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恋人になりたい!  作者: 蒼井真ノ介
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恋人になりたい!

今日で「恋人になりたい!」は完結をいたします。ちひろを暖かく見守ってくれた読者の方々に感謝しています。どうもありがとうございました!それでは、これから最終回を楽しんで読んでくださいね。

裕貴はちひろに券を手渡した。


「えっ!?お金は!?私の分は自分で払いますよ!!」


「気にしなくていいよ、ちひろちゃん。二人で楽しもうよ」


「でも困りますよ…」


「ちひろちゃん、遠慮しなくて良いのだから、心配しないで大丈夫だよ」


「すみません」


「僕はちひろちゃんが喜んでくれたら良いんだよ」


「あのう…」とちひろは言いながら持っていたバックを開けた。ちひろは裕貴の顔を見ながら、バックの中に手を入れて輪ゴムで束ねた紙を取り出した。



「これ、ソフトクリームの無料券、牛丼の無料券、乳液のお試し券、レンタルビデオの5本無料券、カラオケの無料券、二千円分の図書券、焼肉店『肉離れ』の招待券です。どうぞ」と裕貴に一辺に差し上げた。


裕貴は驚いて口を開けたまま、ちひろの手元を凝視していた。


「こんなにたくさん、どうしたの?よく集めたねぇ」とちひろから紙を受け取った裕貴は、一枚ずつ確認しながら言った。


「えへへへへ。友達や親戚の伯父さん、近所に住んでいるお婆ちゃんからよく貰うんです」とちひろは顔をイチゴのように真っ赤にして照れながら笑った。


「さすがに、こんなに沢山は受け取れないよ。ちひろちゃん、気持ちだけは有り難く受け取っておきます。どうもありがとう!ちひろちゃん。皆が、ちひろちゃんのために贈ってくれたものなんだから、ちひろちゃんが大事に大切に使いなさい」と裕貴はちひろに感謝の気持ちを込めて言った。


ちひろは裕貴の優しい言葉にまた涙ぐんだ。


「わかりました。私は裕貴くんが使ってくれるのが一番嬉しいのだけど…。あっ!!!そうだ!!!♪良いこと考えたっ♪また今度一緒にデートをする時に、この無料券を二人で使いましょうよ!私ひとりじゃ持たないし。無料券は1枚で2名様まで利用可能という太っ腹なんです」とちひろは顔を明るく輝かせて言った。ちひろは良いアイデアが浮かんで満足そうだった。


「そうかい?…、わかったよ。どうもありがとう!」と裕貴は頭を下げて言った。


「さあ、見よう!」


「うん!」


美術館は人で溢れていた。モネ、ゴッホ、ゴーギャン、ルノワール、などが一堂に展示されていた。


ちひろは佐伯祐三の絵に気付いた。1枚だけ展示してあった。佐伯の「オーヴェルの教会」が強烈だった。佐伯はゴッホを崇拝していたので、ゴッホの「オーヴェル教会」とまったく同じ構図の絵を描いていたのだった。


モネの「印象・日の出」はシンプルな美しさが素晴らしかった。この絵はずっと前から見たいと思っていたので、運良く愛する裕貴とちひろは今回の展覧会で一緒に見れたことに喜びを噛み締めていた。微睡んだような、恍惚があるような絵だった。


ゴーギャンの場合は、「タヒチで燃やした絵の中に本当の傑作があるんだ」、と誰が言っていたのかを思い出そうとしながらゴーギャンの絵を眺めていた。『言っていたのは一体誰だったろうか? あっ!そうだ!ビートルズの人だ!名前は…え〜と、え〜と…ジュンだっけ??ゾンだったけ??ポール・アンカだっけ?誰だっけ?ポールだっけ?ジュリアだっだっけ?』と考えて、ちひろはようやく思い出した。『あっ!ジョンだ!ジョン・レモンだ!ジョン・レモン』とちひろはビートルズにあまり詳しくはないので少しだけ間違って思い出した。


ちひろはゴッホの「寝室」にも感動をしていた。美術の教科書に載っていた絵が目の前にあるのだ。ちひろは「寝室」を見て不思議な気持ちに浸っていた。


ちひろは『確か家でモディリアーニと会った事があるんだよね?』と思いながらルノワールの絵を見ていた。『お互いに絵画の事を話している途中、ルノワールの言葉にキレたモディリアーニが席を立って帰ったんだとか…』と考えながら絵を見ていた。



