21話 『ようこそアルミナさん!』
長くなりそうなので
分割します
翌日、ヨルカはアルミナの部屋を訪れた。
扉を数回叩き訪問を知らせると、しばらくしてからアルミナがひょっこり顔を出す。
金色の双眸を見開き見上げてくる彼女へ、ヨルカは腰を少し曲げてふわっと笑いかけた。
「こんにちは姫様。ご機嫌はいかがですか?」
「えぇ。……ヨルカ様お1人ですか?」
控えめな返事のあと、アルミナはきょろきょろとあたりを見渡してから首を傾げた。
ラスフィングも一緒にいると思っていたのだろう。しかし、目の前にはヨルカだけなので、不思議に思っているようであった。
「そうなんです。今日はこれを渡しに来まして……」
そう言って差し出したのは一通の手紙。
封がされていない、白い手紙を両手で受け取ったアルミナはさらに困惑、頭上に疑問符を浮かべた。
「これは……」
「招待状らしいです。昨日来たエメラ様、いるでしょう? そのエメラ様からで、姫様をお茶会へ招待したいそうです……といっても、これからなんですけど……来れますか?」
申し訳なさげに問うヨルカに、アルミナは再び手紙に視線を落とした。
急な話にたじろいだが、同時に以前、ラスフィングが言っていたことも思い出した。隣国からの来客……外交の練習、ほかの令嬢と関わる練習にもなると。
このままラスフィングと成婚すれば、もっと大勢の賓客と会うことになるだろう。
彼女は同盟国の伯爵家。元婚約者ということを抜きにしても、まさに必須の交流━━彼の言う通り、より人を、より人界を知るいい機会だと思うことにした。
意を決して、頷く。
「はい。行かせていただきます」
「では、エメラ様の部屋までご案内します」
朗らかに笑うヨルカに先導され、アルミナは歩き出した。
◇
しばらく歩き、2人はエメラが滞在する賓室へと辿り着く。
「エメラ様。お連れしましたよ」
ヨルカが、扉の奥へ声をかけてから開ける。その後ろで、アルミナは胸に手を置いて静かに深呼吸した。
部屋に入ると、中にいたエメラはアルミナを見るやいなやぱぁっと顔を輝かせた。
そして足早に近寄り、両手を取りブンブンと振った。
「ようこそアルミナさん! 昨日ぶりね。来てくれないかと思っていたわ!」
「こ、こんにちは。エメラ様……」
美しい顔と声に気圧されてしまったように、アルミナはかろうじて挨拶を返す。
彼女のぎこちない笑みを見たエメラは、そっと手を離して少しだけ眉尻を下げた。
「あたくしみたいなのが急に来て驚いたでしょう? さ、お座りになって」
「は、はい」
勧められたイスをヨルカがひき、アルミナを座らせる。
ヨルカが下がると、入れ違いでエメラの侍女がやって来てアルミナの前にカップを置き、紅茶を注いだ。
赤茶の液体が満たされ湯気があがり、いい香りが部屋を包む。
「うちが所有している茶園で採れた茶葉を使った紅茶です。……こちらフードも自由にお召し上がりになって。龍神様のお口に合えばいいのだけれど」
テーブルの上のティーフードをアルミナの方へ押し出す。
いきなりフードに手を伸ばす勇気はなかったので、アルミナはおずおずとカップを手に取り、一口。……瞬間、目を見開いた。
「……美味しいです……!」
「でっしょ~。おかわりも用意出来てますから遠慮なさらないでね」
エメラも、優美な手つきで紅茶を一口含む。
用意したものを美味しいと言ってもらえてご満悦な様子であった。
「それにしても、美しいお髪と瞳ですわね。我が国ロントールでもそうそういないわ」
「ありがとうございます。エメラ様もとてもお綺麗です」
「ご兄弟はいらっしゃるの?」
「いえ、わたくしは1人っ子で。母はわたくしを産んですぐ亡くなってしまったそうです」
「あら、そうでしたの……。では、多くの龍に育てられたと?」
「そうです。お父様のほかに、たくさんの仲間が面倒見てくれて……。あの、エメラ様は……」
「あたくし? あたくしはね━━」
明確な合図は特になく、茶会は何気ない内容から始められる。
美味な飲み物や食べ物を囲んでの、女同士の会話が繰り広げられた。
ぱきぱきと明るく話すエメラに、緊張がほどけてきたのか徐々にアルミナにも笑顔が増えていく。
やがて、少しだが食べ物にも手を伸ばす余裕も出始めていた。
その様子を、ヨルカは端に控えながら見ていた。
エメラはラスフィングの元婚約者だ。現婚約者であるアルミナへよくない感情を持っていたらと不安に思っていたが、それは杞憂だったようで。
この部屋にはエメラの侍女もいるが、不審な動きをしている者はいない。この場で過剰な警戒は無粋だとアルミナの笑顔を見て感じ、少し肩の力を抜いて静かに見守ることを決めた。
物語的にも更新的にも遅くてごめんなさい
分割したので、次話は『一方その頃』的な感じになります




