オレが雨の日を好きな理由①
彼女を初めて見つけたのは、ある雨の日の朝。
満員電車の中で、必死に棒(っていうのか?あの、座席の横についてるやつ)を握りしめて、押し潰されないように、堪えていた。
ずっと下を向いているせいで、顔はよく分からなかったけれど、ちらっと見えた、大きな瞳。
たくさんの人に怯えるかのような、小さな肩。
守ってあげたい…。
自然と、そう思ってしまった。
部活でサッカーをしているオレは、朝も練習がある。
朝、起きる事があまり得意じゃないオレは、雨の日が好きだった。
理由は簡単。
朝練がないから。
早く起きなくてもいいから。
まぁ、満員電車は苦手だけど、朝5時起きよりは、ずっとマシ。
そんな、不真面目な理由だった。のだけれど、彼女を見つけてからは、彼女が、理由になった。
オレが、雨の日を好きな理由は、彼女に会えるから…なんて、いくらなんでも、乙女チックすぎるだろうか。
「なぁー」
「んー?」
「お前、一目惚れって、した事あるー?」
雨の日でも、放課後、体力づくりという名のストレッチなどはあって。
今は、校舎の廊下にて、その真っ最中。
高校生活も二年目となると、先輩もそんなにうるさくない。
嫌われるような生意気な事は、していないし。
軽く身体を伸ばしながら、部活仲間で、クラスメイトでもある、章吾と、いつものようにくっちゃべっていた。
「一目惚れー?お前が?」
「いや、お前がだよ」
「オレは…ないかなぁー。あの子カワイーってのだったら、しょっちゅうだけど」
そう言って、ニッと笑う章吾とは、話しやすい。
こんな風に、小さなくだらない質問にも、ある程度真剣に答えてくれる。
他のヤツらじゃ、突っ込まれて、冷やかされるのがオチだからな…。
「なになに?悠斗、一目惚れしちゃったの?」
キラキラした目で、章吾が聞いてくる。
一瞬迷って、「そんなんじゃねーよ」と答えた。
こいつの言い分だと、ただカワイイって思うことは、一目惚れにならないらしい。
それなら、急に芽生えた、甘酸っぱいこの感情は、一目惚れとは違うのかもしれない。
とりあえず、また、明日も雨が降りますように。