願いが叶う
恋に落ちていく〜♪とビートルズが歌っていました。その歌を聴きながら読んでくださるとありがたいです!
ちひろは気持ちが上がっていた。『やったぁ♪愛のセレナーデに座れたよぉ。これで裕貴くんと永遠の愛を生き抜いていける自信はありです。裕貴くんなしではいられないの。この愛にすべてを捧げると誓いたい!初恋を実らせる!ぬふっ。むふふふ。ぶふふふふ!嬉しいー!』
「裕貴くん、メロンソーダ、美味しい?」
「うん。凄く生ぬるいけどね。パンチが効いていて美味いよ。メロンソーダを温かくするのもありかもしれないね」
「ほんと!?じゃあ、また今度も、温かいメロンソーダをもってくるねっ♪」
「えっ!?そそそそそれは困るよ。今回、限ぎりの味覚だからさ、次も温かいのはちょっと自信がないなぁ〜。うん、全然自信がない。僕の喉が耐えられないかもしれないかもしれないしさ。温かいのよりも、普段通りに冷めたくしてね」
「フフ。普段通りに冷たくしてね…、なんて、変な言葉使いだけど、フフフフ。わかったよ。ごめんね。鞄に入れっぱなしが良くなかったね」
「大丈夫だよ。こちらこそ無理いってごめんね。それより、ちひろちゃん、なんだかさ、さっきから女性が周りに大勢いるんだけど、なんだろうね?」と裕貴くんは戸惑い気味に言った。
「えっ!?そ、そ、そうだね…。気、気にしなくていいんじゃない?裕貴くんはベンチの話は知っているの?」
「ベンチ?なんのこと?」と裕貴くんは無垢な眼差しでちひろに言った。裕貴くんは本当に知らない顔をしていた。美しい顔立ちだなぁ、と見とれてしまう。
「坂崎志摩さんって知っている?」
「知らないなぁ?」
「このベンチの制作者なんだよ」
「へ〜っ。じゃあ有名な方が作ったんだんだね。だから集まっているんだね」と裕貴くんは素直に感心をした後、ベンチを撫でながら見つめた。
「裕貴くん、ベンチの噂を聞いたことはある?」
「噂は…知らない」
「あっ、そうなの!?エヘヘ。ふ〜ん。じゃあ、まっ、いいや。裕貴くんの写真を一枚だけ、今、撮らせて」とちひろは言って、裕貴くんの返事を待つことなく急いで七分身像の裕貴くんの姿をスマホで1枚撮った。
「ちひろちゃん、なんかバタバタしていないかい?」と裕貴くんは首を傾げて聞いた。
「ううん。なんともないよぉ〜」ちひろはスマホを両手で持ち、太ももの間に挟んで持った。7回、心の中で『裕貴くんといつまでも一緒にいたいのさ!好き!裕貴くん!大好きです!』と受験の合格発表よりも強く心に願った。
裕貴くんは、ちひろがさっきまで話しまくっていたのに、今度は急な沈黙をしているので、何事なのかと考えていた。喜怒哀楽、目まぐるしく変わる表情。身ぶり手振りで夢中になって話す真剣な姿。どれもがちひろの素直な正直な気持ち。可愛い心の姿。裕貴くんはますますちひろに惹かれていった。『こんなに可愛くて、素敵な女性とは二度とめぐり逢えない。ちひろちゃんを幸せにしたい!一緒にいたい!好きだよ。ちひろちゃん』と裕貴くんは思っていた。ちひろは目を閉じて、何かブツブツ言っている。裕貴くんはそっとちひろの唇を読むが『なりたい!』しか分からなかった。
息詰まるはずの長い沈黙が心地好いのは珍しい。裕貴くんはメロンソーダを飲みながらちひろを愛しげに見つめていた。
「裕貴くん、どう?なんか感じた?」とちひろはキラキラ輝く瞳で裕貴くんを見上げた。
「うん。なんとなく優しい気持ちになったよ」
「本当♪」
「うん。ちひろちゃん、今、何を考えていたの?」
「何か知りたい?」
「聞かせてくれるの?」
「秘密です。エヘヘ」
「じゃあ、いらないや」
「えっ…なんか素っ気ないね」
「僕も良いことを教えようかな〜、と思ったけどやめた」と裕貴くんはわざと顔を背けてみた。
「えっ!?えっ!?裕貴くん、ちょいとさぁ、そんな冷たくしないでね。うん!?あれ!?さっきどっかで似たような事を聞いた感じだね?」
「あははは。ちひろちゃん、そろそろ絵を見ようか?」とベンチから立ち上がろうとしたら、女子高生の二人組が駆け寄ってきた。
「あのう…すいませんが、一枚だけ写真を撮らせてくださぁい」と裕貴くんに言ってきた。
「ダメです!!」と、即、ちひろは怒って却下した。
「貴方は彼女ですかぁ?」と気の強い女の子が冷たい一瞥でちひろに食って掛かってきた。
「いや…そんなんじゃないけど…」とちひろはしょんぼりとしてしまった。
「じゃあ、黙ってくださいよー!」ともう一人の小生意気な女の子は助太刀のようにちひろに言った。
「…」ちひろは悔しくなって女子高生を睨んだ。
「凄いハンサム!美男子ですねぇ〜!私たちB高校の美術部なんですが、良ければ絵のモデルになってくれませんか?」
と女子高生の二人組が言った。
裕貴くんはちひろを優しく見つめていた。人目も気にせずにちひろの肩を強く抱き寄せた。ちひろは驚いて赤面になり、戸惑い、足が立っていられないほど震え出した。裕貴くんはちひろにウインクをした。
「君たちには悪いけど、この娘は僕の大事な彼女です。今、デート中なので邪魔しないでくれるかな?」と二人組に威圧感を出して見据えるように言った。裕貴くんは悲しい思いをしている、ちひろの心が心配だった。
「あっ、すいません……」と女子高生の二人組がそそくさと去っていった。
周りから拍手が起こる。
ちひろは泣いていた。『彼女!?私が裕貴くんの彼女ですと!?彼女だってさ!彼女、彼女、彼女、彼女♪嬉しいよ〜!最高に幸せだよ!』と心の中で何度も反芻していた。
『願いが叶いすぎるじゃんかよぉ〜!坂崎志摩さん!本当にどうもありがとう!』とちひろは泣きながらベンチを見下ろした。泣き顔で裕貴くんを見上げた後、ちひろはスマホを慌てて取り出すとベンチの下に落とし取ろうと屈んだら、おもいっきりベンチにおでこをぶつけて動きが一瞬止まった。「大丈夫?」と裕貴くんはちひろのおでこを強く撫でた。ちひろは頷いてからスマホで「愛のセレナーデ」を何度も連写機能を使って撮影し出した。裕貴くんはちひろを微笑みながらそれを見守っていた。
つづく
読んでくれてありがとうございました!次回が最終回になります。よろしくお願いいたします!