006 愛とは一方通行
兄弟同然に近い状態で共に育った私たちの間には、甘い空気が流れる隙は本当に僅かな時間だけしか存在しなかった。
結局は私が半分お説教を受けるような形で、話せる事は全て話した。
ショコラは元々私が他国の没落貴族である事は知っていたが、元侯爵家だった事は知らなかったようでとても驚いていた。
「つまり私は侯爵夫人になるってこと?」
「そういう事になる」
「む、無理よ………。そ、側室とかじゃダメなの?」
「立場的には、新たに他の妻を迎える必要が出てくるかもしれないので、その時は爵位の高い方を正室にしなければいけなくなるが………。私はお前を正室として迎えたい」
ショコラは子爵家の出だ。
侯爵家の正室として迎えても、国の状況などで新たな妻を迎えたときにその立ち位置が変わる事は十分にありえる話であった為、私は包み隠さずに素直な気持ちで伝えた。
「私はそっちの方が嬉しいんで………早めに新しい奥さんを迎えて貰えると………」
普段は私に対してケンカ腰のショコラが、ここまで弱腰になっている姿はとても新鮮に映る。
「ショコラ! それよりも大事な事がある!」
「な、何よ?」
ショコラの前で普段話している口調を使うと、釣られて口調がケンカ腰になったのが微笑ましく思える。あぁ、普段の彼女に私は惚れていたのだと自覚する。
「私はショコラが好きだ! その気持ちをお前に伝えた。でもお前からお前の気持ちを聞いていない」
「あ………」
私は聞きたいのだ。彼女からその言葉を。言葉にしてくれなくても、もう分かっているがどうしても聞きたいのだ。
「愛しています。私はエリオットを愛しています!」
真っ赤に染まったその顔で瞳だけ真っ直ぐ向いて応えてくれる。
「あぁ。ショコラ。私も愛している」
そのまま、また感情のままに彼女へと近づき、そして、感情のまま口づけを交わす。
「も、もし私が断っていたらどうするつもりだったの?」
彼女は口づけ後に、恥ずかしさをごまかす為にそんなことを口に出した。
「おそらく陛下の様子からだと、引退した年寄りの後妻に行く事になっただろうね」
敢えて質問の意味を分かった上で、そう返す。
「ち、違うわよ! 私がエリオットの告白を断ったらという意味よ!!」
その答えなら当然決まっている。
「悪いが、その時は力づくで、私のものになって貰うさ」
まだ最初の口づけの興奮も冷め止まぬうちに、もう一度唇を奪う。今度は軽口を叩けないように長く………とても長い時間、彼女を感じていた。
「という感じで、無事に幼馴染で初恋の相手と婚約を了承して貰い、約束の口づけも頂きました」
「そ、そうか。想像以上に情熱的な事になったようだな」
「はい。これもご協力頂いた皆様のおかげでございます」
「わ、若いって良いわね………」
ふらふらになったショコラを部屋まで送ってすぐに、協力頂いた伯爵家の令息と侯爵家の令嬢に報告させて頂いた。
用意された部屋には、それぞれの従者や侍女がいて和やかな雰囲気の中で報告をさせて頂いた。
この方達の学園内での立ち位置は分からないが、カフェでの件も含めて確実に噂として広がるだろう。
そうなれば、ショコラは覚悟を決めなくてはいけなくなるはずだ。
「本当にありがとうございました。それでは夜も遅くなってはいけませんので失礼致します」
その日のその部屋には、夜遅くまで火の明かりが灯っていたと後の噂で聞いた。
従者と侍女も付き合いを始めたと聞いたが、伯爵家の令息と侯爵家の令嬢がめでたく婚約する事になった方が大きな噂となっていた。
「という感じで、このガナッシュ国で伯爵家と侯爵家の友人が出来ました。エクレール様」
「なんというかべきかしら? あなたは最初に会ったときの寡黙で冷たいイメージとずいぶん変わりましたね?」
互いの気持ちを確認しあった翌日には、私とショコラはエクレール様の従者と侍女の仕事を外されて、必要な教育を受けており、報告が遅れてしまっていたエクレール様へ、ようやく報告できたのは婚約発表が終えた後だった。
「はい。婚約発表の際に、陛下がショコラの実家の子爵家へお忍びでいらしたお噂のおかげで、子爵家としての格が上がり、この国での心配はなくなりましたので」
「そ、そうね。あなたの妹のオペラ様もハーヴィー様とご婚姻を結ばれたものね」
自分ではあまり気付かないが、私の変貌にエクレール様が頬を引きつらせているのが分かる。
「はい。ハーヴィーへ任せておけば何も心配はありません。これでようやく祖国へ帰れます」
そう、正式に祖国の王家よりトリュッフ侯爵家へかけられていた罪が冤罪である事を認められて、私が正式に侯爵家当主として認められることが決まった。
これもガナッシュ国とノワール公爵家のおかげである。
「私も1度国へ戻りますが、恐らくガナッシュ国の方との婚姻を結ぶ事になると思いますから、エリオット様ともお別れになりますね」
私がトリュッフ侯爵となってからはエクレール様からは様を付けて呼ばれている。何かとても変な気分だ。
「あの時、なぜあの王都の外壁にくっついていたのか、事情は分かりませんが、本当に助けて頂き、ありがとうございました」
私は変わったと言われたが、エクレール様の最初の儚げだが気高い印象からだいぶ変わったように思える。
「覚えていらっしゃったのですね」
「はい。あの時は本物の王子様が私を助けに来てくれたと思いました。ガナッシュ国に付くまでに何か事情があるのだろうと思い黙っておく事に致しました。この件は、ずっと大切な思い出として胸の内に秘めておくつもりです」
実は暗殺の為に潜入しようとしていたところだったんですよ。と今なら言っても良いことではあるが、特に知らなくても何かが変わるという事はない。
その茶目っ気に富んだ表情を見ていると、なおさら、そう思う。
「ありがとうございます。では、それは2人だけの秘密という事にしておいて下さい」
まあ、ハーヴィーと命を下した陛下は知っているのだけどね。
「はい。どうかお幸せに」
こうして、祖国の王子を暗殺しようとした際に知り合ったエクレール様と別れ、家を再興する為に祖国へと帰った。
後にエクレール様はガナッシュ国の第2王子から求婚されたという話を、ショコラに届いた手紙を通して知った。
手紙には「もう王族の婚約者はこりごり」「教育も大変だからお断りしたい」という内容が書かれていたようだ。
ガナッシュ国とノワール公爵家の繋がりを強固にするのに、これほどの縁はないので、断るのは難しいだろうと思う。
いざとなったら自分の命を投げ出す程の根性のあるお嬢様だ。ガナッシュ国の第2王子には是非奮起して貰いたい。そうしないと手に入りませんよ?
-後書き-
次回で完結です。
まあ、最後は短いかもしれません。
オチも考えていなかったので、オチなしの終わり方になりそうな気がします(๑ˇεˇ๑)