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漆黒のヴァルキュリア  作者: 月之黒猫
12/161

酒場

よろしくお願いいたします。


「ぼ…僕と同い年…」

「…成人してたのか…」

「………」

「成人してるならエール、試してみる?」


 グロウ君とマクシミリアンさんに驚かれ、ウォルターさんは剛兄さんと同じ無口な人みたいだけど驚いているらしい。

 そしてヨアヒムさんからまたエールのお誘いを受ける。


「あの…私の故郷では20歳が成人でお酒も成人してからなので…飲んだことなくて…その…」



「ヨアヒム、無理をさせるな」


 後ろからの声に驚き振り返るとギルドマスターが酒場のカウンターに座っていた。


「はーい、ギルマス。ごめんねレイちゃん」


 破壊力抜群のキラキラな笑顔で謝られる。

 眩しくて見られない。



「お兄さん達はエールでいい?」

「いや、俺達も酒は遠慮する」


 兄達もお酒を遠慮したところで、飲み物は果実水をいただくことになった。


「あーギルマス、仕事中なのに酒飲んでるよ」

「ああん? こんなの水だ。お前こそ、まだガキのくせに飲み過ぎんなよ、グロウ」

「もうガキじゃねーよ!」


 ギルドマスターとグロウ君のやり取りを眺めていたら、いつの間にか夕方に差し掛かっていた。


「ねぇ蒼兄さん、そろそろ宿のことどうするの?」

「君達だと宿は難しいと思う」

「えっ?!」


「レイちゃんの従魔だよ。この町、いや、どの国々でも従魔と泊まれる宿は無いかもしれない」


「あっ…」


 マクシミリアンさんとヨアヒムさんにそう言われて気がつく。

 ちょっと考えれば分かる筈のことだ。


「まぁ…大体予想はしていたが…剛兄、麗、町の外で野営でも構わないだろ?」

「…あぁ」

「うん、大丈夫」


 そう、私達にはリゾートの様なテントがあるので、実は宿に泊まれなくても差して問題は無かったりするのだ。

 それにクリス達が一緒に泊まれないなんて話にもならないのだから。


「おい、今から町を出るのか?」

「せっかく町にいるのにレイ、辛いんじゃない?」


「私は大丈夫です。兄達とこの子達がいれば、どんな所でも構いませんから」


 マクシミリアンさんとグロウ君が心配してくれたが、宿がないので結局野営しか道はない。


「一軒家を借りるって手もあるよ。俺達パーティーもそうしてるんだ。男四人でむさ苦しいけどね」


「だが、今は冒険者ギルド所有の物件が全部借り手がついてる。後は商業ギルド所有の物だ。彼奴らがおいそれと応じることは無いだろうな」


「商業ギルドか…」と呟くヨアヒムさん。ギルドマスターの話からすると商業ギルドは一筋縄にはいかないようだ。



「やはり野営しかないな。剛兄、麗、そろそろ行こう」

「待て。もう全ての門が閉まっている。相当な事が無い限り開けられないぞ」


 ギルドマスターに止められる。

 夕方の日が沈む頃、6時くらいに門が閉められるという。

 因みに閉門に間に合わなかった人達は門近くの壁際で野営する羽目になる。


「じゃあ、どうしたら…」



「訓練場…なら夜は誰もいない…」


「「「それだ!!」」」


 ウォルターさんの提案にマクシミリアンさん、ヨアヒムさん、グロウ君が声を揃える。


「訓練場か…」

「ギルマス、何とかしてやれないか?」


「…………分かった。従魔のいるお前達を町に放り出す訳にはいかないしな」


 マクシミリアンさんがギルドマスターに頼み込み冒険者ギルドにお泊まり出来ることになった。

 もしかしたら最終的にこっそり壁越えとか、下手をしたら捕まっちゃいそうなことをしなくちゃいけないかと思ったから本当に良かった。


「あの、ありがとうございます! 皆さんのおかげで…クゥゥ~…!!?」


「「「「「………」」」」」


 騒がしい酒場がまた沈黙する。

 とっさにお腹を押さえる。


 が、もう遅い。


