6月21日ー雨ー
またまた月曜日。
土日を死んだように過ごした私は、久しぶりに人間らしく、顔を洗い、服を着て、家を出た。
……雨かぁ。
なんとなく、先週からの気分を引きずりつつ、ローテーションのまま、電車に乗り込んだ。
相も変わらず、車内はたくさんの人でごったがえしている。
――ん…?この香り…。
普段通り、下を向いていた私だけど、バッと効果音でもつきそうなくらい、思い切り顔を上げた。
王子様………。
し ば ら く 凝 視 。
あれ…?目、合ってる…?
気がつくと彼もこちらを見ていて、バッチリ目が合っている状態になっていた。
少しだけ、困った目をしているのは、気のせいではないだろう。
あわわわわ。
いつの間にぃー!!
ぽーっと見とれすぎてて、全然気付かなかった!
このままじゃ、男子校生の顔を凝視する怪しい女子高生になってしまう。
かつてない危機感に襲われた私は、とりあえず顔は彼を向いたままに、視線だけを彼の後ろの、車外を見ている感じにして、事なきを得た。
ふぅー、危ない、危ない。
顔は平常を装いながら、心の中では、思い切り安堵のため息をついた。
そして、窓の外を見る振りをしながら、しばし彼を観察してみる。
やっぱり…かぁっこいいなぁー…。
もう、私の不審な行動なんて忘れたかのように、ドア横に寄り掛かって、目を閉じている。
電車の振動に合わせて、さらさらと髪が揺れる。
さ、さわりたい…。
ダ…ダメ、ダメ!!
妄想禁止!
ハァハァ禁止!!
一週間ぶりのブランクは、けっこう大きかったみたい。
まさか私に、変態要素があったなんて。
うん、若干ショック。
それにしても、雨の日にしか会えないなんて…。
やっぱり彼は、雨の国かなんかの、王子様なんだわ!!
―――――
「…なんかってなによ、なんかって」
はい、ドン引きされました。
「ちょっとぉ、夢見る乙女の妄想に、突っ込み入れないでよー」
少しむくれて言うと、そんなことより!と、愛が身を乗り出して言った。
「で、いつ告白するの?」
うわぁ…その楽しそうな顔、なんか久しぶりー…。
じゃなくて!
「こ、コ、こ、告白っ!?」
「ちょっと、うろたえすぎ」
思いがけない愛の言葉に、声が裏返ってしまう。
「だって、告白って!いきなりそんな、ハイレベルなっ!!」
「うーん…まぁ、恋愛初心者のヒナちゃんだったら、番号渡すだけでも、十分だけどー…」
「そんなっ!神様に話しかけるなんて!恐れ多い!!」
「…また随分と、王子様から昇格したわね…」
ただ見てるだけで、鼻血出そうになるのに、話しかけるなんて、想像もできないよー!
ていうか、と、一人パニックに陥っている私に、ふと気付いたかのように、愛が言う。
「告白とか、恋愛とか、もう根本から否定しないのねー。やっと認めた?好きだって」
瞬間、時が止まったかのように、動けなくなった。
あれ…。私……?
「おーい。ヒナー?」
愛の声で、はっと我に返る。
と、同時に、ボッと顔が熱くなった。
「あ、あ、あいっ!私、王子様に、恋、しちゃったかも…」
「うん、うん。気付くの遅いけどねー」
「どうしよう…身分違いだよね…」
「とりあえず、妄想の世界から帰ってこようかー?」
初恋………。
そんな言葉が、ぐるぐると頭の中を巡って、その日は夜中まで眠れなかった。