霊獣の真実-1
***霊獣の信実
イチリヤは光の中、ニイヤから届いた本を開く。
ニイヤの文には青の国の友好国である隣国の書庫から、藍の国に関する記述がある本を見つけたことが書かれていた。
その本を借りることが出来たこと。そして、その内容に霊獣についてのことがあること。薬菓と共に伝令に託したこと。
ニイヤの文字は急ぎ書いたのか、少し乱れていた。
イチリヤは本を読む。
『世界はエデンから始まった』
最初の一行である。
『エデンが在るは最初の地。大地が始まり、海が阻む。神も魔も人もこれより生まれし』
イチリヤは本の題名を確認する。
『五大陸の始書』
と記されていた。藍の国でも始書は存在する。だが、色大陸の始まりの書である。そこに、覇者と導の記述があり伝えられてきたのだ。
その始書よりも古き本であることは間違いない。
最初の一行が世界の始まりを言っていたから。
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世界はエデンから始まった。
エデンが在るは最初の地。大地が始まり、海が阻む。神も魔も人もこれより生まれし。
エデンは世界の中心。
中心より大地が生まれ、
大地から海が始まり、
海の阻みにより大地は三つに成る。
エデンが在るは最初の地。世界の中心なり。
エデンより東の地。太陽が昇る地。
エデンより西の地。太陽が沈む地。
世界に三つの大陸が発つ。
エデンより次に生まれしは三つの光。
三つのいぶき。三つの生命。
最初に生まれしは『神』という種族。光を力に羽ばたく種族。
次に生まれしは『魔』という種族。影が力の鋭意なる種族。
最後に生まれしは『人』というか弱き種族。
三つの大陸、三つの生命。
世界は均衡に保たれる。
エデンより最後の産物が放たれるまでは……
か弱き種族はエデンの地で。
羽ばたく種族は陽が昇る地で。
鋭意なる種族は陽が沈む地で。
力ある種族は大陸を越える。
エデンの地に通いし、神と魔。
人と静かに交わりが進む。
『妖』という種族が発生する。妖は三つの大陸の何処にも居場所はなかった。
エデンから最後に生まれし産物は、
浮かぶ大地。
エデンの地より上空に二つの大地が浮かぶ。『妖』の棲みかとなる地であった。
世界は三大陸とニ天地となる。
しかし、羽ばたく力を持つ種族は、いち早くその浮遊地に降り立った。
『神』は天地に棲みかを移したのだ。
『魔』は憤慨する。陽が昇る地を荒らした。
憤りはエデンの地にも及んだ。
『人』はか弱い。
『妖』も『魔』には勝てない。
混沌とする世界。
その世界を『神』は天地から見ていた。
『神』は天地に来たことを、エデンに懺悔した。
天地は『神』の意思で降下する。
エデンの在る地を避け、
寒き北の海と、
暖かき南の海に。
エデンを中心とし、十字に位置する五大陸となる。
『神』は降下した天地を離れ、元の地に戻ろうとした。
が、その陽が昇る地は『魔』によって荒らされ、支配されていた。
『神』は『魔』の棲みかであった陽が沈む地に移る。容易く移れはしない。
元は『魔』の棲みか。『魔』はさらに憤慨した。
世界はさらに混沌とする。
『魔』の暴れる世界。
エデンに集まるは、
『神』
『人』
『妖』
『魔』の封印をエデンに懇願した。
だがエデンは応えない。
天地が最後の産物であったのだ。
『神』は考える。
『魔』を天地に移すことを。
そして再び天地として宙に上げることを。
影を力にする『魔』が天地に移るは光を浴びること。
影は天地にはない。
影は全て三大陸へ。
『神』は『魔』との戦いを天地であった場所で繰り広げた。
『魔』を天地に足止めした。
だが、望みの天地は『神』の力をもってしても浮上することはなかった。
こうして、五大陸には『魔』が広がったのだ。
エデンの在る地にも、
東の陽が昇る地にも、
西の陽が沈む地にも、
北の寒き天地にも、
南の暖かき天地にも、
『魔』と『神』が戦いを繰り広げた。
『人』はどうしたであろうか?
『妖』はどうしたであろうか?
『神』と『魔』の力は拮抗している。
『妖』は、父である母である『神』と『魔』に刃向かうことは出来ない。
『人』はか弱い種族。
力では戦えない。
エデンに集まれし『人』と『妖』に光が降り注ぐ。
光は声となる。
『我が創世し地に授けた我が子よ。言葉の力を授けよう』
『人』は言葉の力を授かった。
言霊という力。
封印を行える力を。
『我が創世し世界で育ちし子よ。互いに交わりて五つの魂を作れ。世界を治めし五つの魂を』
『妖』は戸惑う。言葉の意味が理解できなかった。
『人』は『妖』の手を取る。『神』から生まれた妖精と、『魔』から生まれた妖怪の手を繋げた。
その意味を『妖』は気づく。
こうして、世界に散らばった『妖』達は力を集結し五つの魂を造り上げた。
言霊の力を持った『人』は『魔』に立ち向かう。
選ばれしは『五人』
五大陸に五人。五つの魂。
エデンの地で言霊の力が魂に形を与える。
霊獣『麒麟』の誕生。
黄色に光る大陸。
陽が昇る地では霊獣『青龍』が誕生する。
青に染まりし大陸。
陽が沈む地にも霊獣『白虎』が誕生する。
白き無の大陸。
北の天地はどうであろうか?
霊獣『玄武』が寒き地に誕生する。
険しき黒き大陸。
南の天地では遠く寒き地まで届くかのような炎が発つ。
霊獣『鳳凰』の誕生である。
朱に発つ大陸。
霊獣達が『神』と『魔』の力を吸い上げる。
否、麒麟以外の霊獣が吸い上げていた。
エデンの在る地に逃げ込む『魔』を、『人』は言霊で封した。
エデンが示した荒野の祠に。
そして、エデンに戻りし『神』は……
エデンに身を委ねる。
エデンに全ての神が集まる。
『魔』は『人』が封印し、
『神』は『エデン』が封印した。
……エデン自身に封印したのだ。
『魔』は魔界に封印された。
『神』は天界へと……
麒麟がエデンの封した神を天界へと導く。エデンの地の上空へ。
エデンであった地には、人一人程の大きさの台座が残った。
天界に通じる台座が。
本来は、天に在るべきニ天地は次第にその姿を小さく変える。人々はエデンに引き寄せられたのだと言った。
天を仰ぎてエデンを追う。
人々の瞳に映るは蒼天の中心に深く深く色づく愛の色。
時を越え、大空を藍の双翼が翔ぶ。
霊獣よりも大きなその姿。
エデンの化身『カルラ』
世界を越える覇者の翼。霊獣の転の刻に現れる。
転の刻、導が示す。
転の刻……
転の刻、霊獣の天命の刻である。
天命の刻。
……
……




