セッション5【忘れられた闇】
「!!!」
信じたくは無かったが、何度考え直してみてもあの方角であの大きさの建物なんて私と雪音が暮らすヴァルフレアのお屋敷しか有り得ない。
「どうして、わたしの家が!!・・・雪音ッッ!!!」
取り乱し、病室の扉に向けて走り出そうとする私は愛染先生に腕を掴まれる。
「・・・落ち着いて、ください。」
「離して!!雪音が、」
「・・・雪音さんを信じられませんか」
「っ!!」
動揺する私に、愛染先生は諭すように状況を説明してくれた。吹雪ポールとの対面中に心神喪失に陥ってしまった私を雪音がここまで運んできてくれたこと。一緒に連れてこられた吹雪ポールは一命を取り留め現在はこの医院の地下で匿われていること。そして、ついさっき突如響いた爆発音と共にヴァルフレア邸が炎上したということ。
ゆっくりと、低めのテンションで話す愛染先生の声を聞いていて落ち着きを取り戻したことで、思考を巡らす余裕も出てくる。・・・いや、何かを深く考え込んでいないとまた自分自身の手綱が握れなくなりそうで怖かったというのが本音かもしれない。
(あの屋敷には"目"が張り巡らされている。もしも爆発が人為的なものならば、確実に何らかの異常が検知され雪音にも知らされたはず!・・・となると、雪音は生きている可能性が高い!)
最悪の可能性を強引に排除したことでいつもの調子が戻ってくる。頭脳しか取り柄が無いのだ。そんな私が唯一の武器を捨ててどうする?
(雪音が生きているのに連絡を寄越してこないということは、連絡できない事情があるんでしょう。考えられる可能性として、犯人を追っていてそんな暇が無い、又は犯人がどこに潜んでいてどのような情報網を敷いているか分からない以上迂闊に連絡できないといったところか。・・・・爆発を止められなかったことから察するに、後者だろう。ならば相手は雪音を相手に情報戦で対等に渡り合っており、少なくとも屋敷の爆破にまで成功しているかなりの手練れ・・・・。)
リーゼロッテが落ち着きを取り戻し何やら熟考を始めたことに安堵し、愛染は静かに窓に近寄る。
屋敷を遠巻きに見つめる群衆の中に雪音らしい姿が無いかダメ元で眺めていると、その人だかりの中の一人と目が合ったと感じ、ぞわっとする感覚に襲われる。何故なら、顔をギリギリ判別できない程度の距離なのにも関わらず明確に他の人間とは何かが違うという異質さを感じさせるソレは目の前に燃え盛る屋敷があるのにも関わらず、別方向であるこちらを凝視しているのだ。
かつて闇の社会に身を置いていた経験からだろうか。愛染には、今自分が対面している"何か"が絶対に関わってはいけない類の物なのだということが直感的に理解できた。一度関わってしまえば二度と平穏な日常には戻れない類の、邪悪の具現であるのだと。
「・・・お嬢様。地下へ行きましょう。」
「はい?」
いきなり思考から掬い上げられたリーゼロッテは、声を裏返らせて答える。
「・・・嫌な、予感がします。」
信用を置く先生からただならぬ雰囲気を感じ取ったリーゼロッテはそれに素直に従うように、急いで部屋を出る愛染に付いて行く。
事務所の奥、本棚のとある本を抜き取ると出現するありきたりな隠し通路の奥にこの医院の地下施設は存在する。階段を降りてすぐ右手のドアを開けると、そこは愛染の私室となっていた。
「・・ここに、隠れていて下さい。」
「でも愛染さんは」
「いいから」
珍しく食い気味に言葉を被せてくる愛染の視線を追うと、どうやら医院に備え付けられた監視カメラの映像が映し出されていると思しきモニターがあった。
暗くてよく見えないが、無機質な緑色の文字で【正面1】と表示された枠に人影が映っている。じっと立ち尽くしぴくりとも動かないように見えるその影は、フードを被っており顔が分からない。四肢はある。体格もちゃんと人間なのだ。しかしながら、およそ同じ生物と思えない異様な空気を纏っているのがカメラ越しにもはっきりと分かる。
「・・・お嬢様に何かあったら、私は誰に恩返しをすれば良いのですか。」
リーゼロッテは直感的に身が竦んだことを隠すように俯き、拳を握る。その動作をどう受け取ったか、愛染は力強く身を翻す。
「ぉ願い、危なくなったら逃げて・・・」というリーゼロッテの消え入るような願いが愛染の耳に届くことは、無かった。
◆◆◆
愛染香澄の人生は、正しく狂気に満ち溢れたものだった。
