表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
覇者の導べ  作者: 桃巴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/48

幻惑-3

 迷いのないグレコは、イチリヤに進言する。

「目的の地『大岩』に行くことを騎士隊長は優先ください。私はその他を仕切ります。コロボ、騎士隊長に着いてくれ。リライ、夜は任せたぞ」

 コロボがイチリヤの肩に乗る。

「なんじゃ、やっと戻ってきたかグレコ。ここ数日はシケタ面だったぞ」

 グレコはそんなコロボの発言にも気に止めない。

「騎士隊長は何も考えずに、リライと共に先へ進んでください。私が食料、水を運びます故」

 イチリヤは確認する。

「先に進む隊に追い付けまい。ここで一日休息すると言ったはずだ」

「いえ、今から目印の要所要所に人員を配置します。ニイヤ様からの食料を迅速に運ぶためです。ニイヤ様のことです、滞在の延期も予想しておりましょう。すでに予備食料は光山までは来ておるかもしれません」

 イチリヤは考える。人員を配置する意義を。時間をかけ一気に荷物を運ぶのではなく、森を進む者の食料分だけをリレーするなら、要所要所に人員を置けばいいのだ。

「私とリライ、その他に十名と言ったところか」

 グレコは説明せずとも理解したイチリヤに、嬉しそうに頷いた。

「毎日騎士隊長の所まで小さく食料を運びます。どんどん進んでください」

 そう言うグレコに、イチリヤは言った。

「休息が取れるように余力人員も作れよ」

 と。グレコは承知していると言わんばかりに、隊の振り分け素案をイチリヤに示した。

 イチリヤは了承する。

「では、私はすぐに岸に向かいます」

 グレコは颯爽とイチリヤとリライの元を離れた。

 その背をイチリヤは眺める。父を重ねて。藍の王をその背に見る。

「似ているな」

 ポツリと溢す。

「騎士隊長、……惑わされますよ。森はすぐに心を読み取ります」

 リライはグレコの背を見つめるイチリヤに言った。

「ハハッ、まあな。だが、もし私が惑わされるなら、父上ではなくナーシャだ」

 ーーザワザワーー

 森が揺れた。

 イチリヤは顔を上げ森を眺めた。穏やかに。その瞳は森をとらえているようで、そうではない。イチリヤはナーシャを想った。

 本来なら森はイチリヤの心の空白を突くはずだ。だが、森は優しくザワザワと揺れるだけ。

「本当に森に好かれているな」

 コロボはそう言う。リライは不思議そうに森とイチリヤを眺めた。

「この森は懐かしさを感じる」

 イチリヤの声を風が運んだ。ように思えた。リライにはそう感じたようだ。

「騎士隊長、行きましょう。まだ陽は落ちていません。コロボと共に。藍の代表と共に」

 イチリヤ達の傍に十名の者が集まる。グレコが分けた者達だ。

 コロボはイチリヤの肩から降り、ピョーンとバク転した。

「走るぞ」

 コロボは言った。言ったと同時に走り出す。小人の速さではない。コロボの残像が森へと消えた。

「遅れるな! 行くぞ!」

 イチリヤは発した。皆がコロボの残像を追いかける。

 目印をつける者は居ない。だがイチリヤ達の進んだ痕跡はある。森に続く真っ白な線。イチリヤの腰袋からサラサラと白い砂が溢れる。白沼の泥を乾かした砂だ。

 イチリヤは森に入る際に、傷薬になると思い白泥を持ってきていた。

 コロボを追いかける。

 時の番人が夜を始めるまで、イチリヤ達は森を進んだ。


「明日はちと難儀だぞ」

 コロボはイチリヤ達に今日最後の言葉を言い終えて、姿を闇に溶かした。

「騎士隊長、少し休みましょう」

 リライは皆を代表して言う。イチリヤは振り返り皆を見た。

 皆汗だくで膝に手を置き息づかいが険しい。

「ヨシ! 薬菓を食べよう。深夜の刻に再度出発する。睡眠を取れ」

 そう言った後、イチリヤは視線をリライの背後に移す。

 リライの背には幾つもの光が浮遊していた。

 その中の一つにイチリヤは手を伸ばした。光がスッと避ける。イチリヤは笑んだ。

「すまぬ、少し休んでから出発する。待っていてくれぬか」

 と。

 光はコロボのように一回転し、リライの肩に乗る。

「騎士隊長、私と繋がった光が案内人です。もうわかっていると思いますが」

 リライは頭をポリポリと掻いた。

 イチリヤは光を見つめる。心を無にして。

「挨拶は後でする。今は暫し休息を」

 ーーボワボワーー

 イチリヤ達の周辺に無数の光が発つ。

 ーーザワザワーー

 森がざわめく。

「ありがとう」

 イチリヤは森に礼を言った。森の光と案内人の光。

 辺りは幻想的な光の世界となった。

 まるで、幻のような……

 触れれば消えそうな……

次話水曜更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