二つの異様な反応
「スタンピード…」
私の不安を感じ取りクリスがすりすりしてくれる。
『麗ねぇちゃ、僕らがいるから心配しなくても大丈夫だよ』
この世界のスタンピードには二種類があるらしく、その主がダンジョンの魔物が増加してダンジョンの外へと溢れ出る事。
その為、国や冒険者ギルドがダンジョンを管理して、定期的に魔物を討伐している。
後のもう一つが、ダンジョン外でのスタンピードで、魔素の濃い場所で魔物が増え凶暴化して群れをなす事。
そして、ダンジョンだろうが魔素の濃い場所だろうが、スタンピードを引き起こした魔物達は必ず人里に向かう。
その理由は未だ分かっていないらしい。
ギルドマスター曰く、ここ数十年、ダンジョン外のスタンピードは確認はされていない。
ダンジョンでのスタンピードは九年程に前に小規模のものが他国で派生したのが最後で、それ以降のスタンピード派生の記録はどの国々でもないという話だ。
『漸く動くかな』
ギルドマスターにスタンピードについての簡単な説明を聞き終えたところで、クリスがあの小部屋の方向を向き耳をピコピコさせている。
クリスの口振りからして、小部屋の残りのオークがこちらへ出てくるのだろう。
周りのオークもチッチャとチャッチャ、【深紅の薔薇】が隠し部屋からオークを離すように誘導して戦っているので、小部屋に突入するなら今だ。
小部屋に移動するクリスに付いていくが…。
「待て。麗はここに残れ」
「えっ どうして」
クリスに付いていこうとして蒼兄さんに止められる。
(そんな気はしてたけど…やっぱり)
「どうしても何も…あの部屋はダメだ。麗はジルとここに、心配ならチッチャかチャッチャも寄越して……」
そのチッチャとチャッチャは楽しそうに豚さんとじゃれている。
豚さんはブヒブヒと必死だけど。
「あれは無理か…」
「だったら、やっぱり部屋の方に…ギルドマスター達も行くなら、その側にいた方が安全でしょ?」
チラリとギルドマスターとグレンさんを見やると、目が合うも二人とも表情は変えない。
私が蒼兄さんを説得しろということだ。
今はどうしても小部屋やダンジョンの魔力が気になるから、絶対に蒼兄さんは説得しないと。
なのでクリスとジルに助けを借りる為に視線を送る。
『………』
『……はぁ…』
ジルには溜め息を吐かれたが、二匹とも協力してくれるようで頷いてくれた。
『麗ねぇちゃ、部屋の中のオークは僕が始末するから、それまでは絶対にあの部屋には入らないこと。それでいい?』
「うん。それでいいよ」
『蒼にぃちゃ、剛にぃちゃもそれでいいよね』
『大丈夫よ。あたしもいるから』
「――っ…ああ、分かった」
「…異存は無い…」
蒼兄さんと剛兄さんから許しも得たので、私達は急ぎ小部屋へ向かった。
チッチャ達と【深紅の薔薇】がオークの数をだいぶ減らし、それでもまだ数は多いが、小部屋の周辺に今はオークの姿はない。
クリスが小部屋の扉に着くなり戦闘体制に入る。
気配感知で調べると部屋には三十近い数の気配があり、更に索敵スキルを使うと部屋の奥に二つの異様な反応があった。
これが、もしかしたらオークキングとオーククイーンなのかも。
「クリス、俺も加勢する」
『蒼にぃちゃ、僕だけでも大丈夫だよ』
「いや、クリス。お前にだけこんな事させられない」
クリスは『でも…』と私を見るが私もクリスの目を見て頷き返す。
私の言いたいことが分かったクリスが蒼兄さんの加勢に応じた。
そうして、クリスが合図を出すと、剛兄さんが小部屋の扉に手をかけ開けた。
―――その、ほんの一瞬だった。
『!!』
「――チッ」
「…っ…」
小部屋の奥にいたはずの異様な二つの反応が扉を開けた瞬間、直ぐ目の前にいて飛び出したのだ。
飛び退くクリス、舌打ちする蒼兄さんに眉間に皺を寄せた剛兄さん。
そして、小部屋から飛び出したのは、大して大きくない扉からよくも出れたと思うほど、でっぷりと肉の付いた巨体を揺らすオークと普通オークより少し大きな背丈だけど、オークジェネラルと比べ物にならない程のバキバキの筋肉を持つオークだった。
「気を付けろ! オークキングとオークエンペラーだ!!」
ギルドマスターが声を上げたと同時にバキバキのオークが脇目も振らずクリスに襲い掛かった。
チャッチャ『読んでくれてありがとな』
チッチャ『あのタプンタプンな豚さんはなんにゃっ!!』
チャッチャ『へぇー。面白そうだな!』
チャッチャ&チッチャ『にゃにゃにゃにゃ…』
でっぷりオーク『ビクゥッ!』




