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覇者の導べ  作者: 桃巴


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『声』刻まれし記憶-1

***『声』刻まれし記憶


 青龍の動きは、その力が尽きるが如く鈍くなる。

『父上! もう、もうお止めください』

 ナーシャは叫んでいた。

 黒が勢いを増し蠢く。

 ナーシャが感じていた不穏な動きは、これであったのだ。

 黒はまたも、侵攻の時と同じく足場を作るため、藍の孤島へと阻んでいる湖に土砂を流し込んだ。

 青龍はその度に土砂を流すよう、水流を巻き起こす。が、数日にも及ぶ土砂の注入に、青龍の力も尽きようとしていた。

『父上! 父上!』

 ナーシャは叫ぶ。

 ーージャバジャバーー

 またも大量の土砂が湖に注がれた。

 青龍は水流を巻き起こす。が、その水流に勢いはなく、土砂は少し流れただけ。追い討ちをかけるように、黒は土砂を流し込む。

 力尽き湖に沈む青龍。ナーシャの涙が藍の大地を濡らす。

『……私は、藍。私は藍!! 私の湖を汚す者よ! 藍の私はそれを許さぬ!』

 大地が震え出す。

 湖が小さなしぶきを上げる。

『私に』

『止めよ!!』

 ナーシャが言葉を紡ごうとした時、その声が雷が如くナーシャの声を割いた。

『! 父上?』

 水しぶきを上げ、青龍が昇る。空へと飛翔し、クルリと回転し藍の大地に向けて下降してきた。

 ーードンッーー

 ナーシャの目の前に数十メートルにもなる青龍が構えていた。

『父上?』

『藍と繋がりて言霊をつかえば、藍に飲み込まれるぞ。その身が藍となってしまうのだ』

 ナーシャは頭を横に振る。

『だって、父上が、父上が……』

 ナーシャは傷だらけの青龍の体に、心が痛いのだ。あの日のようにまた何も出来ぬと、心が悲鳴を上げている。

『ナーシャ、……イチが悲しむぞ。お前が藍の大地に飲み込まれたら、あやつはきっと生きてはいけまい』

『え?』

 青龍が昇る。

 天高く昇った青龍は、下降する。クルクルと体を回転し、埋め立てられた土砂に向かって。

『父上ーー!!』

 土砂に突っ込んだ青龍は、回転を止めることなく、さらに深く沈む。

 湖の深さが増す。

 土砂で埋め立てられぬほど深く、深く、深く。

『ち、ちうえ……。どうして?』

 青龍は昇ってこない。

『イヤァァーー』

 ナーシャの視えない声が大地を揺らした。

 ーードドドドドッーー

 孤島が隆起する。

 ーードドドドドッーー

 藍の大地は隆起し、絶壁の孤島になる。天に届くが如く高さまで、隆起した孤島に。

『……もう誰も来ないで』

 ナーシャはそう細く言うと、ゆっくり倒れていった。

 紋章に横たわるナーシャ。瞳は閉じられ、深き闇に陥る。否、深き過去をさ迷っていた。




 藍の城、最下層

 閉ざされた部屋には横たわる一人の少年。

 うつ伏せの背は赤く染まっている。


 イチ兄? だって、あの背中の傷は……一度見たことがあるもの。父上の記憶なの?


「ハァハァ……」

 少年の息は荒い。

「……何故、庇ったのだ? 君は誰だい?」

 藍王は少年の頭を撫でる。

 ーーコンコンーー

 藍王は部屋の扉を開けた。

「グレコ、どうした?」

 グレコは顔面蒼白で、「刻印『一』が居なくなりました」と言った。

「……そういえば、王子の選定は今日であったな。! 待てよ、では」

 藍王は横たわる少年を見る。

「王様? どうしましたか?」

「グレコ、入れ」

 王の命に、グレコはビクンと反応した。この部屋には王しか入れないはずなのだ。

「グレコ、来い。先程、グレコスも入っている」

 グレコは眉を寄せる。双子の兄グレコスがこの部屋に何用で入ったのかと。

 グレコは入った瞬間、部屋に漂う血の匂いを感じとり、さらに顔が険しくなった。

「この子か?」

 ベッドにうつ伏せになる少年の背は、右肩から左脇にかけて血が滲んでいた。

「王様! いったい……」

 グレコは無意識に王の剣に視線がいっていた。

「我が斬ったのだ」

 王の口から出た言葉に、グレコは衝撃を受ける。

「な、何故です?」

「他にも斬った。我が斬った……」

「オギャーオギャー」

 部屋の奥から赤子の泣き声。

「な、え、っ」

 グレコは王の言葉と、聴こえてくる泣き声に、衝撃と困惑で言葉が出てこない。

 ーーコンコンーー

 放心するグレコの横を王は通り、扉を開けた。

「王様、薬をお持ちしました」

 グレコスである。

「入れ。グレコも居る」

 部屋に王とグレコ、グレコス。斬られた少年。そして、赤子の泣き声。

「……」王

「……」グレコ

「……」グレコス

「ハァハァ……」少年

「オギャーオギャー」赤子

 グレコスは少年の服を剥いだ。

 斬られた傷よりも、目がいくのは左肩にある『一』の痣。藍色の痣。藍の王子たる刻印である。

「この子でございます」

 グレコは言った。

 グレコスは黙々と薬を傷に塗った。

 その間も赤子の泣き声は止まらない。

「……王様、隠妃様は?」

 グレコスは険しい顔で訊く。

「リシャは隣の部屋だ。侍女も、産婆も……娘も」

「姫が産まれたのですね? この子が不躾にこの部屋に入ったので、斬られたのですか?」

 グレコはなんとか導きだした答えを口にした。

「いや、我が赤子を斬ろうとして、この子が庇ったのだ」

「なっ!!」

 グレコとグレコスは驚く。

 そして、「何故です?!」と同時に叫ぶように、王に問うた。

「オギャーオギャー」

 泣き声が激しくなる。

 王は部屋の奥に向かった。奥の扉を開く。赤子の泣き声はさらに大きくなる。

「オギャーオギャー」

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