表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/62

54話 双子の意味 ~1~



「……っ」


 ズン、と建物全体が揺れる。ラスフィングは全身に感じる振動に足を止めそうになるも、ひたすら進み続けていた。


 ヴァルダンと対峙したヨルカは無事なのか、ローゼのもとに置いてきたアルミナは無事なのか……。

 駆けながら様々な思いが去来し、不安や気がかりが心に残る。しかし、弟との決着も近づいているのだ。自分のことにも集中しなければならなかった。







 そして、ようやくそのときが訪れた。


 秘匿処場最奥の広間。小さな窓からわずかに光が差し込むそこに、彼は待ち構えていた。


 ラスフィングは前を見据えながら走る速度を落とし、同時に息を整えていく。

 心臓を奪われてから9ヶ月。そして、急に姿を現し、一部の記憶を消されてから4日ぶりの再会。

 濃青の髪と瞳。まとう衣装こそ違うが、同じ顔立ちの男がそこに立っていた。


「やっと来たな。ラスフィング」

「シュラウス……」


 互いに認識し、名を呼び合う。瞬く間に、緊張感のようなヒリついた空気が流れた。


「心臓がないのもそろそろ慣れてきただろ? 次はどこを抉ろうか。目玉か肺か……。腹でも抉って不能にしてやろうか」


 しかし、剣呑な空気とは裏腹に声音や態度は落ち着いていて、すぐさま襲いかかってきそうな雰囲気はない。

 そんな彼へ、ラスフィングも冷静に口を開いた。


「そろそろ聞かせろ。どうしてオレの心臓を奪ったのか」


 殺す訳でも潰す訳でもない、むしろ大事そうに持ち去った理由は何なのか━━そして、水槽で育っていたあれは一体何なのか。

 目を細めて答えを待っていると、聞かれたシュラウスはニヤリと笑った。


「見てきただろ? お前の心臓から、新しいお前が作られているのを」


 その答えにラスフィングはため息をついた。

 やはり、あれは自分で間違いなかったようである……腰に手を当て、呆れたように聞き返した。


「やっぱりあれはオレだったのか……。同じ顔の奴作ってどうすんだよ」

「意味はある……オレが欲しいのは、不出来な(・・・・)お前なんだから」


 何も、唐突に生まれた感情ではなかった。

 自分が王族だと知ったときから、自分が第2王子だと知ったときからの苦悩である。


オレ()お前()、その差はたった数秒だというのに、その数秒だけで肩書きだけでなく能力もお前より劣っているとされた」


 第1王子のラスフィングと、第2王子のシュラウス。

 当然、それは王妃が産み、取り上げられた順で決められた。


 初めは差などなかったが、成長するにつれそれは如実に現れていく。

 成長したラスフィングは優秀で、まさに王の器だった。常に最短で正解を出してしまうため、その度にシュラウスは比べられた。その度にシュラウスは、兄とは違う形で最優を導かないといけなかった。


「オレだって努力した。何度も見返してやろうとした。何より、お前に追いつくため、追い抜くために━━」


 しかし数十年、周囲のシュラウスを見る目はついぞ変わらなかった。

 ……悔しかった。たかが数秒早く生まれただけの兄、それなのに、どうしてこんなにも差が出来てしまったのか。


 長い苦悩の果て、辿り着いた答えが、自分にとっての理想の兄……すなわち、自分より劣った兄を作り出すというものであった。


「協力してくれる人にも出会って、計画を立てた。人が近づかない場所を見つけて、必要なものを集めて……そして、新たな命に相応しい源である心臓を狙った」


 手に入れた力でラスフィングの胸を貫き、その足で秘匿処場へ向かった。水を貯めていた水槽に入れ、「兄」を培養する━━心臓から徐々に作られていくものを大事に育てた。


 そうして何日もかけ、誰にもバレずにあそこまで成長させるまでに至った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