セッション1 【忘れられた夏】
※この作品はTRPGリプレイ小説ではありませんが、八重樫アキノ様のCoCシナリオ『残夏に啼く』のネタバレを一部含みます。ご注意ください。
シナリオ紹介ページ:https://shotgun-marriage.booth.pm/items/712223
「くぅ~~~~~~~~~~!!!」
季節は夏。金髪緋眼のちびっこ少女、リーゼロッテ・ヴァルフレアは久しぶりに吸う外の空気を堪能していた。
「~~~~~~~~、っふぅ。」
彼女がとある村にほど近い山中にて瀕死の重傷を負った状態で発見されたのはちょうど昨年の同じ頃。むせ返るような残夏の夕暮れだったという。付近には同じように3人の人間が瀕死の重傷を負って倒れていたが、警察は結局よくある集団自殺未遂として片付けたようだ。なぜだか彼女にはそのような場所で倒れていた心当たりも、別の病院へと搬送されたらしいその3人に関する記憶も、その一切が無かった。発見されて4ヶ月ほど生死の狭間を彷徨っていた彼女は同じ年の冬に奇跡的とも言える回復を果たし、リハビリにリハビリを重ねた結果ついに本日、めでたく退院する運びとなったのだ。
「リゼちゃ~ん!」と、1年もの長きに渡り少女を担当してくれた看護師が病院の入口まで見送りに来ていた。
「本当に退院しちゃうのぉ・・・?」と100人中100人が思わず見惚れてしまうような可憐な看護師に甘えるような仕草をされてしまっては、いくら同性と言えど少女が少し頬を赤らめてしまうのも無理はない。
「ええ。今までお世話になったわね。」
「んもう、冷たいなぁ・・・」
「感謝はしているわ?」
リーゼロッテが目を醒ましてから数週間はとにかく大変な時期であった。重度の偏執症患者のように悉く他人のことを疑い、決して自分のことを喋ろうとせず周囲の手を焼かせていた彼女はしかしその看護師にだけは心を開いていったのだった。一旦他人に心を開いたことからなし崩し的に一般的な水準にまでコミュニケーション能力を回復させることができたのだから正しくその看護師はリーゼロッテの恩人というわけだ。
「そう?ならいいんだけどねぇ?」
「・・・・。」
「・・・・・、・・・・・っ・。」
何やら言い澱んでいるリーゼロッテの様子を察した看護師が助け舟を出す。
「ん~~~どうしたのかなぁ??言いたいことがあるならお姉さんに言ってみ~~?」
「いや、その・・・」
「なになにぃ~~?」
おそらく大体察しがついているのであろう看護師は口元を手でおさえながらクスクスと笑っている。
「べ、べつに、これからも仲良くしてあげてもいい・・・のだけれど」
「んーー?よく聞き取れなかったなぁ~~?」
意地悪だ、とリーゼロッテは思う。思えば入院中ずっとこうやってからかわれていたのだが、不思議と不快には感じない看護師の言動に彼女は居心地の良さすら覚えていたのも事実である。
「だから・・・その!えっと!」
「あーそうそう!リゼちゃんもスマホ持ってたでしょ~?今日から晴れて患者と担当看護師って関係が終わったわけだしさ!連絡先交換しとこーよ!」
その言葉を聞いて舞い上がる。そう、こういうところだ。人のことをからかいつつも相手が何を考えているかはちゃんと理解していて、本当に欲しい時には気を遣ってくれる掴みどころのない感じ。人心掌握術に長けすぎている。普段のリーゼロッテなら真っ先に警戒し距離を置くタイプの人間だが、何故かこの看護師なら信頼できると心から思えてしまう。
「え、ええ!そこまで言うのならしょうがないわね!私の電話番号を教えてあげる!」
「えっ、今どき電話番号とか~!やっぱリゼちゃんってちょっと変わってるよねぇ。」と、またしても看護師がクスクス笑いながらリーゼロッテをからかい始めたことに抗議するように少女は相手の携帯電話を奪い取り、自分の番号に電話をかける。
「あ、こら~!」
わざとらしく面食らった表情を作っている看護師を尻目に自分の携帯電話にかかってきた番号を「夢咲泰菜」と登録し終えたリーゼロッテは携帯電話を押し付けるように本人に返し、してやったりという表情を浮かべる。
「今度お茶でも付き合ってあげる。光栄に思いなさい?」
「それはそれは、ありがたき幸せねぇ~」
一旦は奪い取られた携帯電話を受け取りつつ、夢咲は片眉を吊り上げながら笑みを浮かべている。