ちひろは絵が大好きなのでテンションが高かった。裕貴は、『楽しんでいるみたいで良かった』と、ちひろを見つめながら思っていた。『今、ちひろちゃんと手を繋いだら怒るかな?』と裕貴は考えていた。美術館は絵の保護・保存のために、ひんやりとして寒いのに裕貴はじんわりと額に汗が滲んできた。『手を繋いだらやっぱりダメだろうか?』と、裕貴は葛藤をしていた。さりげなく、ちひろに近付く。ちひろは夢中で絵を見ていた。裕貴はちひろの横顔を見つめる。真剣な眼差しのちひろちゃんは綺麗だなぁ〜、と思って見ていた。



「裕貴くん、やっぱり本物は迫力があるね!」と言ってちひろは裕貴を見た。


「あ、そ、そうだね!」と裕貴は慌てた。ちひろは首を傾げて裕貴を見た。


「ちひろちゃん、美術館は暑いんだね」と手で顔を扇ぎながら裕貴は言った。


「えっ!?暑いの?」とちひろは言った。


「うん」


「そういえば少し暑いね」とちひろは言ったが本当は暑くなかった。


「ちひろちゃん、このゴッホの自画像は存在感があるね。ゴッホはモデルを雇う余裕が無かったので、仕方なく自分を描いていたのかも知れないね」と裕貴は言った。


「そうだと思う」とちひろはしんみりとしながらゴッホの自画像を見つめていた。


「ちひろちゃん」


「はい?」


「手を繋ごう」


「えーっ!!」


裕貴は手を差し出した。


ちひろは手のひらの汗を拭くために、水色のハンカチで何度も拭いた後、オレンジ味のあめ玉をポケットから出して裕貴に手渡した。

「ここで食べたらダメだよ」と裕貴は言ってあめ玉を握り締めた。


「あっ!そうだった!」とちひろは言って何故か裕貴に残り5個のあめ玉を全部手渡した。


裕貴とちひろは手を繋いだ。二人は優しい気持ちに満たされていた。言葉はなくても心で感じて繋がっているという気持ちがお互いに初めて分かったのだ。ちひろは幸せだった。これほどの幸せは今までなかった。


「ちひろちゃん、あっちにルノワールのデッサン画があるから見に行こう」と裕貴は言って、ちひろの手を強く引っ張った。


ちひろは凄く嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しかった。ずっと手を繋いでいたい!、と思っていた。正直、裕貴に手を強く握り締められてから、絵画処ではなくなりつつあった。


「ちひろちゃん、デッサン画も1つの作品として見れるから素晴らしいよね!」と裕貴は感動を込めて言った。


「はい、そうです」ちひろは舞い上がっていて可笑しな返事をした。


約45分間、2人は一通り絵を見終えたので出口へと向かった。


出口にアンケート用紙があったので側にある机と座り心地のいい椅子に座って二人は黙々とアンケートに答えた。次の展覧会ではどんな画家が見たいですか?と最後の質問にちひろは迷わず、モディリアーニ、と書いた。一方、裕貴は、レンブランド、と書いた。



二人は売店でポストカードと画集を買った。


「ちひろちゃん、お腹が空いたね。三階のレストランに行って、何か軽く食べよう」と裕貴は言った。


「うん」とちひろは頷いた。


エレベーターに乗って三階のレストランに着くと、店員が来て「すみません。ただいま、待ち時間が15分になるのですが、宜しいでしょうか?」と店員が申し訳なさそうに言った。裕貴は窓の外を見つめた。粉雪降っていた。近くに行き付けの定食屋があることを思い出した。「分かりました。すみません、またの機会にします」と裕貴は店員に言ってエレベーターへ戻ろうとした。


