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漆黒のヴァルキュリア  作者: 月之黒猫
125/161

人拐いと謎の男


 私は見てしまったのだ。


 人が飛ぶ瞬間を。



「何がどうなってんだ」


(いえ、それはうちのクリスがですね…)



 壁の下で倒れている男は私を舐め回すように見てきたあの男で、今はピクリともせず完全に延びている。



 一様、鑑定にかけたら生きている。

 骨が数ヶ所折れているけれども。




 それは謎の男性とリーダーらしき男の会話の最中に見せた、あの男の不穏な動きからだった。


 男が私を人質に取ろうと動いたのをいち早く察知したクリスが猫パンチを繰り出し、それをまともに食らいぶっ飛んで壁にぶち当たった男。



 かくして私の横には出していた前足を引っ込めるクリスと、壁に衝突し無残な姿で横たわる男という構図の出来上がりである。





「っく…」


「あんたら、まだ気付かないのか?」


「ああ? 何がだっ」


「はぁ…。あのな、この状況だよ。あんたらは今、何に囲まれているか、だ」



「…っ!!」


「やっと気付いたか。あんたらを囲んでいるのは、この俺とS()()()()()()()()()()()()()()なんだよ」



 気付けば私達と謎の男性が男達を狭い路地裏に挟み撃ちの状態で囲んでいる。


 まさに袋の鼠である。


 自分達の状況に気付いた男達は、流石に分が悪いと焦りだし逃げ出そうと試みるも、如何せん狭い路地裏なので逃げるには難しそうだ。

 何より、私達側はクリスが道幅を半分以上も取っていて、空いている道もクリスが前足を少し伸ばしただけで完全に通れなくなる。


 何となくだけどクリスがいつもより大きい気がするのは、気のせいということにしておこう。




「さて。どうする?」


「くそっ!! 今、従魔と娘は無理だ。お前ら、この男の方を―――」


「ぐわっ」

「ぎゃっ」


 リーダーの男が後ろを振り向くと仲間の男達二人が地面に倒れていて、リーダーの男の直ぐ近くでクリスが何もなかったようにお座りをしていた。



「なっ…」


「これで、あと三人。もう半分になっちまったな」



「お前らっ 殺れ!!」

「ちくしょうっ」

「くっ…」


 リーダーの男に命じられ残りの二人が謎の男性に斬りかかった。

 謎の男性は二人の攻撃を難なくかわし、腰に差していた片手剣で二人同時に相手をしている。



 その間、リーダーの男はというと…


「っ―――…身体が…動かな…い…?!」



 この男は仲間の二人に謎の男性の相手をさせ、自分は隙をみて逃げようとしていたらしい。

 だけど、それを見逃すクリスではなく、ちょっと闇魔法を使って逃げようとしていた男の自由を奪い…。


 身体が動かないところに猫パンチ足払いからの踏みつけ。


(あ…男の顔にクリスの肉球が……羨ましい…)





「そっちも終わったな」


 後でクリスのおっきい肉球をプニプニしようと心に決めていたところに謎の男性がこちらへやって来た。

 今まで逆光で謎の男性の姿は分からなかったが、間近で見て漸くはっきりと分かる。



 紅色の髪と同じ色の瞳、二メートルはありそうな身長に体格もギルドマスターやアランさん、アダムさん程ではないが筋肉がムキムキな男性だった。

 顔は少し強面だけど、かなりのイケメン。



 そんな謎の男性の後ろを見れば、気絶した男二人が縄で縛られ転がっていた。



「おい。お前ら…誰に雇われた?」

「………」


 謎の男性がクリスの足元にしゃがむと、まだ意識のある男に聞き込む。

 私達に話掛けてきた時よりも数段低い声は、まるでドラマで見るベテラン刑事の尋問のようで。


「まぁいいさ。お前らは一旦この町の騎士団預りになるが、すぐに俺達の所に来ることになる」


「なっ!!? くそ!」


 「この意味、分かるよな?」と謎の男性が言い終わると暴れだした男を無視して、しゃがんだままクリスを見上げ視線を送る。


「あがっ……」

「よし、ありがとな。猫ちゃん」


 クリスが少し前足に力を込めると暴れる男が気絶をして大人しくなり、それを見計らって謎の男性がクリスにお礼を言って、手際よく気絶した男を縄で縛った。


 それから男性は瞬く間に残りの三人も縛り上げ、それが終わるとこちらへと振り向く。





「さて、今度はお嬢さんに聞きたいんだが……」


 先程より優しい声色だが、有無を言わせない雰囲気と真剣な紅色の瞳で私への聞き取りが始まった。











チャッチャ『読んでくれてありがとな』


チッチャ『終わっちゃったにゃ…』

チャッチャ『あーあ。間に合わなかったな』


チッチャ『ぼくも悪いおじさん達と遊びたかったにゃ…』


チャッチャ『今回は無理だったけど、まだチャンスはありそうな気がするな』


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