ほっといてくれ
ほっといてくれ
「ほっといてくれ!!!」
隣の部屋から怒号が聞こえてきて、僕は飛び上がった。いったい何事だろう?
「僕はお前なんかと関わり合いになりたくない!ほっといてくれ!」
声の主はそう言った。なんだか知らないが、そう言っているのだからほっといてあげればいいのに。僕はそう思った。
ドアの隙間からそっと隣の部屋を覗いた。男がもう一人の男に暴行を加えていた。殴る蹴るを繰り返す。そして男は叫んでいる。
「ほっといてくれ!」と。
ここで恐ろしいのは、ほっといてくれ。と言っているのが殴っている方だということだ。男はほっといてくれと言いながら自分から殴りかかっている。どう考えてもほっておいて欲しいのは殴られている方だ。
殴られた男は立ち上がり必死に逃げようとするが、男はそれをひっ捕まえて引き倒し叫ぶ。
「ほっといてくれって言ってるのがわからないのか!?」
男は殴られ続け、やがて動かなくなった。僕は恐怖に震えた。すると、ドア越しにその男と目があった。
「ほっといてくれ!!!」
男が叫びながら僕に向かって走ってくる。僕は逃げ出した。
「ほっといてくれ!!!」
僕らの声がハモる。