「裕貴くん、私は待てるよ」とちひろは言って裕貴を引き留めた。


「大丈夫かい?」


「うん」


「すみません、待ちますので宜しいですか?」と裕貴は店員に言った。


「どうぞ、こちらでお待ちください」と店の中へ促される。二人は手を繋いだままイスに座った。


「お客様メニューです。どうそ」と店員がメニューを渡した。


「ちひろちゃんは何が食べたい?」と裕貴は言ってページを開いた。


「私は…、メロンソーダとパスタです」


「僕も…、メロンソーダと同じパスタです」


「かしこまりました」と店員は言って奥へと引き下がった。


「ちひろちゃん、雪が降るなんて珍しいね」


「嬉しい!!積もれば良いのに!」とちひろは立ち上がって窓の外を眺めた。


「ちひろちゃん、絵は迫力があるね。実際に美術館に足を運んで見るのが一番良いよね!」「本当だね。美術館は落ち着くし居心地が良いよね。図書館もあるから通えるし」


「そうだよね。また、一緒に来ようね!!」


「うん!!」二人は再び手を繋いだ。


店員が近付いてくる。

「お客様、今、席が早く空きましたので、こちらへどうぞ」


二人は楽しい一時を過ごした。映画の話や、本の話、服の話や飼っているペットの話で盛り上がった。偶然にも裕貴はエリナという名前の雌のシェトランドシープドッグを飼っていた。ちひろは「犬同士で会わせて散歩をしましょうよ!」と言った。



「ねぇ?裕貴くん。あの女性に見覚えがない?」とちひろは窓際の若い女性に目配せをしながら言った。裕貴はどれどれ、とさりげなく見た。


全然知らなかったので、肩をすくめて、「知らないなぁ」と言った。ちひろは唸っていた。


「確かに、あのサガンみたいな風貌の若い女性は…、ばぁはっ!!志摩さんだぁ!!坂崎志摩さんだわ!!」と一気に気分が上がった。


「志摩さん?」裕貴は誰か分からずにいた。



「すみません。あそこにいる女性は坂崎志摩さんですよね?」と先ほどの店員を呼んでちひろは聞いた。


「ええ、そうですよ」と店員は言った。


「分かりました。どうもありがとうございます」とちひろは頷いた。


「サインが欲しいなぁ〜」とちひろは瞳を輝かせて、そわそわしながら言った。裕貴は黙ってちひろの様子を見ていた。


「ちひろちゃん、あの方が坂崎志摩さんなんだね。でもね…」


「はい?」


「彼女は今、プライベートで来ていて大事な時間なので、見守るだけにしておこう。それで十分だよ。そっとしておいてあげようね。せっかくの休日なのかもしれないしさ。ねっ、ちひろちゃん」


「うん、わかった!!」とちひろは裕貴の素晴らしい考えに賛同した。ちひろは『裕貴くんは、思いやりの気持ちがあって、本当に素敵な人だわ!好きになって良かった!』と目が潤ませていた。



2人は食事を終えて美術館を出ると、「愛のセレナーデ」の回りにたくさんの女性がいることに驚いた。座るために並んでいる人が多かった。写真を撮っている人も見受けられた。裕貴は『なんでこのベンチはこんなに人気があるんだろう?』と腕を組んで眺めながら考えていた。



裕貴とちひろは肩を寄せて手を繋いだまま粉雪が降る中を駅へ向かって歩きだした。道の途中で裕貴は勇気を振り絞ってちひろに話しかけた。



「ちひろちゃん、ちょっとこっちに向いてくれる?今日はどうもありがとう。ちひろちゃん、ちひろちゃんに大事な話があるんだ」


「はい」


「僕は……、僕はちひろちゃんが好きです!」


「はい」


「僕と付き合ってくれませんか?よろしくお願いします!」裕貴は頭を下げたまま言った。


「…」


裕貴は顔をあげて真っ直ぐな瞳でちひろを見つめていた。


「僕はちひろちゃんの恋人になりたい!」と言った。


「裕貴くん、どうもありがとう!私も裕貴くんが好きです!こちらこそよろしくお願いします。私も裕貴くんの恋人になりたい!」



二人は見つめあっていた。静かに頭や肩に降り積もる雪が二人を優しく祝福していた。街はクリスマス一色に染まっていた。ハッピー・メリークリスマス。ケーキ屋さんの前でサンタクロースの姿をした男性が「ケーキはいりませんかー?20個限定のケーキが、先ほど入荷しましたよ〜!」と何度も言っていた。ケーキ屋のスピーカーからジョン・レノンの「ハッピー・クリスマス」が流れていた。愛し合う事は素晴らしい。二人だけの世界を生きるすべての恋人たちは美しい。愛の中では恋人たちは永遠に自由になれるのだ。


裕貴とちひろは肩を寄せて、手をつなぎながら真っ白な景色の中を歩いていった。新しい雪の上には、二人だけの足跡が消えることなく、いつまでも残っていた。




最後まで読んでくれて本当にどうもありがとうございます!また、何処かで、再びちひろに会える日が来ることを願って…。



ありがとうございました。

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