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Vampire Serenade 謀略のブリジット  作者: 湊 奏
第一章 孤高なるヴァンパイア
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第二楽章 幻想曲歌

ステラがとびらをくぐると、怒声がいきなり飛んだ。


「ステラぁ!! 何やってんのよ!!」


階段を駆け降りてくる、銀髪少女アポロ。ぐわしっとステラを鷲掴みにして、ずるずると引きずっていった。


苦笑したまま、されるがままのステラと、それを唖然と見つめるブリジット…



物陰に連れていかれたステラは、さっそくアポロに詰問される。


「あの女なに!? 何で連れ込んでるのよ!!」


メイド服で凄まれても、いまいち迫力に欠ける。

メイドといえど、正統派のドイツメイドである。日本ヤーパンで人気のメイドカフェにいる奴らは、メイドとは似て非なる存在だとステラは断言している。


端的に言うと、スカートの丈と立ち居振る舞いがあり得ない。


日本人ヤパーニッシュの考えることはいまいちわからない。


それはともかく、ステラは悪びれもせずに答える。


「別に…何となくだよ。ヴァンパイアらしいし。面白くなりそうだろ?」


ステラに悪気は全くない。

だが、アポロは更に怒り、恐怖の表情まで混ざって小声で叫ぶ。


「ヴァンパイア…って、あんた!! どんだけ恐ろしいか知ってるの!?」


「アポロは、これまでに実物みたことあるの?」


鋭いところを突くステラ。

百聞は一見に如かず。伝聞のみで先行イメージができるのは多々あるが、実際話してみたステラは何が恐ろしいのか本気で分からないのだ。


アポロは言葉に詰まってしまう。


拘束の握力が緩んだところで、アポロの手をゆっくりとはずした。


「とにかく、泊まる事になったから。それに、近くにいたほうが何かと便利だろう」


有無を言わさぬ言葉を残し、ブリジットのもとへ戻るステラ。


「話は済んだのか?」


アポロはまだ、戸惑っているようだが大丈夫だろう。彼女もまた順応性は高い。


「あぁ、大丈夫だよ。屋敷はアポロが案内するから、必要な事は彼女に聞いて。俺は一先ず着替えてくる」


ステラは階段を上り、二階の通路に消えていった。


なんとも、身勝手と言うか…愛想がないというか…


アポロは仕方なく、ブリジットのそばに行った。


「アポロです」


端的に名乗り、スカートをつまみ膝を折る。伝統的な淑女の礼、カーテシーだ。


「ブリジットだ。しばらく世話になる」


そういて右手を差し出す。何はともあれ握手だ。


アポロのヴァンパイアに対する印象は、この時点で完全に崩れ去った。


なんだか… 普通…


「ところでお前。ヒトではないだろう」


ブリジットは、早くも見破った。アポロも別段隠す気はないので、何の躊躇いもなく答える。


「うん、猫の使え魔だよ。ほれ」


彼女の頭上に大き目な猫ミミが生えた。ブリジットは、別段驚きもしない。が、別種の何かが心を通過して消える。


(なるほど。いや、その気はないはずだが…)



それから、二人がある程度打ち解けるまで時間はかからなかった。

屋敷の案内で随分と喋った。ステラの事は、だいたいアポロから聞くことになった。


かなり気分屋だとか、音大生だとか。


「あいつ学校に行っているのか!?」


ブリジットは、素っ頓狂な声を出す。全く想像がつかなかった。

あの強さ、無類の戦闘技術。とても学生やっている奴には見えない…


「はい、現在三年生ですよ。飛び級なのです」


アポロは楽しそうに語る。ステラはアポロの一応主人と言うことになっている。やはり、自分の身内自慢はどこの世も同じなのだ。


笑顔全開の女の子は、目に優しい…


因みにステラは、現在18歳だそうだ。


「こちらがブリジットさんの寝室です」


いつの間にか、来客用寝室に到着していた。かなり豪勢な調度品がある部屋だった。

申し分ない、とうっすら笑みを浮かべる。


「ああ、ありがとう」


ブリジットは、柔らかく笑った。


「いいえ。必要な事があれば言ってください。ステラの部屋は、三隣になります」


アポロは一礼して、去る。夕食の用意があるらしい。すでに20:30を回っていることを考えると、一般的に遅いが。


ブリジットは、着替えもせずにベッドに寝ころんだ。

ベッドは思った以上に柔らかく、フワフワして気持ちよい…


「…ん… あれ…―――」


否応なしにやってくる眠気。抗いがたい優しい誘惑だった。

これまでの疲れが祟ったのだろうか…眠気を振り払うことも出来ない…



(そういえば…ここ三日…まともに、寝てない…――――)


