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Vampire Serenade 謀略のブリジット  作者: 湊 奏
第四章 ブリテン交響曲
13/26

間奏曲

喧騒


騒音


それは遥か下界の幻想


此処は静寂


柔かな春風


星明かりの下に彼女らはいた




屋上に灯りはなく、それでも蒼いボンテージは輝き浮かび上がる。

銀色の髪をたなびかせ、柵もない屋上の角に座っている。


と、隣に赤髪痩躯の男が来た。


「あれか、フィリス」


コクリとフィリスは無言で頷いた。その視線の先には英国が誇る劇場。


「客はどうすんだ? 流石に皆殺しにはしねぇよな? むしろするんじゃねぇぞ?」


暗殺者の名をもつ男が殺しを禁ずるとは、また奇妙な光景だ。


フィリスはまた一つ頷いて、一単語言った。


「『窓』」


一瞬の沈黙…


「マジかよ… やりすぎじゃねぇか。ちゃんと考えたのか?」


何も策を講じないアサシンが言えた義理はないと思われるが、この二人の間には些細なことだ。


「…脅かすだけ… いっぱい呼ばない」


そう呟いたあと、ダメ?、とアサシンに目で訴えてきた。


角度的に上眼使いのせいか、可愛さ三割増しだ。かなりグッとくるアサシン。少しだけ頬を紅潮させながら、仕方ないなと言いたげにため息を吐き、腰を屈め、彼女と目線を合わせ手を握った。


「良いよ。俺はフィリスに従うさ。どうしてもって言うなら皆殺しにだってしてやる。フィリスが世界を敵にまわしても、俺は最後まで味方するし、お前を守りきる。お前の望みは俺が叶えるし、フィリスのためなら外道なマネもいとわないさ。俺の全ては、俺の世界は、フィリスだけだ」


にべもなくそんなセリフを吐くアサシン。冗談でもなく限りなく本気の言葉だった。

彼にはフィリスしかなく、フィリスの無い世界は彼にとって無に等しかった。


フィリスは頷いて、また視線を劇場に戻した。

そのとき、僅に頬を桃色に染めていたのをアサシンは見逃さなかった。

雪のように白い肌が、少し色がかって可愛らしかった。


しかしアサシンはしらない。彼女が蚊の鳴く様な声で呟いた言葉を…


「…すき」


それは言った彼女も驚く言葉だった。無意識に出た言葉…


すき…それを心に響かせた。


「そういえばよ」


「!?」


唐突にアサシンが喋ったので、想いに耽っていたフィリスは過剰反応してしまった。


「あ、どうした?」


フルフルと何でも無いと言うように首を振る。彼女がそういうなら無駄な詮索をしないのがアサシンだ。


シュボッという軽快な音をさせて煙草に火を着ける。


「ふ――――っ」


溜め息のように吐き出された煙りは、一瞬にして春風に吹かれて消えた。


「でな、あの学者気取りは何処行ってんだろうな?」


アサシンはどうでも良さそうに言った。フィリスの知り合いらしいのだが、フィリスは喋らないしアッチははぐらかすで、正体を掴めてない。


解っていることは、あの学者気取りがフィリスの何かを知っていて、フィリスは嫌悪しながらも信用している、と言うことだけだ。


脅しに屈するようなフィリスではないので、その辺りに嘘はないだろう。



フィリスは、分からない、と言うように首を振った。どうでも良さそうに…


「まぁ良いけどよ。遅れて来るとか言って半日待たせられた事もあったし…」


もう一度煙草を吹かす。

仕事前に煙草はよくない。頭がはっきりしなくなる。だが、最近は何をやってもシラフでいられた。

酒に酔わないし、煙草も意味無いし、おかしいと思ってやってみた阿片とコカインのカクテルも全く効果がなかった。


あれだけ毒性も依存性も強いのに、だ。

確実におかしい…


ま、今考える事でもねぇか…



アサシンは煙草を捨て、ふみ潰して火を消した。


「…アサ、シン」


「あん?」


躊躇いがちにフィリスが喋るのに対し、アサシンは無礼極まり無い返事をする。

フィリスが自分から話しかけてくるなど、今までなかったのだ。


トントン…


自らの横を叩くフィリス。


座れってか?


アサシンはフィリスの横に腰を下ろし、外かいを眺めた。

落ちたら死ぬ高さだ。足元を米粒みたいな人が歩いていく。皆、何かに追われるように忙しく、せわしなく…


何でそんなに生き急いでいるのだろう、と。


こうして、たまにはのんびりすればいいのに。



馳ていると、フィリスが躊躇いがちに手を握ってきた。


何かコイツも変だ…


「…一緒」


「あ?」


「…ずっと、一緒」


(何故にこう脈絡なくこうなっているのだろうか。春のせいか、てゆうか、ぁあああっ!?)



何故だか思考が真っ白になる。顔が紅潮しているのがわかる。


(何だ!? 一体どうなってんだ!?)


フィリスはそれ以上何も話さない。ただ、握った手も放さなかった。













「見付けましたわ、あの女… もう逃がしませんわ…」


フィリスのいる屋上から更に上空。物理的には有り得ない場所に彼女は居た。



セミロングのブラウンの髪を束ね、左耳に大きなピアス。黒地レザーのベストに、膝丈のカーゴパンツ。肩から露出しているが、とても色っぽいものではない…


黒いレザーグローブと、全腕に刻まれた無数の刺青が禍々しい。恐らく全身を覆っているだろう…


「…まだ、もう少し待ちましょう… 確実に…」


彼女の口元が不気味に歪んだ。





また一つ


新な楽器が加わった



不況和音を掻き鳴らす


異様なピアノ



小夜曲は曲調をかえ


死と幻想と



―――と謀略を


奏でだす





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