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23話 『あんたがアルミナ様?』

またも長くなりそうなので分割します




 エメラとの茶会がお開きになり、ヨルカに送られて自室に戻ったアルミナはその足で寝室へ向かい、ベッドへ腰をおろした。

 マットレスが沈むと同時に、息が深く落ちる。しゅんと落ち込んだ表情を浮かべるその脳裏では、つい数分前まで行われていた茶会のことを思い返していた。


(仲良くなれた、というより……)


 アルミナを悩ませていたのは、会話の内容。茶会の最中、アルミナは質問攻めとなっていたのだ。それも主に、ラスフィングに関することばかり。

 終始エメラがしゃべり続け、“お話をした”というより、尋問されたと言った方が正しかった。


 結果として肩を落とすことになってしまったが、しかし、嬉しかったのも確かであった。

 あれほど長時間、クィーナとの茶会以上に人間としゃべり続けたのは初めてだったので、何とも新鮮な経験だったのだ。


 面と向かったから分かったことだが、エメラという女性は、伯爵令嬢らしく優美な人物だったが、言葉の端々は平民のそれのように砕けていた。

 初めて会ったときは美貌故の迫力に怯えてしまったが、その自然さに、もしかしたらこっちの方が素ではないかとさえ思ってしまったほどであった。


 加えて、去り際にエメラは「またどう?」と笑顔で言ってくれた。

 もし、次また本当に誘ってくれるのなら……。今度はちゃんと対話出来るようになろうと心に決めたアルミナは、もっと彼女のことをよく知る勉強をしようと腰をあげた。


 個人情報はさすがに知れないだろうが、出身国のことは調べられる。以前ヨルカに習い勉強したが、いざ話題に出して間違っていたら失礼になると思い、復習しておこうと思い至った。



 行き先は、王城書庫室。

 現在国内で流通している本はもちろん、型落ち品や絶版書もすべて揃っているという、本好きにとっては聖地とも呼べる場所である。

 常駐する司書に告げれば持ち出しも可、閲覧席も自由に使っていいとヨルカから聞いていたので、そこを利用しようと考えた。



 書庫室までの道順は覚えている。部屋を出たアルミナは右に曲がる。━━と、背後から声をかけられた。



「ねぇ、あんたがアルミナ様?」


 気さくな問いかけに反応し振り返ると、そこには長い銀髪を束ねた、赤い瞳の人物が立っていた。

 真ん中に切れ込みがある短いローブのようなものをまとっていて、身長はアルミナと同じ程度。見た目は中性的で一見すると分からないが、声の高さと、膨らんでいる胸部を見て女性だと判明した。


 明確に名前を呼んできた、けれども今まですれ違ったこともない人物の登場に、アルミナは困惑を隠しきれない。


「はい。……あの、どちら様で……」


 おそるおそる聞くと、少女はニッと笑い胸を張った。


「僕はカミネ。エラルヴェンの癒術士、魔女国の魔女であり、君に宣戦布告をしにきた者さ!」






  ◇



 声高らかに名乗った癒術士カミネは、書庫室へ行くというアルミナに同行し、2人は揃って書庫室へ足を踏み入れた。


 見上げるほど高い本棚がいくつも立ち並ぶ、書物の蒐集所━━たちまち鼻に届く本の匂いが胸にすんなり入り、心を落ち着かせてくれる。


「龍神様も本って読むんだ。何の本読むの?」

「ロントールのことについて書かれている本とか、ですね」

「へぇ。んじゃこっちだね」


 すると、カミネはアルミナの手を引き、するすると本棚の合間を抜ける。そして、特に迷うことなく目的の棚の前で足を止めた。


「探すの、早いですね」

「僕もよく使うからねー」


 目を丸くするアルミナに、カミネは軽快に笑って答える。


 棚にびっしり詰められた本を前に、目的の本を数冊手に取ったアルミナは閲覧席へ移動しイスに座る。対して、カミネはその向かいに座り、本を読むアルミナの顔を楽しそうにまじまじと見つめた。


 話しかけてくるわけでもない、ただ無言を貫く視線に、やがて耐えきれなくなったアルミナは顔を持ち上げて正面にいるカミネを見た。


「あの、それで、宣戦布告というのは……」


 視線は当然気になるが、さっきの言葉も気になった。

 意味は理解している。アルミナに対し、何かしらの戦いを申し込みに来たのだろう。しかし、初対面ということもあり、何についてなのかは見当もつかなかった。


 金色の瞳を不安そうに(かげ)らせながらも見つめ返してくるアルミナに、カミネは頬杖をつく。


「だって、ラスフィング様の婚約者なんでしょ? だったら僕のライバルだ」




 ━━そして、さらに口の端をあげてにんまり笑い……。


「ねぇ。ラスフィング様のどこが好きなの?」


 中性的な赤瞳の魔女は、首を傾げてそうアルミナへ問いかけた。





今後もよろしくお願いします

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