幼い頃から人並み外れた頭脳を持ち、両親からも絶大な期待を寄せられていた彼女にはしかし、学校での居場所が無かった。小学生とは思えないほど妙に落ち着き払っていてどのようなテストでも必ず満点を記録してきた彼女は先生にも同級生にも気味悪がられ、また香澄自身もあえて幼稚な周囲に合わせることをしなかったからだ。実害なんて無いのだから、いくら学校で孤立したって良い。そう思えた。
自分はどうしてこんなにもくだらない世界に生まれてしまったのだろうと考え始めたのは小学4年生の頃だった。いじめを受けた訳でも、嫌なことがあった訳でも無い。ただただ、この世界の全てがくだらなく思えてきてしょうがなかった。特に目標も、将来の夢も無い。自己愛も物欲も意味の無い物に思えたので、もちろん微塵もない。
学校で、将来の夢について作文を書くという授業があった。香澄はその日初めて、解けない問題に直面した。適当に嘘を並べてやり過ごそうと一瞬考えたが、やめた。・・・もしかしたら、ここで自分の気持を全て吐き出せば誰か一人ぐらいは理解者が居てくれて、この無気力から救ってくれるかもしれないと。魔が差したのだ。
結果として、彼女は両親にこっぴどく叱られた。
理由は分かっていた。両親は、彼女ではなく彼女の頭脳が将来生み出すであろう金と名誉にしか興味が無いのだ、と。その恵まれた才を積極的に使うでもなく、娘がただ死ぬまで無気力に毎日を過ごす気で居るのだと知れば怒るのは道理だ。表面上は「生きたくても生きられない人たちのことを考えろ」だの「自分の頭脳をもっと社会の役に立てることを考えろ」だのと綺麗事を並べ立てていたが、香澄の両親は終ぞ娘の気持ちに寄り添った言葉は一言も投げかけなかった。
中学校を卒業する頃には既に国内最高峰の大学に満点合格できるレベルにまで達していた彼女は、"もっと上を目指さないことで両親に咎められるのが面倒"という理由で専門的な医学の勉強を始めた。程度の低い一般人にとって医学とは良い目くらましになるから。難しさの程度は変わらないのに、物理学者や数学者よりも医者の方が現代日本においては持て囃される。実際に香澄の両親も娘が医術を学び始めたと知り、狂喜した。
高校は、もちろん地元で最も偏差値の高い高校を受験させられた。有って無いような受験を通過し、主席合格者としてインタビューを受けても香澄には何の感動も無かった。目標は?と聞かれ、迷いもなく立派な医者になることですと繕うことができる程には、彼女の心は死んでいた。
だから、主席合格を妬んだ男子生徒たちに取り囲まれ、一晩中言葉では言い表せないような酷い暴行を受けても、彼女は最早傷付きもしなかった。
妊娠したことで高校中退を余儀なくされた香澄は、あっけなく両親から捨てられた。
あれだけ香澄のことを毎日褒めちぎり、お前の頭脳は人類の宝だ希望だと讃え続けていたのにも関わらず、香澄が社会のレールから外れたのだと知った途端、あまりにもあっさりと縁を切ったのだ。
死んでも構わないと、香澄は思った。両親に縁を切られたからではない。自分が必要とされてないと感じたからでもない。単純に、両親という一筋の呪縛から解き放たれて、自由になれたからだ。くだらない世界でこれ以上生きていても仕方が無いという気持ちが、胸を支配する。輪廻転生など信じていなかったが、仮に来世があったのならもう二度と人間なんかに生まれるのは御免だと思った。
その時ふと、香澄は自分のお腹が内側から蹴られたような気がした。
妊娠していることなど完全に忘れていた彼女は、不意を突かれたような気分になる。
不思議な感覚だった。
蹴られたお腹をさすり、続けて自分の手のひらを見つめる。
そうしていると、もう一度お腹が内側から蹴られるのを感じる。
「・・・もしかして、怒っているの?」と独り言を発した彼女は、自分の目頭が熱くなっていく奇妙な感覚に困惑する。いや、現象としては知っている。おそらくこれは、"泣く"という行為の前兆だ。しかしながら少なくとも物心付いてからは一度も泣いたことのなかった香澄には、とても新鮮だった。
「・・・・君は、そう・・・生まれたいんだね」
ほんの気紛れだったのかもしれない。脳の神経回路が何らかの異常を起こして、間違った感情を伝達してしまっただけかもしれない。
それでも、この時図らずも初めて「生」を実感した愛染香澄に、初めて目標ができたのだった。
◆◆◆
(・・・・居ない・・・?)
