エピローグ
親愛なるブリジット
今はどこにいるんだろう。相変わらず世界を飛び回っているようだけど、たまには顔を見せてね。
俺は元気でやっています。
あれから一年。色々とあった。
知っていると思うけど、レラィエとリカルドがなぜか結婚したよね。俺も式はいけなかったんだけど、そのあと二人にあったよ。とても幸せそうだった。
今度男の子が生まれるんだそうだよ。名前はナタン。レラィエの故郷の響きなんだって。きっと元気な男の子が生まれるね。
アポロも元気でやっているよ。前の手紙にも書いたけど、髪が真っ黒になっていて、初め見た時は誰だか分らなかった。それでも生きていてくれたことはうれしかったし、また一緒にあの屋敷でかけがえのない日常を生きている。
ディアスとの死闘のあと、殆ど瀕死だったみたいだけど、何とか回復をして、この屋敷で寝てたんだって。ここはアポロの領域だから回復できたんだそうだよ。彼女もあなたに会いたがっている。オーストリアに立ち寄ったら、必ず会いに来てよね。
レティは今本当にすごい。聞いているかもしれないけど、彼女は現在、国際的歌姫として世界を飛び回っている。俺も最近は会えていないんだけど。なんだか追い越されてしまったみたいだ。
俺は、まぁ、相変わらず細々とやっているよ。でも、今度ロンドンでコンサートをすることになったんだ。ハープはあまり需要がないからピアノなんだけど。それでも、やっと国際的コンサートに招かれてうれしい。
だから、聴きに来てよ。場所はあの時の劇場だよ。すっかり改修も済んだみたい。
待っている。
オセリアは元気? あんまりわがまま言って困らせないであげてよ。あなたは案外人の話をきかないんだから。でも、彼女は本当にあなたを慕っているんだね。二人で一緒に、うちに来てほしい。
それじゃあ、旅路に気をつけて。良い旅を。
あなたのステラ
手紙を出してからひと月。ステラはロンドンの舞台にいた。今日のコンサートにはリカルド、レラィエ夫婦、レティ、アポロも来てくれている。
それでも客席にはあの目立つ金髪は見当たらなかった。だが、落胆はしない。今までのコンサートにだって来てくれたことはなかったのだから。
「それでは聴いてください。私が歩いた旅路を曲にしました。Vampire Serenade―――――――――――」
ステラのピアノが奏でる旋律。
それは、いつかの旅の物語……
コンサートは盛大な拍手によって終わった。
ステラはやっと一息つき、楽屋へと戻った。あとは着替えて帰るだけ。
所属事務所は結構おおらかだから、あんまり付き合いとかうるさくない。
ファンは何とかついてくれたようだった。楽屋にわざわざ訪ねてきてくれて、花束をくれた。
率直に嬉しいと思う。
着替えも終わり、さて帰るか、というところに、またノック音が響いた。
もう波は越えたはずなのだが、まだ訪ねてくれる人がいるとは。
ステラはつとめて明るい声を出して出迎えた。
「あ…―――――――」
「やぁ、久しいな、ステラ」
そこには、懐かしい金髪の美女が…




