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さよなら、魔法使い

少し残酷な表現があります。

苦手な方はブラウザバック・・・・・

してください。

 二人の前にぞろりと男たちが姿を現す。手に手に剣を持っており、その剣が汚らしく脂で曇っているのが眉をひそめさせた。

「シア、つけられたな」

「ほうほう、こりゃあ美形のお兄さんだね。兄貴、こいつは男娼館に売り飛ばそう。いい金になる」

「黒髪に金と銀のオッドアイか。珍しいじゃねえか。高く売れるな。間違いねえ」

「三人か……。人の値段を勝手につけるなよ。俺は今すこぶる機嫌が悪いんだ。どうなっても恨むなよ」

「丸腰で何の戯言言ってる。お前たち、このお兄さんの相手をしてやれ。綺麗な顔に傷つけるんじゃねえぞ。大事な商品だからな。俺はお嬢さんに用がある」

 言うなり、ギラッと剣がセオドーシアに突き出される。

 だが、次の瞬間、セオドーシアはマントを脱ぐと剣に向けてふわりと被せた。

 あっという間に剣は翻ったマントにくるくるとからめとられて、男の手を離れ、空を切るとセオドーシアの足元へストンと刺さった。剣を抜いてローランドに渡す。

「はい、ローランド」

「優秀な生徒だ、シア。だが、今の技は教えていないはずだが」

「エリス様に聞いたのよ。こちらが素手の時に相手の剣を奪う方法。でも一度だけしか使えないのが弱点なのよね」

「何やってんだよ、馬鹿か、兄貴。あんな子供だましに引っかかってよ!」

「来ないのならこっちから行くぞ。シア、離れるな」

「わかったわ、ローランド」

「へ、その剣はな、普通の剣より重くこさえてあるんだ。さ、兄貴に返しな。慣れないもん振り回すと、ぎゃあああ!」

 ローランドの背中に隠れながら、セオドーシアは思わず目をつぶる。

 腕が……。あたりが一気に血生臭くなる。

 剣を持った腕を切り落とされた男は地面を転がりまわっている。セオドーシアに剣を取られた男が慌てて抱き起しに走った。立っているのは一人のみ。

「野盗は黙って去れ」

「……、よくも弟の腕をぶった切ってくれたな。兄貴! こいつ、殺してもいいよな」

「野郎は殺してもいいが、女はダメだ。くそっ、剣が取れねえ。何て馬鹿力で握ってやがんでえ」

 切り落とされた腕が掴む剣は指から離れようとはしない。

「行くぞ!」

 キン、キンと金属音が響く。上、下、右、左、時々、鍔に当たる鈍い音。

 キーンと一際、甲高い音がして男の剣が飛び、地面に刺さる。

 丸腰になった男が叫ぶ。

「兄貴っ! 兄貴っ! 助けてくれ! 殺される!」

 叫んだ瞬間、ひゅんと空気が唸り、矢が男の胸に深々と刺さった。剣を取ろうとしていた男が顔色を変えて矢の放たれた方を振り向く。

 酷く慌てている。

「頭! すまねえ。こいつら全然使え、ぐえ……」

 いつの間につがえたのか二番矢は喉笛を貫いていた。ドウッと仰向けに倒れた。

「大将の出番か」

 弓を肩にかついだ大男が姿を現す。今までの三人に比べると威圧感が半端ない。

「馬鹿な手下だったが、こうまでコケにされるといくら何でも不憫でな。引導を渡してやった。こいつも、もう長くはあるまい」

 そう言って、地面に伸びている片腕の男を眺めた。

「大弓がひけるとは、さぞかし名の知れた弓の名手だったと思うが、今は野盗の頭か」

「国に帰ろうと思ってな。最後の一働きだったんだが邪魔が入った。綺麗なお兄さん、見たところ、あんたも同じだな。この国を逃げ出すつもりなんだろ」

「違うわ! ローランドは逃げ出したりなんかしないわ!」

「ふふ、可愛いねえ。二十若ければ恋敵になるんだが。老兵は去ることにするよ。元気でな、お二人さん」

 大男が見えなくなるまで後ろ姿を見送った。

「貫禄のあるやつだったな」

「本当に逃げるつもりだったの?」

「え?」

「ローランドがいなくなるのは我慢できるの。でも、逃げ出すのは嫌。きちんとお別れを言ってからどこへでも行ってちょうだい」

「シア……」

「第二王女付き文官の任を解きます、ローランド。もう、あなたは自由よ、私の魔法使い。旅に飽きたらデュフレーンへ戻ってきてね。寂しくなったらすぐ帰って来てもいいのよ」

「寂しくなったらすぐ帰って来るよ、シア」

「ふふ、まあいいわ。またね、ローランド」

「御意、殿下」

 ローランドは神殿へ、セオドーシアは馬の方へと背中を向けて分かれて歩き出した。


「ローランド!」

 我慢できなくなって、振り向いてセオドーシアが叫んだ。碧の瞳が濡れている。

 ローランドは振り向かない。

「本当は、本当はあなたについて行きたいけど、マリーと約束したから。それに、それにね、私はデュフレーンの王女だから、国を守るために頑張らないといけないの。魔力なんかなくたって私のできることをするわ。だから、だから……、さよなら魔法使い!」

 その声はローランドの背中に矢のように刺さる。

 今、振り向いて迎えに行けば、あの銀の髪を手に入れることができる。

 けれど、セオドーシアの思いはどうなる?

