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Vampire Serenade 謀略のブリジット  作者: 湊 奏
第六部 黒の予言書
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第二楽章 選択の時

あの後、オセリアとあとから追い付いたレラィエの説得により、ブリジットは逃げることはなかった。


一行はホテルに移動したが、何時間も誰もしゃべらなかった。沈黙に耐えられず、誰かが口を開こうとして、そして何も言わずに口を閉じる。その繰り返しだった。



ギスギスした空気が漂う。



何も食べず、飲まず、寝もしない…


もう夕方になっているというのに、誰も何もしない…



何もできない…




「外に出てくる」


ブリジットは小さく呟いて部屋を出ていった。



その瞬間、ギスギス空気は消えてなくなった。





しばらくして、リカルドが口を開く。


「ステラよぉ。追っかけなくていいのか?」


続いてレラィエも頷いた。



でも、自分が行ったところで何になるのか…



「わかってねぇらな言うけどな。ブリジットはあんたに来て欲しいと思うぜ」



「何で…さ」



ステラの言葉に、リカルドとレラィエは顔を見合わせて溜め息を吐いた。



鈍いのか、わざとなのか、それともいっぱいいっぱいなのか…―――――


だが、こういうことは口で説明するものじゃない。



「まぁいいさ。でもよ。お前は最初からブリジットと一緒に居た仲間だろ? その仲間が辛そうにしてるのに、お前は放っておくのか?」




ステラは答えない…――――



「行ってやれよ」



それっきりリカルドは何も言わなかった。言葉を発して気が抜けたのか、そのまま横になると、あっという間にいびきをかきだした。




しばらくの沈黙の後、ステラも部屋を出ていった。


「私も…」


「貴女はいいんですの。むしろ邪魔ですわ。おとなしくしててください」


オセリアを押し止め、辛つらな言葉を笑顔で浴びせた。



ここにも鈍いのがいたようだ…










ブリジットは直ぐに見付かった。

人気のない墓地にその姿があった。



気付くとまた逃げたので、ステラは追い掛け、その腕をがっちり掴まえた。


「離せ……」


「いやだ…」


「離せといっている…」


「逃げるからいやだ」



「――――――っ!!」



バチンっ!!


乾いた音が響きわたった。


息の荒いブリジット、頬が赤いステラ…



「誰の……誰のせいだと思ってる!!」


もう、止められない…


濁流の如く、ドロドロと溜っていた気持ちが流れでる。



「私から離れたのはオセと一緒になるためか!? そんなに私が嫌だったのか!? 何故寄りにもよってオセなんだ! 当てつけなのか!! あの音色は…あの旋律は全部嘘だったのか!? 孤独でか弱い私を憐れんだというのか!!」



「ちがっ……」



「うるさいうるさい!! 聞きたくもない!!」



またしても走り出そうとするブリジット。だが、それは遂げられることはなかった。


ステラはブリジットを捕まえた。後ろから抱きすくめ、身に寄せた。


「ごめん…ごめん、ブリジット。そんなつもりじゃなかったんだ。俺はただ…姉さんと話したくて。そこにオセリアが手伝って欲しい事があるってきて。それで、興味が湧いて…」


違う。こんなものは詭弁だ。ただ、面白そうな現象に流されただけだ。ほかの誰も顧みずに。でも、真実が全てにおいて正しいというわけでは、ないのだ。


「そんなの…言ってくれれば、一緒に探したのに…っ」



「これは…俺と姉さんの問題だったから。ごめん…心配させて…」


アレは現実逃避だったのだろう。アポロが死んだ事実から目を逸らすための逃避行。それが姉を殺すことに帰結してしまった。


ブリジットはしばらくもがいていたが、それもやめた。


後ろから抱きすくめられるなど、ストラウスと共に居た時以来ではないだろうか。それは心地よく、暖かく、悪くない気持ちだった。


あれほど激しく、混とんとしていた感情が引き潮のように平静になっていく。そして緩やかな、暖かさが胸に溢れてくる。


ああ、そうか…――――――― これが…



「私が…私が悪かった…。何も知らずに…」


「ううん」


「すまない。先に謝っておく」


「は?」



と言う前に、ブリジットの唇でステラの口は塞がれた。


ブリジットの髪の香が甘い…


(いつぞやから、この頼りない少年に恋をしていたのだろう…)


孤高の姫君として、ここ数百年来、恋というものとは無縁の人生だった。もはや色あせてしまった遠いあの日が、少女だったころのあの日が最後だったろう。


忘れていた感情は、こんなにも甘美で、切なく、痛ましく、哀しく、愛おしいものなのだろうか。






どれ程長く、口付けをしていただろう…

それは永遠にも感じられた時間だった。











ホテルに帰ってきた二人は、いつも通りだった。


扉を勢いよく開けたと思ったら、


「飯食いに行くぞ!」


と笑顔のブリジットが叫んだ。



よくもまぁ、回復したものだ。



備え付けのレストランがなかったので、外食となったが、皆は初めてスシなるものを食べた。


生魚を酢飯に乗っけて、醤油で食べるアレだ。



日本の伝統料理らしかったが、かなり美味かった。板さんも日本人のお爺ちゃんだったが、その声を終ぞ聴くことはなかった。こちらの言っていることは理解しているが、寡黙な職人然とした板前だった。




そしてホテルに帰ってから。



「お前たちはどうするんだ?」


ブリジットの問掛けはリカルドとレラィエに向けられていた。



「俺はパス。コーネリアを直してないからな」


「私も今回は遠慮させていただきますわ。いろいろと… 考えたいことがありますの…」



「そうか。好きにすればいい。オセ、お前は…」



「まだ、決めかねてます…―――――」


三者三様の答えは、はたから見れば薄情だろう。世界の危機にステラとブリジットが挑むというのに、それに同行しないといっているのだ。


だが、それはある種、自分を弁えてのことでもあった。ブリジットと他の人間との力の差は歴然。ステラはともかくとしても、先の『門』での戦闘で自分たちの力が一切通用しなかった事実を痛感した。


そう、怖いのだ。どれほど理屈を並べようとも、どれほど正論を打ち出そうとも、死の恐怖にあらがうことなどできない。


勝てる気がしない、死にたくない、それは真っ当な感情だ。それを責めることは

誰にもできない。



それでもブリジットは穏やかだった。全ての覚悟が決まった顔で、微笑んでいた。




『ステラ…貴方も決めなきゃいけないこと、あるわよね』


(ルナ…―――)


『あの世界の祭壇に入るまでに、決めておきなさい』



(わかってるさ…)












陽も落ちきり、街が灯りをともす時間に、ブリジット、ステラ、オセリアの三人はストーン・ヘンジに来ていた。



あの神殿へは、レティが残した魔法陣でいける。




だが、このままステラは行くわけにはいかなかった。



決めなければならない。ここで…


このたびの中で、ステラはステラの答えを得た。混沌回帰でもなく、原始回帰でもない、ステラの理想。かなえたい願いが出来た。


理想を捨てるなと、アーサー王は言った。


あの時、ステラは自分の願いが何であるか知った。いや、ずっと変わらなかった願いを自覚した。



ブリジットと共にあれば、理想の実現はブリジットに譲りざるを得ない。




俺は…



1.願いをかなえたい。

→題名曲 Vampire Serenade へ


2.それでも、ブリジットといたい。

→終曲部 Black Chronicl へ








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