衛達が縄で縛っている。
「あの…」
急に声をかけられ振り向くと、そこには紛う方なき美少女がいた。
「!? は、はい!」
ヤバい。
初めて見る絶世の美少女に緊張して、声が裏返った上に噛んでしまった。
この美少女は怪我をした女性から〝お嬢様〟と呼ばれていた。
見た目もさることながら雰囲気からしても貴族、それもかなり高位な気がしてならない。
「この度は助けて頂きありがとうございました。彼女はわたくしの侍女でして…それで今、彼女は……」
未だ目を覚まさない侍女を、心配そうに抱き抱える美少女に答える。
「怪我は完全に治っていますので大丈夫です。目を覚まさないのは…」
ちらりと蒼兄さんを見やる。
目を覚まさないのは怪我したショックやら色々あるけれど、主は血を流し過ぎたせいだ。
怪我を治していない私が答えることじゃないので、後は蒼兄さんに任せよう。
「先程、妹が言った通り怪我は完治しているので心配はない。目を覚まさないのは精神的ものと少し血を流し過ぎたせいだ。暫く安静していれば直に目を覚ますだろう」
蒼兄さんは〝少し〟と言ったが実際は〝かなり〟だ。
通常のヒールは怪我は治るが流れ出た血は戻らない。
でも蒼兄さんのヒールは自身の固有スキル【魔法改変】で改変されまくっているので血も復元されるし、その他も色々追加されている。
だけど今はそれがバレてはいけないので、血の復元は命に影響がないところまでの復元のようだ。
蒼兄さんの説明を聞き安心した様子のお嬢様だった。
それから、お嬢様が乗っていた馬車が壊れているのが分かり、暫くここで足止めを食らうこととなった。
御者のおじいさんと馬車の修理が出来るという護衛の一人が馬車を修理している間、お嬢様と眠っている侍女さんは私達が用意したテントで休んでもらっている。
馬車の修理なら蒼兄さんの復元魔法を使えば一発だけど、復元魔法は古代魔法らしく古代魔法が消失したこの世界で、特に人前で使うことはまず無いなと蒼兄さんは言う。
テントの方は私達がいつも使う物ではなく、もしもの時に人前でも使えるようにこの世界で買っておいた一般的な物だ。
因みに盗賊達はちょっと離れた所に一纏めにされ、剛兄さんとチャッチャとチッチャに監視されて、その上、蒼兄さん特製の反転結界、外からは入れるが内側からは出られない結界の中だ。
行きは良い良い帰りは怖いである。
そして私はというと、テントの外からお嬢様に声をかけたところだった。
チャッチャ『読んでくれてありがとな』
チッチャ『盗賊のおっちゃん達動かにゃいからヒマにゃ』
チャッチャ『結構派手にやったからな』
チッチャ『派手にやったのにぼくたちの活躍全カットにゃ』
チャッチャ『あー、確かに』
チッチャ『ひどいにゃ。ショックにゃ。作者に文句にゃ!』
作者「ごめん。次は何とか…」




