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覇者の導べ  作者: 桃巴


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集いし藍の地に-1

***集いし藍の地に


 船は暗き海を進む。ニイヤとソフィアの乗った船である。


「ニイヤ様」


 夜空を眺めるニイヤにソフィアが声をかける。


「船室に入っていなさい。夜風が冷たい」


 ニイヤはソッとソフィアの背に手をまわし促した。


「寒くはないわ。ニイヤ様のお側なら」


 ソフィアは体をニイヤに預ける。ニイヤは包み込むようにソフィアを支えた。

 ソフィアはニイヤに支えられながら、夜空を見上げる。


「何が起こっているのでしょう?」


 ソフィアの言う起こっていること、それは昇る青き稲妻のことだ。

 色大陸から昇った稲妻は、海を飛翔し中央大陸にある。そして、藍の上空には、朱が闇を色づけている。向かう色大陸は、その名の如く色を変えている。


「藍に向かえ。始めるぞ」


 ニイヤはそう言ってソフィアを抱きしめた。


「イチリヤ様からは、それだけだったのですか?」


 ニイヤはソフィアを抱きしめたまま、"ああ"と答えた。

 ニイヤもソフィアも視線が定まらない。エデンの上空は月明かりよりも強い黄色が、波紋の光を発している。


「エデンで何かが起こっているわ」


 ソフィアの瞳は中央大陸にある。ニイヤも視線を中央大陸に向けた。黄色と青の光を確認する。


「グレコが行っている。行けばわかると言ったそうだ、イチ兄さんは」


 ニイヤは青龍の光の軌跡を追った。正に青龍の魂が転じた瞬間である。昇龍から何かが剥がれる。


「……」


 そう見えただけか? それとも……ニイヤは目を細めて青龍を追った。


「何でしょう? とても力強く感じます。色大陸から昇った時よりも、強い覇気ですわ」


 ソフィアはそう言って、ニイヤ同様に視線は青龍を追う。


「ニイヤ様!」


 ニイヤは配下から呼ばれた。藍に向かう船は二隻。海隊と陸隊が混合し、二隻に分かれて乗っている。先頭をニイヤ、後方をリライが指揮していた。


「何だ?」

「船にございます!」


 配下の指差す方向に、一隻の船が確認できた。


「白か? 紅か?」


 進行方向右手、北方から南下する船は白か紅しかない。

 ニイヤ達は間合いを一定に保つ。


「消えた?」


 船灯りが消え、船が確認出来なくなる。


「停泊!!」


 ニイヤは命を発した。相手の船がどうでるか? ニイヤ達は神経を尖らせる。

 リライの船はニイヤの船を庇うように列び、停泊した。船間は小声が届くギリギリで。


「ニイヤ様! そちらの船は灯りを消してください。存在を示すはこちらの船がします!」


 リライの声がニイヤに届く。


「わかった! リライ、気を付けろよ!」


 ニイヤは指示を出す。灯りを消し、消えた船の気配を探した。

 ギィーコ

 小さく聞こえる船を漕ぐ音。耳を澄ませ、音のする方に神経を集中させた。

 チャプン

 この音も小さい。入水の音は波にあわせ聞こえてくる。


「……これは、この方法は」


 ニイヤは直ぐに判断した。


「リライ! リーフだ! 灯りを!」


 声が通った。一斉に灯りが発つ。

 ザブッ!


