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煙は上に昇らない。  作者: 森永盛夏
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「かしわ」1

 最寄り駅にあるいつもの本屋で、いつものように漫画コーナーと小説コーナーを見て回る。新刊が平積みにされた場所を重点的に。


 お、今日はなんか面白そうなのがあるな。大学一年生のかしわは思った。なによりも本が好きで、中高と友人が出来たことがない。いわゆるつまらない男だ。しかし、そんな彼も大学生になり久しぶりに恋に落ちている。


話は、高校からの数少ない友人の一人であるけんじに誘われ、とあるサークルに入ったところまで遡る。


「はじめまして。けんじくんの友達の、かしわと申します。これからお世話になります。」


サークルのたまり場みたいになっている教室で、彼は丁寧に挨拶をした。


「はじめまして!かしわくん。って、下の名前は何て言うの?」


「あ、かしわが下の名前なんです。柳かしわと申します。先輩…なのかな?」


となりでくつろぐけんじに目をやり聞いた。結局けんじはスマホから視線を挙げなかったのだが。


「かしわくんが一年生ってんならそうだね。私、かほって言います。二年生、華のはたちってやつよ!ま、誕生日はまだなんだけどね。」


背の低い一つ年上の女性が、視界の下の方で江戸っ子みたいに鼻を鳴らした。その行動から何を思ったのか、かしわはその女性を可愛らしい。と思った。


 かしわがかほという人物を好きになるのに時間はかからなかった。大学の端にある、錆びたベンチに座ってタバコを吸う姿を始めてみたときは流石にショックが大きかった。それでも帰宅する頃には、


「いや、あの愛嬌のある性格とタバコ。そのギャップがむしろカワイイのでは?」


と電車のドアが開いた時につぶやいていた。恋は盲目。古くから伝わることわざみたいなこの言葉は、この現代にもしっかり通用する。かしわは実感した。



 「かほ先輩って何が好きなんだろう。」


もうすぐ5月も終わり6月になる。かほの誕生日は6月だったはずだ。お昼ご飯を食べにカフェに行く途中、ふと気になった。そういえばけんじはかほ先輩と仲が良かったはずだ。そう思って、隣のけんじに聞いた。


「タバコじゃね?」


けんじは適当に答えた。それか彼氏じゃね?とも言っていた気がしたけど、きっと幻聴だ。


「どんな銘柄を吸ってるの?」


タバコがプレゼントだなんて夢がないけど、それがかほ先輩と仲良くなるための近道に思えた。しかし、けんじはそんなこと知らなかった。


「俺に聞かないで本人に聞けばいいのに。」


「そういうわけにもいかないでしょぉ。」


「お前ほんとに奥手だよな。」



 奥手はかしわのコンプレックスだ。でも、直すには何をしたらいいかもわからないし直ったところで…。そこまで考えてから頭を振って本の世界に逃げ込んでいった。今日は魔法が使えそうだ。かしわは夢を見た。

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