怒りのヒール
暗い森を暫く進んだ行く先で聞こえてきたのは、馬の戦慄きと鉄のぶつかり合う音。
―――そして、男達の雄叫び。
馬車の中の二人、外の一人はたぶん御者で、この三人はおそらく戦闘は無理だ。
戦えるのは馬に乗った四人で護衛だろう。
私は先程アイテムボックスから取り出した弓を握りしめた。
「お願い…間に合って―――」
必死に祈っていると目の前が急に開けた。
雲一つない青空と、それに似つかわしくない光景が広がった。
(盗賊の方の数が多いから押されている。それに戦えているのはやはり護衛らしき四人だけ――)
「アンヌ!!」
「お…お嬢…様……逃げ……て…」
「アンヌ! いやよっ…どうしてっ」
「クソッ! こんな傷じゃもうこっちの女は売れねぇな。余計なことを…とどめだ――」
ヒュンッ。
「ギャァァッ」
怪我をした女性に向かい剣を振り上げた男の腕に、私の弓から放った矢が命中した。
男の思ったよりも大きい叫び声に、その場にいる者が一斉にこちらを見て急に現れた私達に驚いている。
それは当然、盗賊達も同じで私達、主にクリス達見て固まっていた。
その一瞬の隙をつき直ぐ様、女性達と男との間に入りクリスが猫パンチで男を殴ると、数メートル先まで飛んでいった。
それを合図にチャッチャとチッチャが盗賊達に突っ込んでいく。
兄達もすでに護衛の人達の加勢をしていて、ジルはいつの間にか女性二人の後方にいる。
「……お…じょ……さ…ま……」
「駄目よ…っ…アンヌしっかりっ、アンヌ!!」
クリスから降りて怪我をした女性に駆け寄る。
「っ…これは…」
怪我をした女性は腹部を剣で貫かれたようで、出血が酷く息も絶え絶えだった。
(これは…たぶん、手持ちのポーションでは間に合わない。お父さんのポーションなら…ううん、それならいっそ私の聖魔法で―――)
「ごめんなさい。少し見せてください」
「……ヒュッ…ヒュ…」
(もう息が……迷ったら手遅れになる…やるしかないっ!)
「―――ヒ「ヒール!!」
気合いを入れ覚悟を決めたものの、心なしか小声気味なヒールを唱えようとした瞬間、私の後ろからちょっと怒り気味のヒールが辺りにこだました。
チッチャ『読んでくれてありがとにゃ』
チャッチャ『あ~あ。麗ねぇちゃ、やっちまったなぁ』
チッチャ『やっちゃったのにゃ』
チャッチャ『ま、自業自得ってやつ?』
チッチャ『ケガしたお姉さんもかわいそうなのにゃ。怒りのヒールを食らったのはきっと人類初なのにゃ』
チャッチャ『怒りのヒールって…』