 蒼兄さんは声を殺して笑い、剛兄さんは私の頭をぽんぽんする。


 私、死んだわ。



「あ~、俺、お腹空いちゃったなぁ~」

「ぼ、僕もお腹ペコペコだったんだ~」


 ヨアヒムさんとグロウ君に気を使わせてしまって申し訳無い思いと恥ずかしさで俯いてしまう。


「宿泊場所のことも無事解決したし、これから一緒に食事でもしないか?」


 マクシミリアンさんの言葉に何とか頷くと、兄達も了承し、みんなと一緒お食事することになった。



「ここのオススメはデスブラウンブルのステーキなんだ。レイも食べてみてよ」


 デスブラウンブル…なんとも恐ろしい名前の牛の魔物?のグロウ君オススメのステーキとサラダを頼んでみた。


 暫くすると、私の目の前に次々とデスブラウンブルのステーキが並べられる。

 固まる【深紅の薔薇(クリムゾンローゼス)】一同。


「「「…………」」」


「…レイちゃん、それ…一人で食べるの?」


「えっ!? ち、違いますよ!!」


 私の前に800gはありそうなお肉の塊が五つ並んでいる。いくらお腹が空いていても800gステーキを五つは絶対無理です。


「これはクリス達の分ですよ」


「あ、あぁ、従魔達のね」


 クリス達のステーキを食べやすいように少し切り分け、アイテムボックスからクリス達の食器を取り出しお肉を移し代える。


『『『『にゃ~ん』』』』


「はいはーい、今あげるから待ってね」


 お肉を持っていくと、わらわらとクリス、ジル、チャッチャ、チッチャに囲まれる。

 その姿はさながらアビスマーダーキャットに襲われている様だろう。

 酒場全体がちょっとピリついている。


「ちょっと少ないけどごめんね。今はこれで我慢して」


 小声で話しかけ、お肉を食べるクリス達をひと撫でし席に戻る。


「じゃ、私も…きゃ!? シオン!」


 私のフードの中に隠れていたシオンがテーブルの上に飛び出し、それを合図にアジサイとカスミも顔を出す。

 アジサイは蒼兄さんの顔にへばりつこうして失敗し握り込まれ、カスミは周囲を気にしてフードの隙間から少し顔を出している。


「「「「スライム!?」」」」

「あっ! 私の従魔なので大丈夫です!」

「…スライムが従魔なの?」

「はい、とっても可愛いんですよ」 


「へぇ~……」


 グロウ君がちょっと引きぎみだ。

 こんなに可愛いのに。


「ごめんね。シオン達もお腹すいたよね」


 まず私は一口大に肉を切ると口へと運び味見をしてみた。

 魔物の肉は一言で言うと美味しかった。

 でも地球産の物と比べると味に違和感があるのは、やはり調味料が原因なのかも知れない。

 このデスブラウンブルのステーキは塩とハーブっぽい味付けだ。


 次に私はシオン、アジサイ、カスミを膝の上に乗せお肉を細かくして食べさせ、ヨモギとサクラはバッグの中で食べさせる。

 お肉を取り込むと体の中でシュワシュワして見ていて面白い。

 サラダも欲しがるので食べさせるととても喜んでいた。



 カスミは少ししか食べず、直ぐ剛兄さんの元に戻っていき、私が止めるのが叶わず剛兄さんが飲んでいた果実水に飛び込んでいた。


「カスミっなにやってるの! あー、カスミは水分の方が良かったのかな? 剛兄さん、ごめんなさい」

「…いや、大丈夫だ…」


 次は気をつけなきゃ。

 

果実水を飲みきったカスミは『ごめんなさ~い』と私に飛び付きスリスリ甘えて、剛兄さんにも甘えに行った。

 くっ、可愛すぎるっ…



 それから私達も食べ終えるも、アジサイは蒼兄さんの顔に飛び付く態勢を整えるが呆気なく捕まったり、シオンはカスミに対抗してかスリスリ甘えるどころか服の中に入ってしまったり…


「あっ! ちょっとシオン、そんな所入っちゃダメよ、くすぐったいったらっ」




 酒場中のガン見の視線にも気づかず、その場はお開きとなった。







お読み頂きありがとうございます。

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