そんな事を考えつつ、気持ちよい温もりに意識を手放し、夢すら見ない意識の深層まで深く深く、落ちていった。





その頃ステラは、アポロと一緒に風呂に入っていた。


湯気立ち昇る浴場は、一度に数人が入れるほど広く、その浴槽も石造り。

この邸を作った当時の当主は、どうやら親日家だったらしく、この浴室も日本の温泉をまねたとか。



アポロと一緒とはいえ、その姿は言わずもがな、猫だ。


「あ~… 明日からまた学校だ…」


ステラがボヤく。


「サボっちゃダメだよ。出席日数とか」


「母親かよ…―――」


苦笑いで突っ込むステラ。アポロはクスクスと、楽しそうに笑う。


充分に体が温まってところで、ステラは浴槽から上がった。


「先上がるね。変身したかったらしていいよ」


ステラが浴場を出ていくのを見届けてから、アポロは変身した。


どうも最近、人型のほうが楽だ…


仰向けになりお湯に浮きながら、彼の将来に想いを馳せる。


彼には普通の人生を歩んでほしい。そう願った者たちのために、自分は今ここにいて彼の世話を焼いている。


想いとしては、彼の姉か、母親役のつもりだが…


(やっぱ… 猫だと無理があるよね…)


堂々巡りの思考。所詮、自分はヒトの身ではない。ステラは何も気にしていないだろうが、それは一種の劣等感となって彼女の心にしこりを残す。


と、突然アポロはガバッと起き上がった。


「食事の用意…忘れてた!」


アポロは慌てて、浴場を出た。




走って厨房に向かう。


(乾かすのに手間取った…っ)


実は、浴場から厨房はなかなか距離があり、風呂で温まった身体も相まって汗をかいてしまう…


しかも、厨房にたどり着く必要性すらなくして…


「…――――え?」


「何走って来てんだよ…せっかく風呂にはいったのに」


ステラは半分呆れ顔のステラはテーブルに着いている… 料理はすでに並んでいた。


リビングの入り口で、アポロは唖然と立ち尽くしてしまった。


「早く食べない?」


ステラに促され、アポロは席についた。にしても、料理が凄い。栄養面でも抜かりない。


絶品だし…


「相変わらず、料理は上手いねぇ♪」


アポロがちゃかした。まぁ、実際上手いのだが。


「そりゃどーも。アポロには負けるけど。なんせ経験年数が違うしねっ」


「それはどういう意味かなぁ! 年増って言いたいのかなぁ!?」


「んなわけないだろう。アポロの料理が俺の口に合ってるってことだよ」


そんなことを言われ、ぼっと赤くなるアポロ。


不意打ちのごとく、いきなり嬉しいことをいう天然なステラに、言葉が詰まる。


ステラも気にした風もなく、黙々と食べる。




いったん深呼吸をして、アポロが喋った。


「そういえば、ブリジットさんは?」


「…寝てた。ごちそうさま」


ステラは、スタスタと厨房に食器を持っていった。


アポロは一瞬、間が空いたような気がした。恐らく無断で入って、何かあったのだろう…


敢えて突っ込まない事にした。



事実、ステラはブリジットの部屋に無断で入っていた。

だが、起こすに起こせなかったのだ。



うっすらと涙を流す彼女を起こすのは、如何にも躊躇われて…―――――









その夜中、ブリジットは訳も分からず目を覚ました。

まぁ、ヴァンパイアは夜の魔だから普通なのだが。


ポロン…


(何の音だ…?)


