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雨の日  作者: 日和
6/11

6月23日ー曇りのち雨ー

なんだかんだで、気持ちに気付いてしまってから一日明けて。


すっかりパニックから立ち直った私は、自分の電話番号と、メールアドレスが書かれた紙を握りしめて、毎朝の電車に乗っていた。



気分は戦国。

なんとなく。



戦う気分でいないと、緊張しすぎて、吐きそうだから。


っていうかこれ、本人目の前にしたら吐くんじゃない?ってレベル。


(お食事中の方、すみません)


紙を渡して、

「よかったら、連絡ください!」

と、一言。


うん、イメージトレーニングはばっちり。


本当に言えるかどうかは、別としても、とりあえず紙だけは、渡したい。


だけど、今日は曇り。

案の定、彼は電車には乗ってこなかった。



心の底では喜んでいる自分を蹴り飛ばして、また明日!と気合いを入れた。




――あした。

うん、明日また頑張ろうって、朝決めたよね。


だから今日は、頑張らなくてもいいんだよね。


今は、帰りの電車の中。


なぜ私が、冷や汗を流しながら、必死に言い訳してるのかというと…。



いるんデス。



二両目に、王子様が。


お昼すぎから降り出した雨を見遣って、やっぱり雨の日の王子様だわ…なんて、現実逃避しながら再確認。


私は、なんとなく落ち着くから、って理由で、朝も夕も二両目の、大体同じポジション。


どうやら、それは彼も同じみたいで。


朝より全然空いている車内では、見つけるまでもなく、自然に彼の姿が目に入ってきた。



…どうしよう。

ベストタイミングといえば、そうだし。

でも、全然心の準備ができてないし…。



どうにか心の整理と、それから吐き気なんかと戦っていると、急に、かわいらしい声が車内に響いた。



「あ、いたー。悠クン」


と、少し遅れて、低めの、甘い声も。


「おい、声でかい。なんだよ、サチ」


お、お…王子様の声ゲットーっ!!

なんてイメージ通りの、甘い声…。


って、うっとりしてる場合じゃなくて!


ユウくん…?サチ…?

ダレ……?


「あ、ゴメン、ゴメーン。だって、悠クン、駅に着いた途端にいなくなっちゃうんだもーん」


ペロッと舌を出しながら、王子…もとい、ユウくんに謝るサチちゃん。


上目遣いの大きな瞳。

色白の小さい顔に、ピンク色の唇…。

女の私から見ても…かわいすぎる。


「別に、一緒に帰る約束なんて、してないだろ」


と、ため息混じりにユウくん。


「冷たーい!いいじゃん、降りる駅は一緒なんだからっ」


「おい、くっつくなよ」


なんか…お似合い。


二人とも、スラっと背が高くて、モデルみたいだし。

並んでても、すごくしっくりくる。


きっと、私みたいなチビで童顔が隣にいても、あんな風には見えない…。



胸、いたい…。



楽しそうな二人を見てられなくて、私は、逃げた。


初めての三両目の窓際。

ぎゅっと口を結んで、ひたすら降りる駅に着くのを待った。


鼻の奥がツンとして、少しでも気を抜くと、涙がこぼれてしまいそうだった。


駅に着くと、転がるようにして、車外へ出る。


ガタン、ゴトン…という電車の音にまじって、二人の笑い声も聞こえる気がして、気持ち悪い…。


振り切るように、全力で走ると、家に着く頃には、全身ずぶ濡れだった。

まだ、手の中に紙を握りしめていた事に気付くと、雨で濡れてボロボロになったそれを、ごみ箱に投げ捨てた。


この間から、初めての感情ばかりで、頭がついていかない。



悲しい…悔しい…苦しい…好き……。



ぐちゃぐちゃな感情を、無理矢理シャワーで流して、布団にくるまる。

今はもう、何も考えたくなくて、私は、そのまま目を閉じて、眠りについた。

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