扉の前の黒猫
テントを出るとお昼も近いのに訓練場を使う冒険者はいなかった。
深夜まで続いたどんちゃん騒ぎを他の冒険者達も知っていて、どうやら彼らに気を使わせてしまったようだ。
少し申し訳ない思いで、心の中で謝っておく。
約束の時間の少し前に目的の会議室へ着き蒼兄さんが扉を叩くと、中から「どうぞ」とグレンさんの声が聞こえ蒼兄さんが扉を開ける。
そこには私達以外の呼ばれている全員と、ギルドマスターとグレンさんが既に揃っていた。
「あの、もしかして時間を間違えてましたか?」
「違うわよ。あたし達が早く来すぎただけだから気にしないで」
「調査と偵察の者達への説明が思いの外早く済んだのもありますが、時間は合ってますよ」
アランさん達は早く来ただけであって、グレンさんが時間は間違っていないと言うので安心して近くの席に着いた。
「それでは討伐したオークの内訳の説明を致します」
始まったのは私達が討伐したオークの数や内訳だった。
グレンさんは誰がどのオークを何匹倒したかとか、オークの部位ごとの金額を丁寧に説明してくれている。
「……それでは…次はオークのこうがんについてですが――」
先程までスラスラと説明していたグレンさんが急に言葉に詰まり、一部分に至っては声が小さくなっていたような…。
「?…こうがん…?」
「っ?!!」
「………」
「「「「「「っ――」」」」」」
私としてはグレンさんの声が小さかったオークの部位が分からなくて思わず呟いてしまったのだけど。
―――なんか、ヤバい。
蒼兄さんは正面を向いたまま固まっていて、剛兄さんは目を閉じ少し俯いていて、会議室が痛いほどの静寂に包まれている。
(これって、もしかしなくてもさっきのヤツだよね。えっと、こうがん……こうが…ん……あ―――)
今更気付いても、もう遅かった。
「あー、オークの睾丸はだな、一匹分の二つが綺麗に揃っていたら大銀貨五枚だ」
静寂を破ったのはギルドマスターで、彼はそのままオークの〝それ〟について説明を始めてしまう。
私は真っ赤な顔を完全に下に向けて説明を聞くことになった。
「その他にオークシャーマンは大銀貨三枚、オークジェネラルとオークロードは金貨三枚、オークキングは金貨三十枚、オークエンペラーは金貨八十枚はする。これらは精力剤の材料なのだが…」
(まだ続くらしい…)
「金額で分かる通り高額なほど効果高くなる。シャーマンは通常のオークより効果が低いが、ジェネラルやロードは七割、キングに至っては確実に子宝に恵まれるという話だ。そして…」
(…もう終わるよね……)
「エンペラーで作る精力剤は確実なのは勿論、その効果が暫く続くらしい」
(………)
「まぁ、私はそんなモノ使わなくても数ヶ月間毎日抱き潰せる「マティアス!!」」
「ちょっ…ちょっと! 外の風にアタックしますっ…失礼しますっ」
大人な話に頭が追い付かなくて、ギルドマスターを止めるグレンさんとほぼ同時に意味不明なことを叫んだ私は若干パニクりつつ部屋を飛び出したのだった。
◇◇◇◇◇◇
麗が部屋を飛び出し、直ぐ様クリスも麗の後に続き部屋を出ると、呆然としていた蒼とグロウが麗を追いかけようと席から立ち上がった。
『あなた達は行っちゃいけないでしょ』
麗とクリスの跡を追わないようにジルが扉を閉めて、その前を塞ぐ。
「そんな…」
「ジル、そこを退けてくれないか」
『ダメ。今、男が追いかけたら余計に逃げるわね』
意味が分かったが諦められず立ち尽くすグロウと、溜め息を吐きながらも椅子に腰掛ける蒼。
そして、異様な圧をギルドマスターに放つ男が一人。
「全く、貴方いう人は……彼女はギルドの古狐…もとい、ご婦人方とは違うのですよ。ご婦人方は喜んだでしょうが、彼女はそうではありません。もっと気を配ってあげてください」
「すまない…」
静かに怒るグレンに大きな身体を縮こませるギルドマスター。
『ま、クリスがいるから大丈夫だって』
『うんにゃ。大丈夫にゃ』
『暫くは放って置いた方がいいわね。いい加減したら戻って来るでしょ』
ケットシーであるチャッチャ、チッチャ、ジルにそう言われては誰も何も言えなかった。
そして「それでは続きを」と重々しい雰囲気の中でグレンが説明の続きを始めた。
チャッチャ『読んでくれてありがとな』
チッチャ『チッチャの質問コーナーなのにゃ!』
チャッチャ『なんだそりゃ』
チッチャ『こーがんってなんにゃ?』
チャッチャ『やっぱりそれか。ちょっと耳を貸せ……ゴニョゴニョ』
チッチャ『……うにゃうにゃ、にゃるほど! たまたm…』
チャッチャ『あーあーあー』
チッチャ『にゃ、言っちゃダメなのかにゃ』
チャッチャ『ダメなの! まぁ、色々あるんだよ。てか、誰もアタックの方には突っ込まないのな』




