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覇者の導べ  作者: 桃巴


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36/48

昇-1

***昇


 岩山の麓。

 やはり、イチリヤの予想通り、グレコが岩山を登ろうとしている。必死にリライ達が体を押さえている。

「何を遊んでいるのですか?」

 皇子は悠々と麓に降りた。

 狼の……いや、狛犬の姿しか知らぬグレコ達は、あんぐりと口を開けた。

「だ、誰だ?!」

 グレコが発した。

 皇子はそれに答えず、石像を優しく抱えた。

「私は先に行きます」

 上空を見上げた皇子はそう言った。

 グレコ達もつられて上空を見る。

「あ、ああ! イチ王子様!!」

 グレコは叫んだ。岩山から身を投げたイチリヤに、グレコは発狂したのだ。

 グレコ以外は発しない。一度、それを見ているからだ。

「うるさい、グレコ」

 イチリヤは降りた。皆の前に。

「イ、イ、イチ王子様?」

 グレコだけが目を丸くさせ、驚いている。

「グレコ、話は後だ。リライは夜になり次第、森の皆を引き連れて青の国へ向かえ。ニイヤと共に藍の地に戻れ。理由は訊くな」

 リライは頷く。理由は一度見ている。岩山を登るイチリヤの背に、それを。

「急ぎます。森を抜けるに三日で行きましょう。目印がありますので迷いませんし。青の国まで半日。準備に半日。そこから藍には……三日、いえ二日で。必ず一週間以内に!」

 イチリヤは懐から、文を出す。

「これをニイヤに。リライ、頼んだぞ」

 リライの手に、文と始書の本が渡った。

「グレコ、リライと共に青の国に向かえ。だがな、その後は別行動だ」

 グレコは未だ、状況が理解できていないのか、口をパクパクとさせている。

「フッ、面倒な奴だな。さっきの黒髪は、こ……狼が変幻した姿だ。本来なら、海隊を扱えるグレコが指揮して、藍に向かえばいいのだが、グレコにはな、グレコにしか出来ぬ右腕としての使命があろう?」

 イチリヤはニヤッと笑った。グレコに挑戦するように。そうすれば、グレコが挑んでくるとわかっているからだ。

「当たり前にございます! このグレコ、騎士隊長の補佐にございます。何なりと」

 イチリヤの肩がクックッと震える。

「よし、青の国に到着したら、エデンへ向かえ。場所はニイヤに訊け。先に狼が到着しているだろう」

 グレコには意味がわからないだろう。だが、イチリヤは理由を言わない。

「訊くなということですか? 行けばわかると」

 さすが、グレコだ。イチリヤの意図だけは察している。

「ああ、そうだ。グレコにしか出来ぬことがある」

 イチリヤは言い終わると、岩山を軽やかに登った。登ったというよりも跳んでいるようだ。

 途中でふと止まり、

「言い忘れた。リライ、案内人にお礼を言ってくれ。ちゃんと別れの言葉を言えよ」

 リライは真っ赤な顔で、何とか小さく"はい"と言う。

 その横で、グレコとグレコの頭に乗るコロボが"ニヒ"と笑っていた。




 狛犬は石像の導を大岩の影に横たえる。

『覚えているか?』

 白虎が皇子に問う。

「はい、言霊に出来なかった"言"はしっかり覚えております」

 白虎は皇子に問うたこと。それは中断された儀式の最後の"言"

『カルラの復活の"言"だ。長い年月待ったのだ。間違えるなよ』

「はい、白虎様」

 皇子は笑んだ。今や、皇子しか儀式を知らない。

 エデンに記されていた儀式は、数百年前の中断とともに、消えてしまっている。

 そこにイチリヤが戻ってくる。

「すまない。手間をとらせた」

 イチリヤは横たえられた石像の導をちらりと見る。

『麒麟は四日後に、エデンに来ましょう』

 と、白虎は伝えた。青龍の魂を運ぶは麒麟であるからだ。

「父上は無事青龍を出られるであろうか?」

 イチリヤのその問いに、白虎は答える。

『藍の王には、すでに伝えております。ご安心を』

 と。

「白虎」

 イチリヤは大岩から森を眺めている。

「この森に妖がいるのは、力を集めるためだな?」

 藍の王が扱える霊獣に白虎はいない。何故、白虎がこの森に居るか?

『はい、力を集めておりました』

 白虎は肯定する。儀式は中断されている。次なる転の刻に必要な力……つまり魂に入れる力を、この森で白虎は集めていたのだ。

「転の刻はきた。だが、導の瞳は藍だ。……どの霊獣の天命なのだ?」

 カルラ復活のため、導は藍の瞳である。青龍の儀式のために。だが、本来の転の刻である、霊獣の魂の入れ換えは、導の瞳の色でわかるのだ。


『新しい儀式にございます。

儀式に必要は、


台座

言霊の者

麒麟

天命の霊獣

カルラ


カルラはイチリヤ様にございます。

麒麟は青龍復活後にも、藍の王は扱いましょう。

魂はこの森です。

言霊の者はハリャンから力を貰った私にございます。

導はナーシャ様。


そして、

台座となるは天命の霊獣自身。


玄武です。

藍の地と玄武は繋がっております』


 次なる転の刻の霊獣は玄武。イチリヤは、白虎か玄武かどちらかであると予想はしていた。

 藍の王は、麒麟と鳳凰を落日に喚んだ。その後に青龍に入ったと聞いている。残るは玄武と白虎だけなのだ。

「妹は、最後に黒の瞳になりました。玄武の色です」

 皇子が会話に入ってくる。

「私は最初、自分と同じ瞳の色であると、東国の瞳の色であると思っていました。ですが、違ったのです。次なる転の刻の霊獣を示していたのです」

 イチリヤは首を傾げた。導から魂が離れれば、自国の瞳の色に変わると、いや、戻ると理解していた。

『不思議なものです。私もそう思っていましたが、ここで力を集め出して気づいたのです』

 白虎はそう言うと、イチリヤの座る大岩に飛翔し、森に向けて吠えた。

 吠える……吠えた声はない。ただ風が森の木々を揺らした。

『すぐに来ましょう』

 白虎の楽しそうな声。イチリヤは、やれやれと事を見守るしかない。

 やがて、ぞろぞろとそれが現れる。

 黒き目をしたそれ。

「森の賢者か」

 イチリヤはなるほどと納得した。喉に引っ掛かっていた疑問も、これで消える。

「何故、賢者だけが"昼夜"森を歩き回れるのか、ずっと引っ掛かっていた。なるほど、賢者は妖ではないのだな」

『はい、力を集める者にございます。その瞳が示すは……』

 白虎はそう言ってイチリヤを見る。イチリヤは笑んだ。

「ああ、そうだな。玄武の黒だ」

 白虎も皇子も笑んだ。

 皆が目指す未来が重なった。

「グレコは四日後に、エデンに着くであろう。皇子よ、青龍に魂を入れよう。白虎よ、玄武に魂を入れよう」

 全てはグレコがエデンに到着してからだ。

『私は賢者から力を集めます。皇子は儀式の準備を。イチリヤ様は……』

 白虎が蒼天を見上げる。

「飛翔か。皇子、手伝ってくれよ? 飛翔なら私の先輩であろう」

 皇子は珍しくイタズラ顔で笑った。

「私は白虎様に手荒に、上空から落とされただけですよ?」

次話月曜更新予定です。

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