これ以上発言するとまたおちょくられてしまうだろうということを敏感に察知したリーゼロッテは夢咲の返答を受け流し、タクシー乗り場の方へ振り向く。
「じゃあ、もう行くわ。」
「気をつけて帰るのよ~?」
今度は打って変わって本気で心配してくれているらしい神妙な面持ちで言葉を投げかけてくる夢咲ともう少しだけ楽しく話をしていたいという欲に駆られるが、それを抑えつけ強気の態度に出る。
「わかってるわよ。お世話になったわね。」
ああ、生きているって素晴らしい。心からそう思える。少女は自分の手を胸を当てて、目頭にこみ上げてくるものを必死に抑えながら病院を後にする。
――――――――安息を求める殺人鬼として、これからも己の矜持を貫いていくために。
◆◆◆
今は亡き両親が残してくれた莫大な資産のおかげで私がお金に困ったことは無かった。そのため優雅にもタクシーに乗り込み数十キロ離れた自宅のある街の名前だけ運転手に伝えると、着く頃にメーターがいくらまで跳ね上がっているのかなどということには一考もくれずに自分の思考世界に入っていくことができた。
去年の夏の記憶を掘り起こす。
(私に・・・一体何があった?どうしてあのような場所で死にかけていた?)
入院中、何度も考えたことだ。しかし何度思い出そうとしても、その時期の記憶は曖昧なままであった。自宅のPCや、つけていた日記でも見れば何かがわかるとは思うのだが・・・。
(私が倒れていたという『篠奏村』・・・その村については入院中に嫌という程調べた。かなり辺鄙な土地にぽつんと存在している村だということ。古くから「葬儀の神」なる神を信奉していること。そして――――時折その神は本当に現れるらしいのだということ。)
もちろん、そんな眉唾話を本当に信じた訳ではない。しかし、関連する単語を見る度にちくりと脳を刺す得体の知れない感情がどうしても気になっていたのも事実だ。退院したらまずあの時自分に何が起こったのかを調べるのだとかなり早い段階から決めていた。
(この私をあのような目に合わせた人間は・・・・・・絶対に排除しないといけない。)
自らの意思であのような場所に出向く心当たりも、可能性も考えられなかった。つまり誰かが自分を無理矢理にでも連れて行ったか、もしくは何らかの手段を使ってあの場所まで誘導したということに他ならない。それも私が辿った結末を見るに・・・碌でもない動機で。
明確な殺意を覚えていた。私の”生”を脅かす人間は一人残らずこの世から排除しなくてはならない。排除した上で、私がやったことを絶対に誰にも悟られてはいけない。憎しみは連鎖するということを、誰よりも強い憎しみを抱く私自身が最も良く知っているから。
(・・・そのために徹底的に調べて、関係者を一人残らず全員暴き出してやるわ。)
周りの景色が全く入ってこないほどに自分の世界に浸かり、思考が更に加速してゆく。
(まず初めにあたるべきは自分と同じように倒れていたとされる3人。
初めは自分以外の人間が何かしら犯人の特徴や事実関係の片鱗でも覚えているかもしれないと希望を抱いていたけど、もしそうなら今頃犯人逮捕に至っているかそうでなくとも同じ被害者である私には何かしらの形で警察から情報が伝わっていると考えるほうが自然。
ならば他の3人も何も覚えていなかったか、もしくは”覚えていて警察に伝えなかった”ということ。そしてもしも後者なら、そんな怪しい人間を見過ごす訳にはいかない。)
しかし私には昨年の冬に目が醒めてから連日警察の取り調べを受ける中で、倒れていた他の3人についての情報は全くと言っていいほど伝えられていなかった。
(もちろん個人情報に関わることだし、いくら同じ事件の関係者とはいえ無闇矢鱈に開示されるものではないことはわかる。だけど、いくらなんでも不自然だった。例えば取り調べを受ける際に普通は「この顔に見覚えはありませんか?」と他の3人の顔写真ぐらいは見せられるでしょう。もっと言えば、「あんな状態で発見される以前から〇〇さんと面識はありましたか?」という文脈で3人の名前も知らされていておかしくない筈。それがどうだろう、名前と顔どころか性別すらも伝えられていない。情報が意図的に隠匿されている・・・
ならばこの事件の背後には権力者にとって何かしら都合の悪い事実がある?もしくは倒れていた3人の中の誰かが権力者で、事件に巻き込まれたこと自体都合が悪かった?
