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覇者の導べ  作者: 桃巴


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31/48

『声』遠く離れていても

***『声』遠く離れていても


「ナーシャ」


『イチリヤ様?』

 聴こえるはずはないのに。

 目を開けるのも億劫で、体を起こすのも億劫で、だけど、

『イチリヤ様……今何処に居ますか?』

 ゆっくり目を開けると、夜空が広がっていた。

 外の世界なのに、悲しいの。イチリヤ様、覚えていますか? あの日、初めての外の世界はイチリヤ様のお部屋だったわ。

『初めては全部イチリヤ様がいいの』

 あの日言えなかった言葉を言った。

 苦しいよ。すごく苦しいの。

『イチリヤ様に会いたい! 会いたいのぉ』

 もう涙は枯れたと思ったのに、どうして溢れるの?

 体を起こして足首を見た。

『また埋まってる』

 足首はすっぽり土に埋まってた。どんどん埋まっていくのかな? 私は本当に藍になっちゃうのかな?

 藍に埋まっていく私。だけど、怖くはないわ。藍はどこまでも私に優しいもの。

 本当に怖いのは、イチリヤ様に会えず藍に埋もれてしまうこと。

 ううん、もっと怖いのは、イチリヤ様が覇者様を連れてくること。

 藍の復興を願いながら、覇者様は受け入れたくない。イチリヤ様に会いたいと願いながら、会えることの意味することは、イチリヤ様が覇者様を連れてくることで、私の願いは会えずとも、会えるとしても砕かれる。

『ナーシャになりたい』

 導でなくて、ただのナーシャになりたい。

 苦しくて苦しくて、胸をドンドンと叩いた。

 え?

 何故?

 そっと触れてみる。

『どうして?』

 体の変化は足首だけじゃなかった。

 柔らかく、膨らみを持った体。


「ナーシャ」

 まただわ! また、イチリヤ様の声。

 辺りを見渡すけれど、姿はない。

 耳に残るイチリヤ様の声。いつだってそうだった。イチリヤ様だけは、私をナーシャとして見てくれた。

 導のナーシャでなく、

「可愛いナーシャ」

 そう言って、いつもいつも……


 あの日、手が離れたあの日だって! イチリヤ様はずっと傍にいると言ってくれた。

 最後に離れた日も。藍の落日の日も。

 思い出すのは小指の約束。

 イチリヤ様は、一度離した手を掴んでくれた。離したはずの手を。

『イチリヤ様、願ってもいいですか?』

「必ず! 戻ってくる!!」

 耳が覚えてる。イチリヤ様の声。イチリヤ様の……想い。

 視えなくても、イチリヤ様の声は覚えているわ。今なら、わかる。


 例え、藍に埋もれても、

 例え、覇者様に身を委ねても、

 私は……


 この想いを守るために、この孤独があるなら、耐えてみせるわ。

 この想いを貫くために、この孤独があるなら、挑んでみせるわ!

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