プロローグ
「最後の忠告だ! 己の罪を認め、アマンダへと謝罪をするのなら死罪は許してやる!」
頭上には青空が澄み渡り、暖かな日差しが射すよい天気の日だというにも関わらず、物騒な声が聞こえてくる。
「どうだ? アマンダへの罪を認めるというのならば、私の側室として迎えてやっても構わん。どうせ婚約破棄をされた身では嫁の貰い手はなくなるのだろう?」
この澄んだ風に乗って聞こえてきた声は、どうやらお貴族様の声らしい。
婚約破棄された女性の世間体が悪くなると言ったら、お貴族様しかいない。
だが、私の記憶にアマンダという貴族令嬢の名前は思い当たらない。調査不足だったか?
「お断り致します! 私は、やってもいない罪を認める事は致しません。ましてや、庶民より劣る扱いを受ける事も良しと致しません!」
………………。
響く会話だけでは状況を全て理解するのは難しいが、あれか?
お貴族様のお気に入りのアマンダという女は庶民なのか?
そりゃ、婚約破棄されたお嬢様側からしたら、受け入れられないな。そんな提案は。
「認めて謝罪をするだけで王宮での暮らしが出来るのだぞ?」
「ノワール公爵家の者として、謂れのない罪を認める事は出来ません。このような場所に連れて来られて兵に槍を向けられようとも、私は決して屈しません!」
え? 王宮? 公爵家??
じゃあ、この上で何か騒いでいるのってもしかしてこの国の王太子様??
「本当に死ぬの事になるのだぞ? 謝罪をすれば命を助けてやると言っているのだぞ!」
「王家の者が一度口にした以上は、取り消す事は出来ません! 王太子殿下が主催のパーティーであのように処刑を宣言して、私をここまで連れてきたのです!」
この国の王太子はダメだダメだとは聞いていたが、そんな事を仕出かしていたのか。
なるほど、こんな事を仕出かすやつなら、確かにこの選択肢を選ばれても仕方がないな。
「エリオット! なぜ勝手にこの話を受けた!!」
「これはハーヴィー様。ご機嫌麗しく」
「挨拶など、どうでも良い! 失敗して………いや、成功しても捕まれば、拷問されて殺されるのだぞ!?」
「えぇ。だからこそ、私が適任なのです。私であれば、元々侯爵家であった我が家を潰した王家への報復行動とする事ができますゆえ」
「私は………父も、こんなつもりでお前たち一家を手助けしたつもりはない!」
「分かっております。ですが、私がハーヴィー様をはじめとした皆様に感謝している気持ちに変わりはありません」
「しかし! だからと言って、何も暗殺者として祖国に戻る事はないだろう!!」
「我が家を助けた事で、ハーヴィー様たちが国に疑惑の目を向けられている事は知っております。我々は今はただの没落した元貴族。切り捨てても問題ないにも関わらず、ずっとかくまって頂きました。今がそのご恩をお返しする時です」
「知っていたのか?」
「はい。本来はハーヴィー様がその手を汚すおつもりでした事も」
「今、ここには私しかいない! そんな他人行儀な呼び方をするな!!」
「なら、私を親友だと思ってるなら、1つだけ聞いて欲しい事がある」
「あぁ、お前と俺が6歳の時から共に育った。親友とも兄弟とも思っている! お前が生きて戻る考えがあるなら何でも協力するぞ!!」
「では、妹のオペラをお願い致します」
「待て! 俺が手を貸すのはお前も生きる為にだ!!」
「この10年間伊達に身体を鍛えてきてはいない。私1人であれば、暗殺を実行しても生き残って見せるさ」
「確かにお前は体術・魔術においてその才は群を抜いている。だが、1人では王都からの脱走は至難の業だぞ?」
「丁度、我が国がある東側は崖で、下にはかなり流れの速い河が流れております。そこに面した箇所から城門を登って進入します。むしろ脱走の方が河に飛び込むだけなので楽なくらいですよ」
「そういう事か………。隣国の国王が我が国を訪問する時は隣国は王都への入場は制限される。その隙に王都に潜入して我が国が隠れ蓑に使っている子爵家の名前を使って王太子の通う学園に潜入するわけか」
「その通りですよ。王都に新たな訪問者が来れない状況で、休学していた子爵家の令息が学園に復帰するだけなら、誰も疑いの目を向けてきません」
「だが、あの崖と王都の外壁をよじ登れるのか? お前なら確かに落ちても生き延びるだけの手段を持っているだろうが、登るのはさすがにキツイのではないか?」
「さすがに暗闇の中でよじ登るのは無理でしょうが、日中なら問題ないでしょう」
「そうか。生きて帰れる勝算はあるのだな?」
「えぇ。ですから、失敗したらオペラは妾に。成功して帰ってきたら側室に迎えてやって下さい。そうすれば意地でも帰りたくなりますから」
「それだと、オペラは俺が貰う事に変わりないぞ?」
「そうですよ。妹をハーヴィー。お前以外にくれてやる気はないさ」
そう格好良く決めて、王太子暗殺の為に元祖国へ帰ってきた私は、王都の外壁にへばり付いた格好で、暗殺対象の王太子が元婚約者を処刑しようとしている現場に居合わせる事になったのだ。
つまりだ。こっそりと進入しようとしたのにも関わらず、見つかってしまう可能性が出てきた訳だ。
なぜなら………。
「私が兵に槍で突くように命を下せば、お前はこの外壁から転落するのだぞ?」
そして、その元婚約者のノワール公爵家のご令嬢かな? が落ちて、下を覗いた兵士達に私が見つかるというわけですね?