いずれにせよ、敵ならば私を脅かす前に消さないといけないわ。)
沈んでいた思考の海から浮き上がり窓の外をちらと見ると、視界に鬱蒼とした森林が映る。高速道路を走っているはずなのにひどくゆっくりと流れていくような錯覚にとらわれるほど広大な眼前の樹海のどこかに、ちょうど自分が倒れていた「篠奏村」がひっそりと佇んでいる筈だ。
(雪音と合流したら早速向かいたいところね・・・)
少女は一面の緑を睨みつけながら、再度決意を固める。
◆◆◆
「ここも随分と久しぶりね~…」と思わず呟いた私は生まれ育った街、神無町の役場を前に立ち尽くしていた。家まで送ってもらうこともできたが、久しぶりに外を歩き回りたいという気紛れを起こし少し自宅からは離れているこの場所に降ろしてもらったのだが・・・それが運の尽きだった。
「あれえ!ヴァルフレアの嬢ちゃんじゃないか!」
間が悪く役場から出てきた中年の男が気さくに声をかけてくる。筋骨隆々という言葉が相応しい彼の名は飯島竜介。悪い人間ではないのだが、こちらが引いた一線を無遠慮に越えてまで世話を焼いてくる感じがどうも苦手だ。
「入院してるって聞いて街の皆で心配してたんだぞう!までも、元気そうで何より!!わはは!!」
「ご無沙汰・・しております・・・」
「ん、どうした苦虫でも噛み潰したような顔をして!飯食ってねえのか!うちで食べてくかい!!今夜はカレー鍋と米だぞ!米!!わはは!!」
豪快に笑いながらいつもの調子で世話を焼いてくる飯島。この感覚も懐かしい。鬱陶しいことは確かだったが、それと同時に感慨深いものもあり感情が少しだけ昂ぶる。
「気にかけて頂いてありがとうございます。でも今日は久しぶりの帰宅だし家で使用人とゆっくりしたいので、ご厚意だけ受け取っておきますね。」
「ん、そうかい!ま、何か困ったことがありゃいつでも相談してこいよ!ヴァルフレアさんとこの嬢ちゃんならもう我が子のようなもんだからな!!」
大富豪であった私の両親は生まれ故郷であるこの町に多額の寄付をしていたことに加え、人望も厚く町民から大層慕われていたらしい。神無町で年に1度行われるお祭りや自治会の役員も積極的に引き受け、誰よりも町に尽くしてくれた立派な夫婦だったのだと町の皆は今でも口を揃えて言う。そんなヴァルフレア夫妻の唯一の忘れ形見として町民たちはいつも私のことを可愛がってくれた。皆が無条件で味方をしてくれる、まるで私を守ってくれる巨大な砦のようなこの町のことが大好きだった。
・・・・たまに鬱陶しく感じることも事実だが。
「そんな、もったいないお言葉です。でも、そうですね。何かあったらきっと相談させていただきますね。」
こういう手合いは遠慮していても延々と世話の押し売りをしてくる。ならば適度に相手の言葉に乗っかっておくのが最も賢明というものだ。
「ああ、そうこなくっちゃな!!・・さて、もちっと話してたいとこだが仕事を抜けてきてるんで俺はこれで!!神無町へおかえりちゃん!!わっはっは!!!」
最後に一段と大きな声で笑い、後ろを向いて手を振りながら去っていく嵐のようなおっさんを見送りどっと疲れたような気がしつつも、自宅に向けて歩を進める。
◆◆◆
30分ほど照りつける太陽の中を歩きようやく自宅前に辿り着いた私はやはりと言うべきか、かなり疲弊していた。いくらリハビリによって体力がそれなりに戻ったとはいえ、4ヶ月もの間寝たきりで過ごしていた代償はかなり大きい。元から同年代の女性と比べてもひ弱だった肉体は長い昏睡状態を経た結果、自分の鞄すら長時間持っていられない程に衰えてしまっていた。
「これは・・・ハァ・・・ちょっと・・・ハァ・・・何とか・・ハァ・・・しないと・・・・まずいわね・・・・・」と豪勢な屋敷に似つかわしい頑丈な金属製の門扉に手をついて小休憩していると、建物の玄関が物凄い勢いで開くのが見えた。
「り゛す゛お゛し゛ょ゛う゛さ゛ま゛~~~~~~~~!!!!」と半泣きになりながら飛び出してきたのは私が人生において最も長きに渡る時間を共有してきたヴァルフレア家の侍女、雪音だった。
「雪音!」