愛染香澄は、地上階の事務所へと戻ってきていた。いざという時のために廊下に設置してあった反射鏡を事務所内から凝視しても、先程正面入口に見えていた不気味な人影が見えない。
(・・・まさかもう建物の内部に・・・)
悪い想像をしてしまい、正気が少し削れるのを実感する。
事務室の机から取り出した拳銃を両手で構え、音を立てないようにそっと部屋を出る。左右に伸びている廊下の右側、つまり正面入口側には待合室ぐらいしか無い。ならばそちらに何も居ない事を確認した後で逃げ道を潰しながら建物の奥を索敵する方が確実だ。
暗い病院内の廊下を、時折背後を確認しつつ一歩、また一歩進む。不気味に光る非常口のサインから発されているブーンという低い音が、心を波立てる。
―――――――ここで失敗したら、私はまたかつてのように生きる意味を失った屍となってしまう。
じりじりと歩を進め、いよいよ待合室への角に差し掛かった。
音を消しつつ、拳銃を構えバッと飛び出す。・・・・・・何も居ない。もちろん正面入口のドアの外にも何も。既に建物内部に入られているのではないかという疑いが確信に変わった頃、すぐそこの受付に設置された電話がブルブルブル、ブルブルブル、と大きな音を立てて鳴り出す。
―――――もちろん、取るべきではない。電話が切れるのを待ってから索敵を再開するのが懸命だ。
仮にアレが電話を切るために入り口まで戻ってくるとしても、こちらに背後を見せることになる。そうなれば一息で制圧してしまえば良い。そう考え待合室の椅子に隠れて待機していたが、どれだけ待とうとも電話が切れる気配が無い。
(・・・不自然。いくら急患がいても、こんな長時間電話を鳴らす?否、緊急性の高い患者はこんな小さな医院ではなく、素直に救急車を呼ぶだろう。・・・ならばこの電話自体が罠・・・!?)
嫌な汗が全身から吹き出る。得体の知れない仮想敵が自分よりも賢いという可能性に、体が僅かに震える。
(事務所を空けたまま、死角となる待合室に隠れて数分も待ってしまった。この間に地下施設への通路が有る事務所に入る作戦だったのなら・・・!)
最悪の事態を想定し、電話を無視して事務所へ戻ろうとしたその時。正面入口の外で、片手に電話を持た人影が困ったように院内を見渡していることに気がつく。それも無視しようかと一瞬考えたが、もしも今かかってきている電話がその人物からのものなら、未知の仮想敵による罠である可能性がぐんと低まる・・・。そう思い至り、ドア前の人物の顔を椅子の裏から見据える。
手に持っている携帯電話の光を浴びて一瞬鮮明に見えた顔は、見覚えのあるものだった。
◆◆◆
香澄は生まれた女の子を、葉月と命名した。
高校中退の女手一つで子供を不自由なく育て上げられるような甘い社会でないことは理解していたため、子を生むと決めた瞬間から医学の知識を積み上げられるだけ積み上げて、資格を持たない闇医者を目指し始めた。
その過程で、彼女は己の才をカルトに売った。
闇社会に繋がりを持ち、闇医者を必要としているような胡散臭い組織を必死になって探した結果、とある教団を見つけることに成功したのだ。
そこで頭脳を買われ、闇医者として従事する見返りとして子を安全に育てられる環境を手に入れた。
不自然に四肢の溶けた者、頭蓋に穴が空き脳の容量が明らかに減っている者、心を壊され正気を失った者。本当に様々な患者を治した。愛染香澄は教団にとってなくてはならない存在となり、香澄もまた教団の庇護に感謝をしつつ精一杯葉月を育てた。
そんな日々を過ごしていく中で、香澄にとって娘は生きる希望となっていた。
始めて指を握ってくれた時。初めて自分の足で立った時。初めて香澄のことをママと呼んでくれた時。いつ如何なる時でも、葉月の存在は香澄に活力を与えてくれた。自分を無気力から救ってくれた愛しい娘。葉月が居てくれる限り、この世界はくだらなくなんてないと心から思えた。
こんな日々が永遠に続けば良いと、思っていた。
しかし香澄の願いとは裏腹に、愛染葉月は7才の誕生日を迎えたその日に、謎の失踪を遂げた。