どこかで、楽器の音がする…


何だか悲しい旋律だ。思い出を慈しみ、また哀しむメロディー…


ブリジットは、音の出どころを探る事にした。結構近い。

弦楽器には間違いが…この優しく、心に響く音楽は一体何だろう…


部屋を出ると、場所は直ぐに分かった。


「ここは、確かステラの部屋…」



ブリジットも図太い…躊躇なく、だが、一応は静かに扉を開けた。


月明かりもない暗闇のなか、星の光だけを浴びて、ステラは窓辺にいた。


大型の楽器を優しく奏でていた。


ポロン…ポロン…


ハープの旋律は、かくも美しかった。耳に心地よく、安らぎを得られる。


さっきとは、曲調が変わっていた。曲名は全くわからない。オリジナルだろうか…


ステラは無心に奏でていた。どこか寂しげな表情で…



突然、ハープの音が止んだ。


「暗がりにいると怖いんだけど…」


ステラがブリジットに気づいたのだった。

ブリジットはステラの向かいにあるベッドに腰を下ろした。


「いい音色だな…聴き惚れていたよ」


「ハープは、年期が入るにつれて音も良くなるからね…」



ブリジットは、ステラを褒め称えたのだが…ステラはハープの音を誉めたのと勘違いをした。



「曲名は何と言うんだ?」


「知らないんだ… 母さんが教えてくれた曲なんだけど…」


ステラはハープを消した。光の粒子となってステラの中に入っていく。


ブリジットは、今になって疑問をもった。本当に今更だ。


「お前…家族は?」


「父とは別居中。母親は、死んでる」


わかりやすい程の拒絶だった。


ブリジットも話しかけることもできない。


しばし沈黙が続いたのち、耐えかねて、ブリジットは部屋をでる。


ステラが、お休みと言ったような気がしたが、返事も出来なかった。


ブリジットは自分の浅はかさを呪った。

少し考えれば、聞かない方が良いと解りそうなものだ。


あんなに哀しい旋律を奏で、曲名の時も…表情に陰りと悲痛が見えたと言うのに…



ブリジットは、自室に戻ったが眠ることは出来なかった。

いくら夜行性と言えども、寝ようと思えば寝られるはず。


ベッド環境も完璧で文句の付けようがない。

だが、眠ることは叶わなかった…


先ほどの所業で、ステラの事が気になり眠れないのだ。


ぎゅっとシーツを握り締める。


その時、扉がノックされた。


入ってきたのはステラだった。

手に何か持っている。


「あ、やっぱり起きてたか」


ツカツカとベッド脇の化粧台まで来る。



「ご飯食べてないだろう。良かったら食べないか?」


台には、サンドイッチが乗せられた。

ステラはそのまま椅子に座り、窓の外を眺めた。


「…あ、りが、とう…」


ぎこちなく礼を言い、手を付ける。


美味しい…手作りというのがまた良かった。



完食して、ブリジットはステラに問うた。


「で、何か用があるのか? まさか、夜食を渡しに来たわけではあるまい」


「いや、夜食渡しに来たんだけどさ。まぁ、そうさな。明後日にさ…うちの大学でコンサートやるんだ。良かったら聴きにこないか? 水準は結構高いと思うし」


これはある種の気遣いでもあったが、純粋に聞きに来てほしいという思いもあった。自分のハープを良いと言ってくれたから。


「まぁ、考えておく」


不遜に言い放つブリジット。多少、笑いが出て、少しは話しやすい雰囲気になった。


「さっきは…すまなかった。おまえの気持ちも推し量れず、踏み入ってしまって…」


ブリジットは素直に謝った。

当人はともかく、これで多少はスッキリする。


ステラもさほど気にしていなかった。


「ん…大丈夫。アポロがいるから別に寂しくないし。母さんはいつもここにいる」


ステラは自分の胸に手を当て、優しく微笑んだ。

人を安心させる、包み込むような笑顔。


ブリジットも笑った。

お人好しだな…と。



あのハープは受け継がれてきた形見だそうだ。高名な職人の祖母が製作した、最高の名器らしい。


それを語るステラの目は、とても輝いていた。


子供のような輝きを持った眼。弾む声。それらを可愛いと思うブリジットだった。



「じゃあ、今一曲頼んでもいいか?」


「ああ、いいよ」


ステラはハープを出した。


よく見れば、妖精が戯れるレリーフが刻まれてた。



ポロン…


よく響く音だ。ハープは古くなるほど音色に艶が出て、美しくなる楽器だ。


このハープは、作成から50年はたっている。



曲が始まった。優しく、綺麗な音色。一つ一つの音が連なり、音楽を奏でる。


ブリジットは眼を閉じ、演奏のままに想像した。

清々しいく、気持ちのよいメロディー。


それは、星明かりの草原で風が頬を撫でるイメージだった。

ブリジットが思考しているのではない。音楽がそのイメージを直接贈ってくる感覚だ。


優しさの中に、力強さがある。


すぅと風が優しく導き、手を引かれる感覚。佇む自分の手を力強く、引いていく…



この曲は物語になっているのだった。多くの楽曲は物語を持っているがそれを伝えるのは、なかなか難しい。


優れた奏者と名器のコラボレーションが生み出せる技なのだろう…



演奏が終わったのは深夜遅く。明日学校があるステラは慌てて、部屋に戻った。


こんどはちゃんと、お休みを言えた。


それからブリジットはすんなりと眠れた。



少女のような微笑を浮かべていた事は、誰も知らない…









朝、ブリジットが起きた時には、既にステラは居なかった。

当然、学校だ。


ブリジットはアポロが作った朝食を済ませ、湯浴みをした。


朝風呂はなかなか気持ちがいい。


今日の夕方にある人物との接触が約束してある。直接ではないが…


それまで寝るか、街をぶらつくかする。




(アポロでも誘うか…)