もはや疲れから立っているのもやっとな私の胸に容赦なく飛び込んで来た雪音をなんとか後ろに倒れることなく抱き締め返し、唯一の親友でもある彼女の名を呼ぶ。と同時に、自分の目からもずっと堪えていた涙がとうとう溢れ出すのをはっきりと自覚する。
「ごめんなさいね、一人にしちゃって。・・・主人の居ない家なんて、掃除のし甲斐が無かったでしょう?」震える声で謝罪をする。
「そんなことないです。お嬢様がいつ帰ってきても良いように毎日頑張りましたからぁ....」
「もう、涙と鼻水を主人の服に拭きながら仕事の報告をする使用人がどこの世界に居るっていうのよ...馬鹿。」
力強く抱擁を交わしているため互いの顔は見えない。それを良いことに私達はただひたすら、肩を震わせ静かに泣き続けるのだった。
しばらくそうしていたことでぽっかりと穴が空いたようだった心に充足感を得られたことで、すっかり元の調子を取り戻して使用人との情報交換に移る。
「さて、頼んでおいたアレはどうだったかしら?」
「ぐすん。はい・・・、お嬢様と同じ場所で倒れていた他3人の身元は割り出すことができました。」
こちらと比べるとまだ平常心が帰ってきていない雪音は鼻水を啜りながら答える。
「相変わらずやるじゃない。それで、その3人っていうのは?」
「それがその・・・・実は、お嬢様を含めた4人には何の繋がりも見つけることができませんでした。それどころか一人は今世間を賑わせている有名俳優、吹雪ポールだったんです。」
屋敷の玄関で靴を脱ぎながらそれを聞いた私は驚愕のあまり固まってしまう。
「ちょっと、吹雪ポールってあの吹雪ポール、よね・・・!?」
この驚愕の理由は別に私がその俳優の熱烈なファンだったからではない。
自身を含む4名の人間が篠奏村で瀕死の重傷を負って倒れているところを発見された『篠奏村事件』直前の時期にあたる約1年前、私は雪音と共に
"俳優吹雪ポールは10年前に彼女の両親に加え、雪音の育ての親に当たる当時のヴァルフレア家使用人の計三名が命を落とすことになった『SM8号暗殺事件』の関係者であるという疑いが強い"
ということを突き止めていたのだ。『SM8号暗殺事件』とは当局内部でのみ使用されている事件の識別名称のようなもので、一般に向けて公表されている呼称ではないものの雪音が何とか調べてくれた機密情報だ。
「つまり、どういう・・・私は吹雪ポールに誘い出されてあのような目にあったということ・・・・?いやでも、それだとソイツまで一緒に倒れていた理由に説明がつかない・・・・・。」
「はい。しかしお嬢様が巻き込まれた篠奏村事件の詳細が報道されず、警察関係者にも箝口令が敷かれていた理由は間違いなく吹雪ポールの存在にありそうです。」
お気に入りのソファが置かれている清掃の行き届いたリビングに1年ぶりに舞い戻った感慨にふけることもせずに、淡々と定位置に腰を降ろす。
「そう思う理由は?」
「半年前に院中のお嬢様から依頼を受けてずっと篠奏村事件の捜査状況を監視していました。まず、お嬢様方が目を醒まされたのはほとんど同じ時期だったとのことです。」
「それは・・・不思議なこともあるものね。」
「ですが大事なのはそこではありません。目を醒ました関係者達にはそれぞれ聞き取り調査が行われ、その内容も詳細に記録されていました。・・・吹雪ポールのものを除いて。」
「どういうこと?」
「同じ事件で同じように倒れていた筈のリーゼロッテ・ヴァルフレア、佐川大和、神崎アーサー吉宗の3名についての調査報告書は警察のデータベースに今でも残っています。しかしながら、吹雪ポールの分は存在していないのです。・・・いえ、厳密には、唯一残っていた第1回聴取の記録が約1週間後に削除されました。」
「つまり吹雪ポールに対する第1回目の聴取が行われて1週間以内に、上からの圧力がかかった・・・。」
「そう考えるのが自然です。そしてその第1回聴取の内容というのが・・・とても支離滅裂で。」
「支離滅裂?」
私も目を醒ました直後の自分のことを覚えている。何故だか周りの人間が全て敵に見え、誰にも心を開いてはいけないという強迫観念に囚われていたあの時期だ。自分でも言っていることがめちゃくちゃなのは解っているのに、それでも己の心を落ち着けることがどうしてもできなかった。吹雪ポールもそのような状態だったというのだろうか?