 二人とも自分たちの考えに囚われていたから周りの変化に気付くのが遅れた。

 地面に倒れていた片腕の男がむくりと起き上がったのだ。地面に突き刺さっていた剣を引き抜くと、そのまま、剣を突き出し、ローランドの背中へと走り出した。

 セオドーシアは目の端でその姿を捉えて、男の前へと飛び出した。

 ゆっくりと男が近付いてくる。

 ローランド! 逃げて!

 セオドーシアは思いっきり叫んでいるのに、まず音が消えた。

 続いて色が消えた。

 音のない、モノトーンの景色の中で、自分の胸に深々と剣が刺さるのを、セオドーシアは見た。

 銀の髪が揺れ、碧の瞳が大きく見開かれる。

 男の口が動いて何かしゃべった。

 ザマアミロ

 それから、もう一度深く差し込むと、ゆっくりと剣を引き抜いた。今度は満足そうに微笑んで、そのまま倒れ、二度と動かなくなった。

 な、に? なにがおきたの?

 胸からは黒いものが後から後からあふれ出て、胸を押さえた手も服も真っ黒だ。

 なにかしら、これ。

 次の瞬間、痛いほど抱きしめられた。

「シア! シア!」

 ローランドの顔が見える。黒い髪に、変ね、金と銀の瞳がわからないわ。大好きなオッドアイがもう、わからない。そのうち、顔も闇色に包まれて見えなくなっていく。

「ローランド、おかしいの、真っ暗なのよ。ローランドの顔が見えないの」

「シア! 逝くな! 逝くな! お願いだ、シア……、逝かないでくれ、頼む、シア、シア、シア」

「寒い、とっても寒いわ。それに真っ暗で、何も見えないの。どこ、なの? ねえ? どこ?」

「ここにいる、シア。逝くなシア、逝くな、逝くな、頼む、シア、どうしたらいい? 俺は、どうしたらいい? シア!」

「何も、音が、しないわ、寒い、とっても寒い、真っ暗よ、何も見えない……ど、こ?」

 空に伸ばしたセオドーシアの手がぎゅっと握られる。

 セオドーシアは嬉しそうに微笑むと言った。


 ……愛してるわ、ローランド

 わたしの、魔法、つかい……














 消えろ。

 こんな世界、消えろ。




 恨んでやる、この世界を。

 この運命を。

 生まれてきたことも、会わせてくれたことも、恨む。

 滅びてしまえ。

 

 体の中から今まで経験したことのないような、痺れるような力が解き放たれた。

 

 地鳴りが聞こえてきた。立っていられないほどの揺れが襲う。

 ローランドはセオドーシアをしっかりと抱きしめた。

 滅びてしまえばいい。何もかも。

 激しい揺れが続く。

 ウブド山から火柱が上がった。

 大地が割れる。

 空が割れる。

 もう少しだ。

 消えろ、消えろ、全部、消えてしまえ。

 一緒に逝くよ、俺も。

 足元が割れて二人は落ちた。

 シア。





「ローランド」

 静かな声がローランドの頭の中で響いた。

「私だ、ローランド」

「精霊王?」

「自分のしたことを見ろ」

 ローランドはセオドーシアを抱きかかえたまま、遥か天空に浮かんでいた。

 足元は見渡す限り炎が燃え盛り、地獄を移してきたかのようだ。

「デュフレーンは滅びる」

「……」

「今、王家が全力で崩壊を食い止めているが、時間の問題だ。後少しでデュフレーンは無くなる」

 この炎の中に父や母や兄や、王宮の人たち、雄鶏亭のみんな、騎士団、侍女や女官たち、デュフレーンの人々がいる。

 みんな消えてなくなる。

 自分のせいで。

 怒りにまかせて、力を使ってしまったから。

「俺は、なんてことを」

 化け物である自分が死ねばよかったのに、この力のせいで、関係ない人々まで巻き添えになっている。

「精霊王、俺の力を使って、命を使って、デュフレーンを、みんなを救ってくれ、頼む、精霊王」

「力をもらうとお前は消えてなくなるぞ、ローランド。それでもいいのだな?」

「それでいい。シアが守ろうとしていたデュフレーンを救えるのなら。シアが助かるなら、それでいい」

「では王女をこちらへ」

 背の高い青年がローランドの前に姿を現した。腕を差し出している。

 セオドーシアを渡し、最後に銀の髪を撫でた。

「頼む、精霊王」

「では、『お前』をもらうぞ、いいな、ローランド」

 

 次の瞬間、光の束がローランドを貫いた。

 体中を引き裂かれる激しい痛みに声も出ない。

 指先から、つま先から、体が、砂が崩れるように無くなっていく。

 ああ、『俺』は何もかも無くなるんだな、とローランドは思った。

 バラバラになって行く意識の向こうで銀の髪が揺れるのが見えた。

 シア……

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