結局、出掛ける事にしたらしい。










ところかわって、ステラの大学の食堂。結構煌びやかな造りだ。

一流音大だけある。


そこでステラはクラスメイトと向かい合って喋っていた。


「おまえ、楽器なにやるんだっけ」


「あー、3つ出るから団体を言ってくれないとわかんない」


明日のコンサートの話だ。


「あれだ! クラブのヤツ」


クラスメイト、フィルが快活に言った。



「あぁ、カノンだからヴァイオリンソロだよ」


「おまえ…ソロってすげーじゃん!」


言葉は讃えてる様だが、言葉にはある種の妬みが含まれているのがわかる。


18歳で三年生のステラ。飛び級はさほど珍しくもないが、あらゆる楽器を使いこなす才能が妬みの対象になるのは、ごく自然の事だった。だから面倒なのだ…


適当にあしらっていると、一人の女の子が走ってきた。


相当慌てている。


「ステラ…大変…」


息が上がって、上手く話せてない。


「我らが歌姫が息切れか? 当日歌えなくなったらシャレにならんだろう」


フィルがからかったが、完全にスルー。


「レティ、どうした? とりあえず座りなよ」


レティはステラの隣に腰を下ろした。ステラが差し出した紅茶を飲む。


少し息が落ち着いたようだ。一度深く息を吸って、ゆっくりと吐き出す。


「で、どうした?」


再度聞くステラ。


「あのね…明日のコンサート、サークルが一つキャンセルしたんだって…それで…」


ステラはレティの言葉を手で制した。

みなまで言わずとも解る…また面倒事だ…


「俺とレティで何かやれと…」


「そう! そうなの! それも一番最後だったんだよそこのサークル! 主演者が難が負傷したとかで仕方ないけど順番くらい変えてくれたって…」


容姿端麗の美少女は、かなり複雑な心境らしい。

ステラとしては、やめてほしかった。だが、レティが言うなら断れない。


唯一無二の親友が頼むなら…の話だが。


「断れない…? って、どうせあの先生だろうな…無理か…」


ステラの言葉に無言で頷くレティ。


この大学の先生に、滅茶苦茶に強引なヤツがいるのだ…

勝手に話を進めて、こっちが返事をする前に終了という荒技をなす教授が…


ソイツに断りに行け、とは流石に言えない…あまりにも不憫だ。

引き受けるしかないのだろうが…


釘を刺しておく必要がある。


「レティ…解ってるとは思うけど、俺らが魔法遣いだってこと忘れないで。しかも特殊系統だってことも」


ステラは声量を極小に絞って言った。


ここは場所が悪い…


ステラはレティの手を引き、食堂から出た。クラスメイトを置いて…


魔法遣いは、現代では伝説になるほど希少で、一般人はその存在すら知らない。

なので、堂々と話す訳にはいかないのだ。


レティは思い詰めたような表情で黙って着いてきている。

普段は快活で、楽しい人なのだが。


今回の事をステラが嫌がっているのが解るので、自責の念に捕らわれていた。


とりあえず、人気の無いところまで来た。ここなら大丈夫だろう。



「ステラ…ごめんなさい…」


レティが突然、謝った。

ステラは一瞬マヌケな表情をしてしまった。レティが謝る意味が解らなかったのだ。


直ぐに理解し、取り繕う。


「あぁ、レティのせいじゃないし。良いよ、やるだけやろう。でも、先生解ってるのかなぁ…」