私も、まさかこんな段階で失敗するとは思ってもみなかったです。………はい。もう恥ずかしくて帰れないよ。
「例え私の命がなくなろうとも、必ず誰かが私の無実を証明してくれます! 貴族として生まれたからには誇りの為に命を捨てる覚悟は出来ています!」
「こうなったら、私が直々に白状させてやる! 地下牢へこの女を連れて行け!!」
まあ、薄々気付いていたが、暗殺対象は元婚約者を処刑する気はないようだ。
声しか聞こえていないが、まあ、手が出せない婚約者を国王がいない間にどうにかしようとでも思ったのだろう………。地下牢へ連れていけば後はやりたい放題か。
我が家を嵌めて没落させた王家の者とはいえ、私と同じ年の暗殺対象は当時5歳くらいだ。当時の我が家の没落には無関係な人物だった為、多少は殺害するのに罪悪感があった。
「地下牢にまで入れられてしまえば、いかにお前といえど名誉は守られまい? 大人しくすぐに私の物になるのなら、お前の罪を全て許してやる」
まったく噂と会話を聞いただけだったが、予想通りの人物像過ぎて罪悪感を通り越して、気持ちよく暗殺出来そうだ。
お嬢様には悪いが、仇は討ってやるという事でこの場は静観を決めさせてもらおう。………………まあ、壁にへばり付いているだけだから何も出来ないんだがな。
「あなたという人は………どこまで………」
「お前が私を拒みさえしなければ、私がアマンダへ手を出す事はなかった。婚約者だったお前は私の物だったのだ! その立場を怠って私を拒んだお前が全て悪い!!」
いや、貴族でも婚前交渉は許されていないからな? お前その上の王族じゃん。
こんなのが次期国王になるとか、それは避けたい気持ちが良く分かったわ。確かに暗殺を計画するわ………………。まあ、実行させる相手も企んだ奴ら自身でやれとは思うがな。
「王太子殿下。私の誇りは誰にも汚させません………」
「エクレール。元婚約者になってしまったが、そんな他人行儀な呼び方をするな。いつも通り名前で呼ぶことをゆる………待て!」
本日聞いた会話の中で一際響く程の大声に驚き、危うく王都の外壁から滑り落ちそうになる。
「兵よ! 止めよ!! まっ!」
暗殺対象の必死な叫び声を聞いて、つい上を見上げる。
丁度、そこには男の夢が詰っているかどうか知らないが………。薄い布地が見えた。うん。この公爵令嬢は白だ。
などと考える余裕はなく、王都の外壁から崖へと飛び下りて、落下していく白の公爵令嬢へ向かって壁を蹴って飛び付き、抱きしめる。
「え?」
「黙ってろ。下を噛むぞ」
どうせ、あのままじゃ見つかってしまい、下手したら私に罪を着せられるだけだ。
それに失敗して戻っても、失敗の罪を償う為に処刑されるなら、せめて私も誰かを助けてから死にたいものだ。
「ハーヴィー悪いな。妹を頼む」
それだけ口に出すと今まで家族を守る為に磨いてきたその魔力を解き放ち、抱きしめた相手と共に河へと落ちていった………。
-後書き-
○ランプ中の為、何か書こうと思って書きました。
私のカードはロイヤルストレートフラッシュだ!
ス○ンプ中に加えて、寒さで手がかじかんで考えても指が動いてくれない。
君! こんな書類じゃ判子は押せないよ!
スラ○プ中だからという訳じゃないですが、なんで忙しくない予定だったのに何でこんなに忙しいのだろう?
ごめんなさい。私はベースは弾けません。むしろ音楽全般は全くの素人です。カスタネットも出来ません。
スラ○○中です。面白い話を書ければ嬉しいのですが、自分でも良く分からないうちに書き始めてたのでアップしました。
ポヨンポヨン! 僕は悪いスラ………………ごめんなさい。
オチも考えていないで始めてしまいました。なので本当に暇な方だけお付き合いください。
※この作品は不定期更新です。