「やはり、ニイヤ様だ! リーフです!」


 船間の海から顔が出る。リーフであった。


「灯りをつけよ! ニイヤ様だぞ」


 勢いよく泳ぎ出す。リーフの船は遠いが、小舟が近くまで来ていた。

 小舟の灯りが本船に合図を出す。船はゆっくり近づいてきた。

 リーフは待てずにリライの船に乗り込んだ。


「リライ!」


 ずぶ濡れのリーフがリライに飛び付くが、リライはヒラリとかわす。

 ベチョン


「うわっ!」


 リライの背後の兵がとばっちりを受けた。と、そこにちょうど船が到着し、三隻が並列した。


「リーフ、着替えねばニイヤ様には会わせん」


 リライは冷ややかに言った。リーフは直ぐ様自分の船に飛び乗り、船室に走っていった。


「相変わらずだな」


 リライの背後で声がした。ニイヤがリライの船に移ったのだ。リライの船が並列の真ん中にある。


「はい、相変わらずです。全くリーフは」


 リライは呆れ顔ながらも、声は嬉しそうである。


「リーフが船長であるにも関わらず、真っ先に先陣をきったのだな、あれは」


 ニイヤはドタバタと船に乗り込むリーフを指差した。


「何ですか?! ニイヤ様。私ですよね、指差しは」


 まだ濡れた髪を拭きもせずにリーフは近寄る。リライは眉間にしわを寄せる。


「リーフ、頭を拭けよ。こっちが被害を受けるだろ!」


 いつもは物静かなリライも、リーフの前では騒がしい。


「ああん? ちっちゃいことに煩い奴だな」


 リーフも応戦した。

 そんな二人を見ていると、ニイヤはグレコとグレコスは思い出す。二人の言い合いは、全く父達と同じである。


「もう、そろそろじゃれあいはよせ。説明しろ、リーフ」


「「じゃれあっていません!!」」


 息もピッタリに返される。


「ブッ」


 ニイヤではない。そこかしこで、皆が肩を震わせている。

 リライとリーフはキッと、笑った者を睨むのだが、その行動も二人とも息ピッタリで、皆の笑いを誘った。


「こらこら、皆そろそろ止めろ。話が進まない」


 ニイヤがその場を納めたときである。

 中央大陸から天を駆ける麒麟、飛翔する青龍。霊獣が頭上を横切った。

 皆が静まりそれを見ている。

 色大陸が、またも色づく。朱、青、黄色が夜空を飾っていた。


「藍に向かうぞ!」


 ニイヤの命が出る。一斉に隊が動き出す。


「リライ、リーフ来い!」


 ニイヤの船に二人が移る。海隊の者が三隻に分配された。リライの船は運航に必要な最低人員しか乗っていない。

 何故なら、陸上で黒に対峙する部隊の撤退場所であったためだ。拠点の死地に撤退は出来ない。死地とは反対に位置する海岸に船を配備したのだ。もしもの時に船に撤退出来るように。

 だが、それもこの状況では変わってくるだろう。

 何故なら、何かが始まっているのだから。

 否、イチリヤはニイヤに伝えている。

 始まるぞではなく、"始めるぞ"と。




 リーフは、死地の状況と船が何故ここにいるのかを説明した。

 侵攻を幾度も試みる黒に対峙し、動揺を与えるための作戦であることを。

 湖に沈んだ青龍の代わりに、サンキ達は立ち上がったのだ。

 だが、その青龍が昇った。

 それも、大陸を行き来した。イチリヤが居る中央大陸と、藍の地がある色大陸を。

 何かが始まっている。

 そして、リライは告げる。

 イチリヤの背に見えたモノを。


「本当か?!」


 岩山の麓にいた六人をリライは呼んだ。

 皆が笑顔で頷く。


「イチ兄さん……」


 ニイヤは中央大陸に目を向けた。


「……」


 その声なき声は、ソフィアが代弁した。


「わかっていたのですよね、ニイヤ様。この船に乗らないイチリヤ様が、始めると伝えたのですもの」


 ニイヤは夜空を見上げた。


「えっと、何故です?」


 ソフィアの発言を、リーフは理解出来ていないようだ。


「この船に乗らないイチリヤ様が、始めると言ったのです。イチリヤ様は、どうやって藍の地に向かうのです?」


 ソフィアはウフフと笑った。


「ああ、私は何の心配もなく船を出した。イチ兄さんが乗っていないのに。わかっていたのだ、無意識に」


 ニイヤは始書を呼んでいる。この夜空に浮かぶ月が、何を意味するか?

 イチリヤを中央大陸に置き、出航したのだ。


「……リライ、本当か?」


 リーフが確認する。ソフィアの発言を理解したのだ。ニイヤも、もう一度リライを見る。


「はい、イチリヤ様の背に翼がありました。……一瞬見えただけですが」


 リライは穏やかに告げた。

 そして、語る。妖の森のことを。


 語り終わった頃には、朝陽が船を照らしていた。

次話火曜更新予定です。

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