◆◆◆
愛染先生が部屋を出て数秒の後、突如として全ての監視カメラからの映像は途絶えた。
壁にかけられた時計のカチ、カチ、という音だけが静寂を支配する。
私は、大切な物を何も守れない。
ポケットの中で携帯電話が鳴る。とても誰かとお喋りするような気分では無かったが、しばらくぶりに部屋に訪れた変化に縋るように、電話を手に取る。
画面には「夢咲泰菜」と表示されていた。心の奥で懐いていた看護師の名前を見ると、絶望とも焦燥ともつかない掴みどころの無い暗い感情が一瞬にしてぱっと明るくなるのを感じる。電話に出るべきか迷ったものの、寂しさに負けつい応答してしまう。
「ねえ、生きたい?」
電話口からは、病院で毎日世話をしてくれていた時の印象からはかけ離れた、冷たい声が聞こえてくる。
「え?」
「生きたいのなら、その願いを叶えてあげるよ」
思わず間抜けな返事をしてしまったリーゼロッテは、再度返ってきた言葉によりようやく自分が何を問われているのかを理解できた。
「・・・・もちろん、生きたい」
どうして夢咲がそのような事を聞いてくるのか解らなかった。
それでも。それでも、答えた。
「生きたいわよ・・・・ッ!皆にもずっと生きていて欲しいッッ!!!」
電話口から、聞き慣れたクスクスという笑い声が響く。
「もう、リゼちゃんは我儘なんだから♪」
会話相手が上機嫌にそう言うと、唐突に、笑い声が止む。
「なら、お姉さんが特別に叶えてあげるよ。その願い。」
そんな恐ろしく抑揚の無い声を聞いた途端、ふっ、と。唐突に、リーゼロッテの意識は途絶えた。
その後、愛染医院の地下から忽然と消えたリーゼロッテ・ヴァルフレアの姿を見た者は居ない。
◆◆◆
娘が失踪してから、愛染香澄は教団の仕事もせずに狂ったように娘を探し回る日々を過ごした。
彼女は、己を激しく責めた。裏社会に身を置いている以上は常に周囲を警戒しておかなくてはならなかったのに、不用心にも葉月を外で一人にしてしまうなんて親失格だと。
愛染葉月は親に似て、聡い子であった。幼い頃から教団の施設で育ってきた彼女は、一度で良いから外に出てみたいとずっと願っていた。我が子を不憫に感じた香澄は、ついに7才の誕生日を迎えたら一緒に遊園地へ出かけるという約束をしてしまったのだ。
そして当日。約束通り朝から遊園地へ二人で出掛けた。初めて見る大量の人、巨大な遊具、美味しそうな食べ物の数々に興奮を隠しきれない様子の葉月に釣られ、香澄の気もすっかり緩んでしまっていた。だから、お母さんの分もお昼ごはんを買ってきてあげる、という葉月の提案にも愛娘を初めてのおつかいに送り出すような感覚でつい乗っかってしまった。二度と会えなくなるのだということも知らずに・・・。
警察には届け出られなかったため、かつて教団を探し出す際に繋がりを得た闇社会の伝手を用いて探した。人身売買の専門家や薬物取引の専門家、密入出国の専門家その全てに調査を依頼したが、結果は思わしくなかった。
.......
.........
もう、諦めようか。
ここまで探しても見つからないのなら、もう葉月は死んでいる可能性が高い。
..........
廃人のようになった香澄は、死に場所を求めてとある山に来ていた。
特に思い入れも無い無関係な山だったが、麓にあった町の名前が気に入った。「神無町」・・・
救いも何も有りはしない、こんなくだらない世界と別れを告げる場所にぴったりな名前だと思ったのだ。
躊躇いもなく、拳銃を自身のこめかみに押し当てる。実弾を撃ったことは無かったが、教団では常に装備させられていたため使い方は知っていた。この引き金を引けば、全て終わらせることができる。心残りと言えば、もしもあの世が有るのならきっとあの子と同じ天国へは行けないだろうということ。葉月のことを思い出し、一筋の涙が溢れたのを知覚する。
そんな時だった。
「あなたは・・・死にたいのね。」
と、背後から知らない少女の声がした。
こんな山奥に少女が?幻聴だろうか?
