ヒカルはヒカル
主人公はヒカルです
養父ハル爺さんと養母トシコさんのお話から始まります
とうとう この日が来てしまった
満月に背を向けて立つ男を見てヒカルはそう思った
ヒカルは捨て子だ
過疎化が進む
山林と畑に囲まれた
老人達の集落でヒカルはハル爺さんに拾われた
爺さんと言っても、都会でサラリーマンをしていたのだが、不景気で早期退職者を募っていたので、老後は田舎で暮らしたいという妻のトシコさんの夢を叶える為に、都会の住んでいた家は息子夫婦に任せて、夫婦でこの田舎に越してきたので、爺さんと云うよりも壮年と云うべき。
古民家をリノベして,ご近所さんと夕食を誘い合うくらいに仲良くなった頃に、隣りの廃屋で赤ん坊を拾ったのだ。
気付いたのは、妻のトシコさん。
「ハルさん、ねえ,ハルさん起きて」
「・・・うん、・・」
「ハルさん、お願いだから起きてよ」
言いながら、私の体を揺さぶる。
「トシコさん、今何時?」
サイドテーブルに置いた、目覚ましがわりの携帯電話を手にして見れば、まだ夜明け前だ。
「寝たの、遅かったの知ってるよね」
昨夜は、ご近所さんと満月フラワームーンを見ながらの、『満月を愛でよう会』と云うお食事会だった。昨夜の満月は素晴らしく輝いていたので、つい飲み過ぎてしまった。アルコールが抜けないせいか、口調がきつくなる。
「お願い、でも起きて欲しいの。隣りの家から泣き声がするのよ」
隣家は、誰も住んでいない。随分前にお婆さんが一人で住んでいたらしいが、亡くなった後は其のまま放置され、廃屋になって、野良猫が住んでいる。
「猫が赤ちゃんを産んだじゃぁ、ないのかな」
うーん 確かに泣き声が微かに聞こえるが、ベッドから出るつもりはない。もう少し微睡たい‥
「分かったわよ。ひとりでいくわ。ハルさんは寝てれば」
私を起こすの諦めた妻は、もう‥懐中電灯は何処にあったかしら?なんて言いながら、寝室から出て行こうした。
ここで一緒に起きなければ、後で何を言われるかと心配になり、私は起きて、トシコさんが持っている懐中電灯を受けて隣家に乗り込むことにした。
『おんぎゃぁおんぎゃぁっ』
家を出れば、大きく聞こえてきた泣き声。
子猫じゃあ無い。
私達は体を寄せて、隣家の門を抜けると、玄関のドアの前に置かれたベビーバスケットを見つけた。
フラワームーンの柔らかい月明かり浴びて、赤ん坊は光り輝いている。
私は,懐中電灯をトシコさんに渡して、ベビーバスケットを拾い上げた。
家に戻り、警官に通報すれば隣町から警官が来てくれるとのこと。
私たちは、リビングのテーブルの上に置いた、ベビーバスケットを覗き込んだ。赤ちゃんは泣き疲れたのかぐっすり眠っている。
「コーヒーでも淹れましょうか」
トシコさんがキッチンへと立った。
私はソファーに座り、赤ちゃんの寝顔を見ていた。
まつ毛がピクッと動く。柔らかそうな頬には涙の跡が残っていた。
あぁ、息子が子どもの頃もこうやって寝顔を見ていたと思い出す。起こさないように見ていた。
起きている時間に帰ったことは無かった。一緒に風呂に入ったことも無い。キャッチボール、遊園地さえ連れて行けずに、トシコさんが撮ってくれた写真で、息子の笑顔を知ることが出来た。
キッチンからコーヒーの香りが届く。コーヒー豆は馴染みのコーヒーショップのブレンドを、息子の嫁さんに頼んで送ってもらっている。
満月が赤ちゃんを見ていた
この子を育てたい
この子を育てたい
涙に濡れる頬と硬く閉じたまつ毛から
笑顔溢れる声を聞きたい
笑った写真を見るだけじゃ嫌だ
一緒に撮りたい
笑顔を写したい
トシコさんは許してくれるだろうか
コーヒーの香りが強く感じた。
初小説です
初投稿です
拙い文章です