「解ってないと思うよ?」


キッパリいうレティ。

ステラが責めなかったので、いつもの彼女に戻りつつあった。


レティとステラは特殊系統の魔法遣い。音系統を操り統べる。



本来、音系統なんて存在はしないのだ。魔力はカタチなきモノには乗せられない。


乗せる、と言うのは放出系、例えば火球を打ち出すようなものとは違うのだ。


だが、この二人は可能… カタチなき音に魔力を乗せられる。


そして一度、音楽に魔力を乗せれば、攻撃、癒やし、幻想の投影などが発現する。


天使の歌声を持つ『歌姫』レティ

あらゆる楽器を使いこなす『楽師』ステラ


この二人が組めば、もはや不可能はない。それどころか、魔力を使わなくても、観客に歌や音楽のイメージを観せてしまう。


要するに、トリが二人だとそれ以前の演奏が褪せてしまい、非常に面倒なことになる可能性があるのだ。


先生は、それを解っていないらしい…




「どうしようか…曲…」


ステラもいつの間にかやる気だ。先生に解らせる良い機会かもしれない、と考えたのだ。


「流石に知らない曲は無理よね…明日だもの…」


レティも顎に指を当て、考える。その仕草がなかなか可愛いのだが、ステラは全く見ていなかった。


所見でも演奏することは可能だが、楽譜を探すのが面倒ではある。できれば知っている曲がいい。


「あっ!」


レティが何か思いついたようだった。ステラはレティに向き直る。


「アレが良いんじゃない? ほら、ステラのお母様が好きだった、日本ヤーパンの歌!」


「あぁ、アレね。良いんじゃない?」


アレなら、小さい頃から散々二人で聞いたし、レティの才なら大丈夫だろう。


「うん、じゃあ決まりね! 先生に言ってくる!」


レティはステラを残して走り去った。


あの歌…今なら意味がよくわかる。小さい頃には解らなかった気持ちが…



(これは、本当に観客の心を攫ってしまうかもしれないな… 知らんけど)



ステラも、いつまでもボサッとしているわけにもいかないので、次の講義のために移動する。


だが…手にはなにもない…


「鞄…食堂だ…」


ボケボケなステラであった…


フィルが持ってきてくれていたので、食堂まで戻らずに済んだのだが。






夕刻…ブリジットはある喫茶店にいた。約束の人物との待ち合わせのためだ。街を案内してくれたアポロは、食材の買い出しの為に別れた。


既に黄昏時。待ち合わせ時間はもう過ぎていた…

紅茶を飲みながら、イラつくブリジット。極力表情には出さないようにしているのか、見事な無表情だった。


だが…醸し出してるオーラが空気を凍らせるレベルだ…もはや殺気といって差し支えない。




「すみません! 遅れてしまって」


やっと来たか、と顔をあげるとそこには容姿端麗な小娘がいた。

巻き毛かがったブロンドのセミロング。


エーゲ海のような、綺麗な翠の眼をしたステラと同い年くらいの小娘だ。


ブリジットは正直呆気にとられた。


顔は知らなかったのだ。ただ、魔法遣いの一族で最も力が強い者だと聞いていた。それが…この小娘なのか…


「お前が…レティシア・ヴェルシェットか? 彼の歌姫の…」


「はい、レティと呼んで下さい」


レティは快活に言った。




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