「でも、良いの?復讐しなくて。」
・・・復讐?一体何を言っているのだろう・・・?
「私なら、自分をそこまで追い詰めた人間を突き止めて殺すけれど。」
幻聴ではないことを確信させる、はっきりとした怒りが声の主から伝わってくる。
無視して引き金を引いても良かったが、少女に少し興味を持った。銃を降ろし、腕から力を抜く。振り返らないまま、言葉を投げ返す。
「・・・復讐なんて、くだらないじゃない。」
「ふうん。あなたはそう思うの。」
声質から判断するに、生きていた場合の葉月と同じくらいの歳だろうか?。やはりかなり幼い。
「・・・自分が満足して、終わりよ。・・・何かが変わる訳でもない。」
少しの間を置いて、背後からまた返答がある。
「あなたがどう思うかは勝手よ。でも少なくとも私は殺されたりなんてしたら、残された人には復讐して欲しいって思うでしょうね。」
「・・・・ッ!」
理論的に、死んだ人間がどう思うかなんて考えるだけ無駄だ。死んでいるのだから、思考することも言葉を発することも永遠に無い。そのため、香澄は葉月が死んでいたとしたら何を考えるかなど最初から考えすらもしていなかった。
だから、娘と同じ年頃の少女にこのような事を言われて、ハッとする。
「・・・死人は思考しない。いいえ、したくてもできないのよ。・・・・だから、どれだけ生者が死者の意思を汲み取ろうとしても無駄なの・・・・・」
「でも、少なくともあなたの中ではまだ生きているじゃない?」
「!!」
「あなたまで死ねば、あなたの大切な人は本当の意味で死ぬことになる。」
これまでの自分には全く無かった発想に脳内を揺さぶられたような感覚に陥り思わず振り返った愛染香澄の目は、金髪緋眼の少女を捉えた。
葉月にはやはり、全然似ていない。
それでも、彼女の言葉はいやに心に刺さった。
「・・・・それに、まだ生きているかもしれないのでしょう?葉月ちゃん」
驚愕の表情を浮かべ足から崩れ落ちる香澄に対し、少女は獰猛な笑みを浮かべる。
どうしてそれを知っているのか、どうしてこのような山奥に一人で居るのか、色々と聞きたいことは有った。しかし。
「私はリーゼロッテ・ヴァルフレア。もしもあなたがまだ諦めないと言うのなら、私が協力してあげる。」
差し出された少女の小さな手は、それでも香澄にもう一度希望を見せるのに十分であった。
◆◆◆
光が、溢れ出した。
世界を覆う邪悪の光が、全てを呑み込んだ。
◆◆◆
つづく
お久しぶりです。
2ヶ月もの間何をしていたか正直に申し上げますと、ずっとやっている某有名MMORPGに大型アップデートが行われ、そっちに集中してしまっていました・・・
さて、本作『リーゼロッテ嬢は今日も生きる。』、実はとあるTRPGセッションのその後のお話というのは一つの側面に過ぎません。
自作のPCであったリーゼロッテ・ヴァルフレアに命を吹き込みたいという目標が有る。命を吹き込むに当たってどういう話を書きたいという構想も有る(前述のMMORPGの話に大きく影響され、当初と若干ストーリーラインが変わってしまいましたが(笑))。しかし、リーゼロッテが生まれた八重樫アキノ様作CoCシナリオ『残夏に啼く』から連続した世界観のままで書きたい話に持っていくためには幕間の物語がどうしても必要でした。
つまり、私が書きたかった話への"繋ぎ"にあたる部分が『リーゼロッテ嬢は今日も生きる。』です。伏線を張り巡らすこととキャラの掘り下げを行うことがメインの目的でしたので、『残夏に啼く』を知らない方々には退屈なお話だったかもしれません。それでもこの後書きまで読んでくださった皆様には感謝を。
ここからは長い旅になるかと思いますが、どうかまた最後までお付き合い頂けると幸いです。
それではまたお会いしましょう。『闇亡き夏の天気雨』にて、お待ちしております。
雛月ひばり