「ええ。まともに受け答えも出来ないような状態だった彼の、意味不明な単語の羅列とでも表現するべき発言の中に一つだけ、何度も登場する単語があったんです。」と前置きをした雪音は一拍置いてこう続ける。
「・・・・・・・『葬儀の神』という言葉が。」
背筋に電流が走る。どくどくと心臓が脈打つ音が自分にも聞こえる程大きくなったような気がする。
『葬儀の神』というのは篠奏村について調べている内に何度も目にした言葉だ。曰く、篠奏村にて古くより祀られている神。曰く、至福の死を与えしもの。曰く、霧の深い夕暮れにやって来るもの。そんな伝承の存在がどうして、吹雪ポールの口から出てくる?そして・・・
・・・・そんな一笑に付されるべき奇譚がどうして、私の心をこんなにもざわつかせる?
「その聴取記録は、削除されたのよね?」
「はい。最初から一切聴取が行われていないかのように、綺麗さっぱり削除されております。また、もう一つ気になる点が。」
「言ってみて。」
「同じく現場で倒れていたとされる佐川大和という男の聴取記録に、偽造の痕跡があります。」
「偽造?」
雪音の諜報能力や情報処理能力はその筋の専門家にだって負けないほど高い。そんな頼れる侍女が言うのだからきっと間違いはないだろう。
「はい。佐川大和はお嬢様や吹雪ポールと違って目を醒ました直後から通常会話が可能な状態でした。そのため警察から生年月日や職業等を本人確認のために尋ねられた際にも難なく応対することができていたらしいのですが・・・ところどころ、佐川本人の発言が差し替えられていると思しき部分があるのです。」
「後から改竄されたってこと?」
「いえ、一旦データベースに記録された後に書き換えられたのなら改竄の跡は残りますし、私もこのような推測という形ではなくもっと自信を持って報告することができたのですが。今回の件ではそもそも、最初から本人の発言ではないものが本人の発言として記録されているらしいということです。」
「えっと・・・つまり、警察は佐川大和本人に聴取までしたのにそれをそのまま記録するのではなく何故か別の発言に差し替えて記録したってこと・・・よね。どうしてそう考えるの?」
「文字の書き方の癖である"筆跡"や歩き方の癖である"歩容"の、喋り方版だと考えてくれて結構です。方言や語尾、多用する接続詞の傾向を分析すると本人の発言なのか判別することができることがあるんです。声紋や指紋といった変えることのできない肉体的特徴よりも信用度は落ちますが、それでも参考程度にはなります。」
素人にも分かりやすく噛み砕いて説明してくれた雪音はもったいぶるように一度じっくりとこちらの反応を伺う。無言で頷き話の続きを促した私を見据えて、彼女は推理を披露する。
「さて、その観点から佐川大和の調査報告書を見ると、どうも佐川大和を演じる人間が二人いるらしいのですよ。」
「佐川大和が多重人格者だという可能性は」
「それも考えましたが、私が彼のことを調べた中ではそのような事実は出てきませんでしたし、何より発言の偽造が行われた箇所が悉く事件の重大な事実に抵触する箇所ばかりだったんですよ。」
「それは・・・意図的に偽造が行われたと考えたほうが良さそうね。さすがは雪音、こんな優秀な使用人を抱えていることをヴァルフレアの人間として誇りに思うわ。」
「私なんて、自分の専門分野以外ではお嬢様には敵いませんよ。それに・・・
・・・父の仇に地獄を見せてやりたいのは私だって一緒ですから。」




